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記事一覧
ケアも寄り添いも無いとして/『私のトナカイちゃん』【ドラマの感想】
イギリス・スコットランドのコメディアン/劇作家であるリチャード・ガッドが主演・脚本・製作総指揮を担ったNetflixドラマ『私のトナカイちゃん』が凄まじかった。売れないお笑い芸人ドニー・ダン(リチャード・ガッド)がバイト先の酒場で、金が無くて泣き出しそうになっていた女性マーサ(ジェシカ・ガニング)に紅茶を奢る。その日を境にマーサはドニーのストーカーになり、次第にエスカレートしていく、というのが本作
もっとみる罪の在る結末/濱口竜介『悪は存在しない』【映画感想】
濱口竜介監督による『ドライブ・マイ・カー』以来の長編映画『悪は存在しない』。その重厚な映画体験を今も反芻している。というより、あのように切断的に現実へと投げ出される結末を受け取っておきながらそうしないわけにはいかない。
緊張と緩和、長回しとぶつ切り、相反する要素を織り交ぜながら得体の知れない感情を炙り出してくる本作。全編に渡って人間の心が持つ柔らかさと不気味さの両方が喉元に突きつけられる。私なり
また甘えられる世界へ〜『異人たち』と『異人たちとの夏』【映画感想】
山田太一の小説『異人たちとの夏』を原作とし、アンドリュー・ヘイ監督がアンドリュー・スコットを主演に迎えて映画化した『異人たち』。孤独に生きる脚本家の男がふと幼少期の住んでいた家を訪れると、そこには30年前に亡くなった両親がその時のまま生活しており、かつてのような親子としての交流を行う、というあらすじだ。
このあらすじは大林宣彦監督、風間杜夫主演による1988年の日本映画版にも共通している。今回の
ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】
「へレディタリー/継承」「ミッドサマー」のアリ・アスター監督による3作目の長編映画『ボーはおそれている』。日常のささいなことで不安になる怖がりの男・ボー(ホアキン・フェニックス)が怪死した母親に会うべく、奇妙な出来事をおそれながら何とか里帰りを果たそうとするという映画だ。
本作は上記記事で監督自身が語る通り、ユダヤ人文化にある母と子の密な関係性、そして"すべては母親に原点がある"というフロイトの
メンタルヘルスと2023年のポップカルチャー②支配と名前、否認とファンダム
2023年のポップカルチャーを語る上で旧ジャニーズ事務所の問題は避けて通れない。大きなファンダムがあり、そのブランド力も桁違いであり、多くの人々が心の拠り所だったジャニーズが、その名づけ親であるジャニー喜多川氏の性加害問題によって社名変更、全タレントの移籍という事態に陥った。
性加害者の名前を冠した会社名が変わるということはそうなるべきと頭では理解していたが、いざそうなってみた時の驚きが確かにあ
メンタルヘルスと2023年のポップカルチャー①"病み"を魅せることについて
アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」が年末年始に大きく注目されたこともあってかアジカンが「転がる岩、君に朝が降る」を演奏することが増えた2023年。あの作品が描いていた、自虐をしつつも自分を強く守る姿は広く共感を呼んでいたし、高いプライドと低い自信が標榜する"自傷的自己愛"と、その姿勢と向き合った最終話は紛れもなく多くの人が胸を打たれていた。
しかし現実はそう簡単ではない。現代において、成熟した自己愛
診察場面として観る「LIGHT HOUSE/ライトハウス」
「LIGHT HOUSE」と「THE Lighthouse/ライトハウス」という作品を観た。片や星野源と若林正恭(オードリー)がお互いの悩みを語り合うトーク番組で、片やロバート・パティンソンとウィレム・デフォー演じる2人の灯台守が狂気に駆られる映画作品である。タイトルが同じゆえ検索でどうしても同時に出てくるのでついでにと2本続けてみたのだが、どちらも“2人の男の対話”を通して紡がれる作品でありなが
もっとみる欲動と享楽を巡る旅/宮﨑駿「君たちはどう生きるか」の精神分析的な1つの見立て
宮﨑駿監督の10年ぶりの新作長編映画「君たちはどう生きるか」に打ちのめされている。その幻惑的な世界と複層的な作品構造が思索に耽ることをやめさせてくれない。様々な見方がある作品であり、多くの解釈が既にある中で私も私なりに精神分析的な見方で本作を好き勝手読み解いてみようと思う。
眞人のエディプス・コンプレックス精神分析の創始者・フロイトは男児とは元来、母親に性愛的感情を抱く生物であると捉えた。ゆえに
"痛みたい"という欲望/石田夏穂「その周囲、五十八センチ」〜メンタルヘルスとポップカルチャー
精神科診療の現場において「これさえ変えれば全てがうまくいく」という強い確信に囚われている人とよく出会う。例えば整形。このパーツを理想的なものに変えれば絶対に人生がうまくいくという確信を持ちながらも整形のためにお金を稼ぐ上でトラブルに巻き込まれ精神科受診に至った人もいた。人生を良い方向に持っていくために取った選択が、自分を苦しめてしまった。
自分に自信を持つため、という選択で整形を選ぶ人もいるが「
アジカン精神分析的レビュー『ファンクラブ』/分裂する対象、解離するバンド
3rdアルバム『ファンクラブ』(2006.3.15)
『ソルファ』の大ヒット後、1年半で届けられた3rdアルバム。これまでに比べて複雑化した楽曲が増え、リズムやギターワークを工夫し、アンサンブルを丁寧に積み上げて作られたことがよく分かる。オリコン3位、累計売上は25万枚、充分なヒット作と言えるが、内容としてはかなり暗い楽曲が多い。
上記の日記でも書かれている通り、2000年代の真ん中は後藤正文
アジカン精神分析的レビュー①『崩壊アンプリファー』/初期衝動とアイデンティティ
1stミニアルバム『崩壊アンプリファー』(2003.4.23)
2002年11月にインディーズでリリースされた初の流通盤を再録などもせず翌年にキューンレコードから再発売し、メジャーデビュー作となった1枚。再販に際してテレビアニメ『NARUTO』のオープニングテーマとして収録曲「遥か彼方」が起用され、アジカンの名は広く知れ渡るようになった。
アジカンの結成は1996年の4月。2000年代に入り大
庵野秀明『シン・仮面ライダー』/仮面を被り成熟すること
庵野秀明監督が池松壮亮を主演に迎えて「仮面ライダー」をリメイクした『シン・仮面ライダー』。幼少期に平成ライダーに親しんで以降、当たり前のようにそこにあった仮面ライダーの"仮面"の役割をあらゆる角度から捉え直し、庵野秀明の作家性と色濃く繋がったとても興味深い1作だった。
仮面の役割本郷猛(池松壮亮)は出てきて早々と緑川ルリ子(浜辺美波)に"コミュ障"とラベルを貼られる。本郷は仮面を被って甚大な力を
『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に
“ひきこもり”と“過食”の映画COVID-19で自宅療養した昨夏、最初は久々の長期休暇!などと考えていたが隔離期間が1週間を過ぎると無性に寂しさが募った。映画やアニメを楽しんでいたはずが、世界から隔絶された気分に陥った。部屋に閉じこもり、生のコミュニケーションを断つことは相当の忍耐が必要であり、"ひきこもり"は覚悟がなければ成立しないことを実感した経験だった。そして、それほどの苦痛を越えてでもひき
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