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記事一覧
ケアも寄り添いも無いとして/『私のトナカイちゃん』【ドラマの感想】
イギリス・スコットランドのコメディアン/劇作家であるリチャード・ガッドが主演・脚本・製作総指揮を担ったNetflixドラマ『私のトナカイちゃん』が凄まじかった。売れないお笑い芸人ドニー・ダン(リチャード・ガッド)がバイト先の酒場で、金が無くて泣き出しそうになっていた女性マーサ(ジェシカ・ガニング)に紅茶を奢る。その日を境にマーサはドニーのストーカーになり、次第にエスカレートしていく、というのが本作
もっとみるアニメ『ボボボーボ・ボーボボ』をちゃんと考えてみる③(52話-76話)
3月に①、4月の②に続き、ラスト。アニメ『ボボボーボ・ボーボボ』を論考する記事のシリーズ。初期の癖のあるシュールな作風から、中ボス戦を重ねて徐々に明解な笑いへと変貌していく流れについてをここまで書いてきた。
これは有名な話だが放送最後の半年はノンスポンサーで放送された。テレビ朝日と東映アニメーションが共同出資で存続させただの、スタッフキャストが身銭を切って存続させただの、真偽不明の都市伝説が出回
異化される現世/Tempalay『((ika))』【ディスクレビュー】
Tempalay、3年ぶり5枚目のオリジナルアルバム『((ika))』に取り憑かれている。19曲72分という大巨編でありながら、その多彩で奇異な楽曲たちに身を委ねているうちにいつの間にか時が過ぎる。幽玄で、猥雑で、耽美で、乱暴で、果てしのない幻想譚。紛れもなく最高傑作だろう。
本作最古のシングル「あびばのんのん」のインタビューで前作『ゴーストアルバム』についてフロントマンの小原綾斗はこう語ってい
罪の在る結末/濱口竜介『悪は存在しない』【映画感想】
濱口竜介監督による『ドライブ・マイ・カー』以来の長編映画『悪は存在しない』。その重厚な映画体験を今も反芻している。というより、あのように切断的に現実へと投げ出される結末を受け取っておきながらそうしないわけにはいかない。
緊張と緩和、長回しとぶつ切り、相反する要素を織り交ぜながら得体の知れない感情を炙り出してくる本作。全編に渡って人間の心が持つ柔らかさと不気味さの両方が喉元に突きつけられる。私なり
境界で踊る〜橋本絵莉子『街よ街よ』【ディスクレビュー】
橋本絵莉子の2ndアルバム『街よ街よ』に感動しきっている。前作『日記を燃やして』では柔らかなアレンジはアコースティックギターの音色も印象的だったが、本作はずっしりとしたグルーヴを活かしたロックバンドらしさ溢れる1作。ライブでの経験値が制作にも反映された好例だろう。
40歳を迎えた橋本が自身の年齢を「若くもないけど老いてもいない、この感じがちょうど踊り場っぽいなって。(中略)ただスッと過ぎていくだ
また甘えられる世界へ〜『異人たち』と『異人たちとの夏』【映画感想】
山田太一の小説『異人たちとの夏』を原作とし、アンドリュー・ヘイ監督がアンドリュー・スコットを主演に迎えて映画化した『異人たち』。孤独に生きる脚本家の男がふと幼少期の住んでいた家を訪れると、そこには30年前に亡くなった両親がその時のまま生活しており、かつてのような親子としての交流を行う、というあらすじだ。
このあらすじは大林宣彦監督、風間杜夫主演による1988年の日本映画版にも共通している。今回の
《あ》ASIAN KUNG-FU GENERATION 【50音で語る】
せめて週に1度はなんらかのnoteを更新したい、しかしライフステージも変わり毎週新作の何かを摂取できるわけじゃない。ということでその代わりになる、長くできそうな企画をと思ってまるで古のインターネットかのようなテーマでnoteを書いていこうと思います。
【50音で語る】ということで"あ"から"ん"まで、その頭文字から始まる自分の好きなものやことについて書いていきます。基本的には自分の根源や血肉に近
アニメ『ボボボーボ・ボーボボ』をちゃんと考えてみる②(25話-51話)
前回1-24話にあたる感想を書いた。アニメ『ボボボーボ・ボーボボ』の初期の作風、そして一貫して存在する笑いの概要についてはひと通り網羅できたつもりである。今回の記事はアニメの中盤戦にあたる25-51話についてを書こうと思う。
ところで、驚くようなニュースが飛び込んできた。ボーボボの舞台化が決定したのである。このやはり今年はボーボボと向き合うべき年だと確信したので、意気揚々とこの記事も書き進めたい
Netflix「三体」シーズン1が残してくれた関心について【ドラマの感想】
Netflixで3/21より配信開始となったドラマ「三体」が異次元の面白さであった。元々原作小説の時点で興味はあったが、ドラマ化が決まり、ならばそちらをと思い先延ばしにしておいたのが功を奏してか、全ての展開に驚嘆しっぱなしである。
宇宙スケールのSF作品であり、得体の知れない概念をドカンと突きつけてくる一方、オックスフォードの同級生5人が知力を結集して好戦的な爺さんの下で大義を果たすお仕事ドラマ
分裂し続けるもの/クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』【映画感想】
クリストファー・ノーランの12作目の長編映画『オッペンハイマー』を観た。原子爆弾の開発の中心人物であるオッペンハイマー博士を描いた本作。映画2~3本分とも言えるほどの膨大な情報量に圧倒されながら、まさにこれが劇場で観る映画体験であると強烈な実感を覚えた。
時代の異なる3つの物語を並走させる、ノーランらしい時間のコントロール演出で伝記モノである以上の語り口を提示する本作。この映画について、オッペン
歌い踊り揺れる/宮藤官九郎『不適切にもほどがある!』【ドラマの感想】
宮藤官九郎脚本によるTBS金曜22時ドラマ最新作『不適切にもほどがある!』が完結した。”好きなものを好きと言う“が基本姿勢でありながらもここ数年は総合点を重視した嗜好になっていたが、本作に関しては部分点が突き抜けすぎて自分にとってかなり好きなドラマになってしまった。
確かに雑な描写は多々あるし、正直サカエ(吉田羊)は最後までどう捉えれば良いか難しかった。しかしそれだけで見限ることは私には出来ない
断念から始まる世界/森見登美彦「シャーロック・ホームズの凱旋」【本の感想】
1月に刊行された森見登美彦4年ぶりの新刊「シャーロック・ホームズの凱旋」。本作はヴィクトリア朝京都なる世界を舞台に、名探偵シャーロック・ホームズや助手のワトソン君をはじめ、シャーロックシリーズでお馴染みのキャラクターが登場する二次創作シャーロック作品でもある。
京都の建築や地名がひしめき、登場人物のパーソナリティも少しずつ異なる“京都リミックス”が施された本作。おまけにシャーロックがスランプで謎
アニメ『ボボボーボ・ボーボボ』をちゃんと考えてみる①(1~24話)
30歳を迎え、子供が生まれ、取るべき資格試験を一応全て終え、人生が一区切りついたように思うこの折。こういう時こそ、自分のルーツに向き合おうと思い今年からNetflixで配信開始となった『ボボボーボ・ボーボボ』を観直してみたのだが、あまりにも私のポップカルチャー体験の原点すぎて感動すらしてしまった。超越、突飛、不条理。好きな表象表現の全てがあったのだ。
『ボボボーボ・ボーボボ』は澤井啓夫・作で20