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琥珀のグラス 《詩》

琥珀のグラス 《詩》

「琥珀のグラス」

物事の終わりは 
いつだってあっけないものだ

世界は一定の原理に従い

然るべき方向に流れて行く

僕は夢の中の

彼奴の事を探し求めている

夜の闇は当たり前だけど暗いんだ

彼の歌う詩は 

ひとりで聴くには悲しみが強すぎる

危うさが勝ち過ぎている

琥珀のグラスの中に想い出を留めた

僕が大切にしていたものは 
彼の記憶だと気が付いた

妙にくっきりとした形の月と風の

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詩人の末路 《詩》

詩人の末路 《詩》

仰ぎ見た杭の滝 

凪潮の息吹が斧音に変わり

乱脈を打つ
無言の太陽に突き刺さる黒き羽根

別れを告げた螺旋雲は
戻れない刻の様

乱立した黙礼が我に似る

一律に同じ形の雨が降り続く

其の類型を
突き崩す力を有した風を待つ

少なくとも

雨粒の形など覚えてはいない

其の極めて凡庸な
色彩と形式を持つ輪郭は

記憶に留めるに値しない

ひび割れた月に触れる指先

夜空に綴る言葉は黙り続け

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透明な風 《詩》

透明な風 《詩》

「透明な風」

必要な言葉は何故だかいつも

遅れて後からやって来る

あの日 あの時

僕等に
欠けているものなんて何ひとつ無い

そう君に伝えたかった

きっと君は微笑んでくれただろう

深い緑と青い空を持つ

夏だけが其処にあった

僕等はもう二度と

この場所に来る事は無い

そして君に逢う事も

定められた場所に
向かうそれぞれの道を歩み続ける

僕は一度だけ振り返る

其処には形を持た

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夜を忘れた花 《詩》

夜を忘れた花 《詩》

「夜を忘れた花」

儚い程の細い血脈にも

生きた赤い血が流れている

何処までも繊細で美しい
君の最後の声が空に消える

熟考は深い沈黙を必要とし

夜を忘れた花の傍には

眠りと覚醒 

現実と非現実の夢が横たわる

風や水が流れる様な陰影が

僅かに不揃いな図形に映り込む

君は居なくなったけど 
君はいつでも僕の傍に居る

其処にある無言の想いが

言葉にならない声になる

喪失と喪失 

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共犯者 春を呼べ 《詩》

共犯者 春を呼べ 《詩》

深い混乱の中に
均等なふたつの光の存在を探した

失われて行く時間の感覚 

ある種の衝動が

頭上からずれ堕ちて来る

僕は夢と想像の中に言葉を探す

其れは誰か特定の人に
向けられた言葉では無い

其処に見える憂鬱な風に包まれた

名前を持たない
消えかかった田園風景

其の僕の中にある

無名の場所を埋める為の言葉だ

疵痕も残さず切り裂いた刃 

大量の現実の血が
流されたはずだった

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黄色い月 《詩》

黄色い月 《詩》

「黄色い月」

春が終わりに近づいた夜 

空気は漠然とした湿り気を帯び

薄靄に包まれた
黄色い月がふたりを見ていた

僕の隣りで不規則に美しく揺れる
君のスカートの裾 

僕は自分を失ってしまうほど

激しく君を求めていた

はぐらかす様に微笑む君の唇に

静かに指先で触れた

少しの間の沈黙 

其れは彼女の同意を意味している

全てが再び現実の位相に服すまで

彼女の長い睫毛が

僕の心の

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車椅子のロージー 《詩》

車椅子のロージー 《詩》

「車椅子のロージー」

少しの乱れも無く調和した共同体 

そんな夢の中にだけ花は咲く

誰かが誇らしい気にそう言った

無音の雷鳴と目に見えぬ雷光 

其れが脳裏に焼き付いている

僕と言う固有のただひとつの人格が

名前を持たぬ混沌 

未明の暗闇の中で
かろうじて息をしている

抽象的な命題を空に描き 

頭は現実とは別の場所にある

恵まれてるとか 恵まれて無いとか 

