吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。…

吉本 俊二

最近は読書感想文が多いです。ごくたまに時事問題、映画・アートなどの話題も取り上げます。趣味で撮っている写真も時々アップします。

マガジン

  • 本読みの記録(2024)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2024年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2023)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2023年刊行の書籍。

  • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)

    私が撮った写真あれこれ。なおマガジンのカバー画像は、2023年2~5月に大阪・国立国際美術館で開催された「特集展示:メル・ボックナー」の作品展示の一部を撮影したものです。

  • 本読みの記録(2021-2022)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2021-2022年刊行の書籍。

  • 本読みの記録(2020)

    ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2020年刊行の書籍。

最近の記事

昔の考え方を学ぶのは人類学的観点で〜『哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで』

◆千葉雅也、納富信留、山内志朗、伊藤博明著、斎藤哲也編『哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで』 出版社:NHK出版 発売時期:2024年4月 全三巻で西洋哲学史を概観するシリーズの一冊目。「聞き書き」形式を採っているのが入門書としては新しい手法といえましょう。斎藤哲也は主に人文思想系の本を手がけてきたライターです。本書では近代以降の哲学を理解するうえでも必須の古代ギリシアからルネサンスまでを論じています。 巻頭で哲学史を学ぶことの意義について語っているのは千葉雅也

    • 芸術は人の行く道を照らしてくれる〜『原田マハ、アートの達人に会いにいく』

      ◆原田マハ著『原田マハ、アートの達人に会いにいく』 出版社:新潮社 発売時期:2023年3月 アートをモチーフにした小説で知られる作家の原田マハがアートの世界で活躍している人々を訪ねて対話する。本書は「芸術新潮」に連載された記事を書籍化したものです。 原田が会いにいった「達人」はなるほど錚々たる顔ぶれです。竹宮惠子、美輪明宏、ドナルド・キーン、池田理代子、藤森照信、山田洋次、フジコ・ヘミング、高階秀爾、大野和士、谷川俊太郎、安藤忠雄……。 池田理代子との対話は、原田が若

      • 社会的弱者を排除し続ける社会〜『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』

        ◆森達也編著『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか? 知らぬ間に忍び寄る排除と差別の構造』 出版社:論創社 発売時期:2023年11月 まずは編著者・森達也の言葉を引きましょう。 本書では、そのような観点から11人の論者がそれぞれの専門性を活かして、日本社会の閉鎖性や排他性をあぶり出し、それを正そうとする論考を寄せています。 雨宮処凛は「見たいものしか見たくない、見たくないものはどこか人の目につかないところに隠しておいてほしい、というマジョリティ側の欲望」を現代社

        • 楽しみながら育てるもの〜『センスの哲学』

          ◆千葉雅也著『センスの哲学』 出版社:文藝春秋 発売時期:2024年4月 センスを哲学するという一見野暮な試みにトライした著者の蛮勇にまず独特のセンスを感じます。 本書にいうセンスとは何でしょうか。 まずは「直観的にわかる」ということ。たとえば絵を見て「それが何を言いたいのか、何のためなのかという意味や目的ではなく、それそのものを把握する」のがセンスというわけです。 では「そのもの」とは何か。──リズムであるというのが本書の基本認識です。 ここでいうリズムとは「形」のこ

        昔の考え方を学ぶのは人類学的観点で〜『哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで』

        • 芸術は人の行く道を照らしてくれる〜『原田マハ、アートの達人に会いにいく』

        • 社会的弱者を排除し続ける社会〜『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』

        • 楽しみながら育てるもの〜『センスの哲学』

        マガジン

        • 本読みの記録(2024)
          10本
        • 本読みの記録(2023)
          39本
        • フォト・アルバム『非決定的瞬間』(2023-)
          6本
        • 本読みの記録(2021-2022)
          8本
        • 本読みの記録(2020)
          3本
        • そして映画はつづく
          77本

        記事

          〈抵抗者〉、〈異端者〉に続く第三弾〜『時代の反逆者たち』

          ◆青木理著『時代の反逆者たち』 出版社:河出書房新社 発売時期:2024年2月発行 青木理のインタビュー集としては『時代の抵抗者たち』『時代の異端者たち』につづく三冊目になります。李琴峰、中島岳志、松尾貴史、国谷裕子、指宿昭一、奈倉有里、斎藤幸平、栗原俊雄、金英丸。今回も登場人物は多士済済。 台湾出身の作家・李琴峰は国際社会における台湾の微妙な立ち位置を指摘した後、嫌韓嫌中を唱える日本の政権や保守の人びとについて、台湾の反中的な感情を利用しているだけだと指摘しているのは耳

