希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋し…

希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。セトダイキ。 setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂)、お笑い全般(漫才、コント)、野球。

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警報級の恋にならないでほしい

気になったから「素敵」の意味を辞書で調べた。 久しぶりに紙の辞書をめくったら、なんだか楽しくなってよく分からない言葉の意味を見てはにやけている自分がいた。 何していたんだっけ。

    • 中華料理屋の床ぐらいベタベタしてね

      夏の始まりはいつだって蒸し暑いし、ひどく気だるい。今年もそう思っていた。あの日までは。 アパートの近くに佇む、ボロい中華料理店が家事で燃え尽きたのだ。 近頃は「町中華ブーム」もあってか土日には若い客で行列もできていたこの店。正直、炒飯も油が多いし、餃子も餡が少ないしパサついている。 過大評価極まりない。 そもそも、この店。前までは土日営業していなかったじゃないか。店主のおじいさん、かなりやせ細ってきているよ……。 無理しないほうがいいって思っていた矢先。 火事の連絡はな

      • おちこぼれ刑事の憂鬱な日常

        「今回も解決ありがとうございます……」 思えば、あの探偵のせいで、俺の人生が狂い始めた。 一年くらい前から我々の管轄で難事件が多発。しかし、それをいとも簡単に解いてしまう高校生の自称・探偵が現れた。 我々の評価は一変した。事件解決は素晴らしいことだ、しかし刑事たちの体たらくは何事なのか。 何度も呼び出しを食らっては説教を受けた。俺もその例に漏れず頭を下げる日々。 頭の十円ハゲは次第に大きな円形脱毛になり、すっかり薄くなっていた。バスタブに溜まる髪の毛が、事件解決とともに

        • 片手袋を拾ったせいで

          人には必ずターニングポイントがあると言う。 アタシの場合はどうか。もちろん。アタシにもある。 2か月前、朝の路上で片手袋を見つけたときであると確信している。 「やば、イタっ」 冬が本気を出してきた2月のことだった。 アタシは帰り道に凍りかけた片方の手袋を見つけた。 「あるある」の最たるものの一つに興味を示すほど暇ではないし、寒い。 凍てつくとかはこのことだ。 アタシは真っ赤な手袋をまたいで通り過ぎた。 周りは雪が解けて水たまりになっていたから手袋の上を通るしかなかった

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        • キセノート
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        • セトノート
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          空は太陽が似合わない

          空は小学校に上がっても、ずっとずっと泣いていた。 中学生になってもそれは変わらなかった。 高校には行かなかった。 空は生まれつき太陽が苦手だった。 だから彼女は中学を卒業して数年後。実家を飛び出して(もちろん夜に)、ネットカフェで暮らすようになった。 くすねたお金も底を尽き、近くにいた仲間に誘われるように、風俗の仕事を始めた。 太陽を浴びると、肉体も精神も削られてしまう空にとって、『夜職』は転職だと思った。 夜のネオン街をそそくさと駆け抜けて暗がりで見知らぬ誰かと密着する

          #消えないで、絵炉本

          「もしもし、もしもし。おたくの雑誌、近くのローソンになかったんやけど」 「はぁ……。少々お待ちください」 編集部宛に、高齢の男性から問い合わせの電話がかかってくる。それも一件や二件じゃない。 しわがれた声で必死にエロ本のありかを聞き出そうとしてくる。そこには狂気を超えて情熱すら感じる。 「今月号楽しみにしとったけぇ。車で乗せてってもらって買いに行くんやけどないんや。どこにある?」 小説や漫画の編集をしたかった私たちからしたら、エロ本作りは望んだものではなかったけれど、

          ハムの人

          私はハムの人だ。 しかしながら、某精肉メーカーの営業マンではない。驚かせてすまない。 私は警視庁公安部に勤める中年男性だ。 エリートといえばエリートだが、それをひけらかすことができない。なぜなら、私たちは自分が公安だと名乗ってはいけないのだ。それは親や友達にもだ。 一緒に暮らす親には警察の生活安全課のヒラと伝えてある。友達とコンパに行ったときもそれを話すことはできない。 実家暮らしのうだつの上がらない警察官。多くをしゃべらない暗そうな雰囲気。 それゆえ私はモテない。いまだ

          夏は好きだけど、苦手です

          「夏は好きだけど、苦手です」 いきなり初対面でそう言われて、おんなじだ、と思った。マッチングアプリで何気なく『いいね!』を押した彼とこんなにも会話が合うとは思わなかった。 彼は髭が少し濃くて白髪もチラついていて決して清潔感があるとは言えない。 目線も下向きで明るい雰囲気はないし、おちょぼ口で声も小さい。 ちょっと前まで、ポジティブに生きると決めていた私の表層をめくり返すような存在。 妙にふわふわしているこの感情。この人といると幸せには暮らせないと思ってしまう。 「気温が

          自堕落な私は昨日を繰り返すために生きる

          目覚めると、昨日だった。 どこかで見たことのある超常現象が起こったのだろうと想像したが、昨日もおとといもそのまた前の日も家で引きこもっていたから、昨日だということはテレビニュースの日付でしか私には証明できない。 「栄都子。食べたかったら食べてもいいし、ダメならダメでいいから。ナス、炒めたの好きだったでしょ? うん、置いておくね」 母が私の部屋の前に1食分の夕ご飯を置く。分かりやすい引きこもりの一コマだ。 散らかった部屋。 そこから漏れる木漏れ日が、ハロウィンで着たサンタ

          自堕落な私は昨日を繰り返すために生きる

          もしよければ、魚市場の喫茶店で会いませんか?