魅力的な微笑みを浮

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ケセラセラ 《詩》

ケセラセラ 《詩》

「ケセラセラ」

昔日の繁栄の面影は

歴史の中に埋没する

祭りの花火の様に

強固に脈打つ現生的な栄光は

時間と共に

次第に色褪せ失われて行く

栄華と挫折を
一度に曝け出す過去を映す鏡

僕等は強い共同意識を持ち

外部との混在を否定し続けていた

ゆっくりと揺蕩うごとく流れる幻想

確固たる世界観の中に共存する夢

丘の上にある大きな鐘を鳴らす

不明確な旋律が
切れ目なく流れている

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銀河鉄道を待つ夜 《詩》

銀河鉄道を待つ夜 《詩》

「銀河鉄道を待つ夜」

雲が低く流れ

山肌を静かに湿らせている

細かな緊張をはらんだ空気が

其処に渦巻く

星降る夜に 
ひとりの少女が夢を見た

矛盾と悲しみに満ちた夢を見た

其の悲しみの中に美しさと静けさを
読み取る事が出来るのは 

きっと

少女と同じ境遇を持つ人に限られる

長期的に服用している薬が

時間が経てば経つほど  

だんだんと効かなくなって来る

乱雑な
現実的要素

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水平線 《詩》

水平線 《詩》

「水平線」

果てしない偶然性が積み重なり
今が形成される

理論や整合的な説明は出来ない

全ては其の偶然性に支配されている

其れを必然と呼ぶのかもしれない

其処には
言葉に出来る何かは存在しない

言葉に出来ないものの中に
潜む自己規定

幾つかの街が通り過ぎ 

鏡の中にお前を見る

深い夜と静けさが永遠に続き

時を刻み命と死が交差する

誰にも
解き明かせない唯一が此処にある

俺と

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小さな炎 《詩》

小さな炎 《詩》

「小さな炎」

僕の足元に

寡黙な陽だまりを作り出す太陽

時間は更に緩やかに流れる

君は猫の様に

暗い穴を覗き込んでいる

其の先にあるものは

君の瞳にしか映らない

その暗い穴には

深い暗示が隠されていた

「今日死んでしまえば 明日は死なずにすむ」

君はそう言葉にして囁く

其処はいつまでも

君が居る場所じゃない

何度も君にそう呼び掛ける

僕等はきっと

何処かに行く事が出

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楽園へ続く道 《詩》

楽園へ続く道 《詩》

「楽園へ続く道」

終末を生き延びる為に

極端な仮説を立ち上げ

至福の王国への導きを説く教団

神の洗練を受け入れた人々

悪魔の手に堕ちた人々

楽園に続く道は此処にあり

天国と地獄の境目は
薄いベニヤ板で仕切られていた

僕の足音が聞こえますか?

貴方は神様ですか  

それとも悪魔ですか

其の場所には愛や
ロマンチックな幻想はありますか

青い海と白い砂浜 

穏やかな風に揺れる花

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邪悪な光 《詩》

邪悪な光 《詩》

「邪悪な光」

悲観的な色あいを帯びた幻想と

攻撃的な響きを持つ光が仄かに漂う

表に現れているのは 

ただの見せかけに過ぎない 

徹底された秘密主義 

歪んだ鏡が映し出す

恐ろしく執拗な性質を持つ陽の光

何かの始まりを意味するもの

もう全ての時が動き始めている

その光に恐怖し逃げ出した人々

次第に力を増す
その邪悪な光に眼を背けた

そして誰ひとりとして居なくなった

僕ひとり

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天国の鐘 《詩》

天国の鐘 《詩》

「天国の鐘」

真っ黒なマスカラを付けた夜

空に浮かんだ ふたつの月

人工的なアルミニウムで出来た星

メタリックなネオンの輝き

僕等の意識は
古い記憶の中を彷徨っていた

遠くで天国の鐘が鳴っている

ひとりでもいい 

心から誰かを愛する事が出来るなら

その人生には救いがある

全てが終わり 全てが始まる

待ちきれない夜がやって来る