          〈抵抗者〉、〈異端者〉に続く第三弾〜『時代の反逆者たち』

          近過去の中に現在を見る〜『DJヒロヒト』

          ◆高橋源一郎著『DJヒロヒト』 出版社:新潮社 発売時期:2024年2月 我々はどこから来て、どこへ行くのか。その疑問は古来、多くの人間をとらえてきました。その場合、歴史の探究に向かうのが常道といえます。我らが高橋源一郎もその問題に行き当たりました。歴史に向かうといっても近過去です。文字どおり自分たちが生まれてきた時代、さらにその直前の時代にさかのぼります。そして出来上がったのが『DJヒロヒト』。高橋にとっては六年ぶりの長編です。 高橋は日本経済新聞のインタビュー記事で「

          近過去の中に現在を見る〜『DJヒロヒト』

          マイノリティーであることの自覚〜『オーバーヒート』

          ◆千葉雅也著『オーバーヒート』 出版社:新潮社 発売時期:2024年3月(文庫版) 千葉雅也としては『デッドライン』につづく二冊目の小説です。表題作に加え、川端康成文学賞を受賞した短編「マジックミラー」を併録しています。 「オーバーヒート」は大阪に住むゲイの大学教員が主人公。「今やリベラルで先進的だと見られたければ、LGBTを支持「しさえすればよい」ような空気」に苛立ちを隠しません。LGBTは普通だと考え、マジョリティの仲間に入れてくださいというお涙頂戴の懇願とは無縁のマ

          マイノリティーであることの自覚〜『オーバーヒート』

          心の深いところまで降りてゆく〜『言葉は選ぶためにある』

          ◆田中優子著『言葉は選ぶためにある ──江戸から見ると』 出版社:青土社 発売時期:2024年2月 現代日本の世相を江戸時代との比較で論評する。あるいは江戸時代からの連続として現代日本をみる。「江戸から見ると」とはそのような趣旨を表しています。江戸から見ると、日本社会が本当にあらゆる面で「進歩」したのかいささか疑わしくなってくるでしょう。 逆にいえば江戸時代の為政者の世界観や振る舞いから、現代世界のあり方を批判する視点を確保することも時に可能となります。 とりわけ印象に

          心の深いところまで降りてゆく〜『言葉は選ぶためにある』

          ネンブツは自由そのもの〜『一億三千万人のための『歎異抄』』

          ◆高橋源一郎著『一億三千万人のための『歎異抄』』 出版社:朝日新聞出版 発売時期:2023年11月 親鸞の言葉を弟子の唯円がまとめた『歎異抄』に関しては、昔からいくつもの現代語訳や解説書が刊行されてきました。親鸞の言葉をすべて関西弁に訳した光文社古典新訳文庫のような試みもあります。そこに朝日新書が新たに名乗りをあげました。本書は高橋源一郎による現代語訳と少し長めの解説を収めたものです。 かの有名な一説「善人なおもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」はどの注釈書を読んでもしっく

          ネンブツは自由そのもの〜『一億三千万人のための『歎異抄』』

          なでしこ2024

          なでしこ2024

          ハナミズキ2024

          ハナミズキ2024

          モッコウバラ2024

          モッコウバラ2024

          シンビジウム2024

          シンビジウム2024

          言葉を新しく獲得していく〜『言葉を失ったあとで』

          ◆信田さよ子、上間陽子著『言葉を失ったあとで』 出版社:筑摩書房 発売時期:2021年11月 臨床心理士として、アディクションやDVの問題と向き合ってきた信田さよ子。沖縄で若い女性の調査を続ける教育学者の上間陽子。現場と対峙する二人が語り合う。二人の対話に説得力を感じるのは、いずれも話が具体的で事実や実践の裏付けがあるからでしょう。 開巻早々に語られる信田のエピソードが象徴的。「中立的になろうとして聞いたとき、目の前に座っているひとの口調が明らかに変わった」というのです。

          言葉を新しく獲得していく〜『言葉を失ったあとで』

          ゴリラ研究者が語る人類の未来〜『スマホを捨てたい子どもたち』

          ◆山極寿一著『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』/ 出版社:ポプラ社 発売時期:2020年6月 スマートフォンなしの生活など今では考えられないものになりました。 しかし。「スマホを捨てたいと思う人は?」と問いかけたところ、多くの子どもたちが手を挙げたという挿話をもって本書の記述は始まります。 「生まれたときからインターネットがあり、スマホを身近に使って、ゲームや仲間との会話を楽しんでいるように見える若い世代も、スマホを持て余しつつあるのではないか

          ゴリラ研究者が語る人類の未来〜『スマホを捨てたい子どもたち』

          コロナ禍から見えてきたこと〜『家族と厄災』

          ◆信田さよ子著『家族と厄災』 出版社:生きのびるブックス 発売時期:2023年9月 家族とりわけ親子関係の特権化・聖域化の弊害をみてきた臨床心理士がコロナ禍で加速した女性たちの問題を可視化する。本書のコンセプトは明快です。 三密回避やフィジカル・ディスタンスの推奨で多くの人は外出自粛を余儀なくされました。その結果、どうなったか。当然ながら家事や育児などの負担が平時に比べ増加したのですが、家族で最も弱い立場に置かれた女性たちにケアの役割が集中したのです。その間、女性の自殺者

          コロナ禍から見えてきたこと〜『家族と厄災』