          そうか、今思えば……。彼女は、初めて会ったときから様子がおかしかったんだ。だから自然とこうなることも明白だったのに。 僕は有楽町の駅前で罪悪感に駆られていた。 1人1分ずつの会話をする回転寿司式の婚活パーティーで彼女とは出会った。 「…………はじめまして。あ、出身は北海道になっていますが、生まれて2日で千葉に行って、3歳までは台湾に親と行っていたので。なんというかその出身地は嘘です。だから嫌いなタイプ、嘘をつく人って書いてありますけど、それ私のことですよね」 ハハハハ、

          もしよければ、魚市場の喫茶店で会いませんか?

          電源の多い料理店

          よろしくない店には共通点がある。 ネズミが出る店、ネズミ講が湧く店、そして電源の多い店だ。 こういう店にはろくな客が集まらない。食糧は齧られるし、客席のムードが異様な空元気になるし、パソコンをして長居する者で溢れ返るからだ。 そんな店が我が家だった――。 A定食の魚フライは何の魚かわからないし、サワーもとにかく薄い。 売り上げも開ければ開くほど赤字になるシステムだ。まるでなぞなぞのような営業スタイルを30年している。 客は常連のみ。 今日が最終日。悲しいけれど笑って

          シャケが来る!

          「いやぁ怖い時代ね……」 「来る時まで来たね」 今日もテレビで人が襲われて亡くなったニュースが流れている。 正体は鮭だ。 ウチの近くに流れる川で鮭に襲われる事件が多発しているという。 鮭、あの鮭だ。 清流と言われる地元の川で栄養をたっぷり摂ったのか、突然変異なのか、鮭が巨大になって凶暴化したらしい。 「シャケをさんざん食べてきたけど、シャケに食べられるってどんな感じなんだろう」 「イクラとかもめっちゃ大粒なんじゃない?」 彼女はいつだってのんきだ。 溜まっている録画したバ

          いつか、またショッピングモールで会えたなら。

          どこにでもある、よくある場所。 都会の人はそう言えども、我々は吸い込まれるゾンビのごとくそこへ足繫く通う。 それは、ショッピングモールだ。 ウチのはそこいらとは違う。日本海側最大6000台が駐車できる立体駐車場がウリだ。地元唯一の娯楽で、唯一の憩いの場であることは間違いないが、最も嫌いな場所だったりもする。 「あ、そこ、空いてる」 立体駐車場の3階にタントを停める。 たぶん地方でしかやっていない自治体主催の街コンで出会った他県出身の彼氏と久々のデート。 もちろん、そこは、

          いつか、またショッピングモールで会えたなら。

          3日後の自分を自分で褒めたい

          「はじめまして。好きな食べ物はプリンパンです!」 教室が白んでいくのが今も目に浮かぶ。新生活開始8分、自己紹介でアタシの運命は決まった。 高校デビューに失敗し、クラスのカーストを真っ逆さまに落ちたアタシ。 だから、3日後のマラソン大会が憂鬱でしょうがなかった。 秋の朝はほんのり肌寒く心地よいけれど、マラソン大会のことを思うとそんな気分も薄れてしまう。 分からない。あー分からない。 マラソン大会のうまい過ごし方が分からない。友達や男子とだべって走るのが正解なんだろうけど、

          サレ妻、逢いたくて震える?

          シルクのパジャマに着替えてソファに座る。ため息をした後、今宵もルーティンが始まる。 机の上に写真を扇型に並べてほくそ笑む私。 これからゲームが始まるのだ。 そう、どの不倫相手の家に乗り込むのか決めるのだ。 カードをバラバラにしてそこから一枚引く。 今日はこいつか。 大手メーカーの常務の男。私の手札の中でもなかなかの変態だ。羽振りはよいがもうあんな気色の悪い夜の営みに付き合い切れない。 行くしかない――。 ピンポン。 世田谷の閑静な住宅街は22時を過ぎるとひと気はまばらだ。

          父が作った不倫弁当

          ここは平成の片田舎。隣の家の鶏がコケッコと鳴きわめく前から父は目覚める。毎朝、アタシと母のためにお弁当を作ってくれるのだ。 元々板前を目指していたことがあって料理が得意だということらしいが、自分も働きに出るというのに毎朝お弁当を作るのは素直に偉いな、と思う。 「今日はお前らの好きなナス炒め、入れておいたぞ」 「え、やった」 父が作るお弁当の具材は冷めてもおいしく、むしろ冷めてより味が増すように仕上げられていた。 クラスメイトがよくつまみ食いしにきたし、先生にまで褒められた