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記事一覧
赤い傘【#シロクマ文芸部】
赤い傘を失くして悲しむ君に、新しい傘を買うことにした。
本当は、あの傘の代わりなんてないのだけれど。
大切に大切に使っていたのに、盗まれてしまった傘。
二度と会えないあの人の、さいごの贈り物の傘。
新しい傘は、あの傘と同じ色と形をした別物。
喜んでもらえなくても良い。
土砂降りの君の心に、少しでも傘をさしてあげたい。
願いを込めて、傘の柄に空色のリボン。
赤い傘を失くした君に、新し
花吹雪【#シロクマ文芸部】
花吹雪の祝福。みどりの黒髪に白き肌の君を見て、そんな言葉が浮かんだ。
歌を詠んでは文箱に仕舞う日々。
四季がめぐり、仕舞いきれなくなった頃、歌は花吹雪の如く風に飛ばされた。
詠み人知らずの歌は、誰かに拾われ、歌集となった。
祝福の歌は、白き指に捲られた。
千年の時を経てなお、忘れじ。
逆光のみクジラ【#毎週ショートショートnote裏お題】
年末、魚崎と初日の出はどこで見ようか話し合っていた。
「いつも山の方ばかり行っているから、たまには海に行こうぜ」
魚崎はスマホで海の初日の出スポットを検索した。
「京野、A海岸のクジラを初日の出と一緒に撮影すると、その1年良い年になるってさ!」
「俺達受験だから、御利益あるかもな!」
初日の出はA海岸に決まった。
年が明け、俺達は始発の電車に乗ってA駅に着いた。
薄明るくなった空は、雲
ありがとうと言ってはいけない【#シロクマ文芸部】
「ありがとうございます」
新人だった私は、女性の先輩に仕事を教わったお礼を言った。
すると先輩は、
「川邊さん、『すいません』でしょ!」
と激怒した。
学生時代、「すいませんより、ありがとうの方が気持ち良い」という価値観で生きてきたので、ショックだった。
それ以来、私は「ありがとう」の代わりに、徹底して「すいません」を言うようにした。
何かをしてもらうにも「すいません」、すいませんの世界は