富裕層・移民支配体制は富裕層を窮地に陥れる

ふざけなはんな!そんなことしたら金持ちの子弟しか大学に行けんやないか!大卒みんなアホボンになるやないか!
むしろ国公立の学費が安いから学生間に競争が起き、お金持ちでなくても優秀な人が大卒になるんやないか!マヌケなこと言いなさんな!諭吉に謝れ!

慶応大学塾長のこの発言は、アメリカの指導層(エスタブリッシュメント)の支配方法をマネしようとしたもののように思う。そしてこの支配構造こそ、トランプ氏を大統領にしてしまう原因ともなった。少し長くなるが、そのあたりを考察してみたい。

アメリカはトランプ大統領が現れる前、次のような支配構造があったと見てよいように思う。
アメリカの有名大学、たとえばハーバード大学やスタンフォード大学は、学費がバカ高いことで知られていた。貧困層ではとても支払えない学費。そのままではお金持ちしか通えない。そこで。

超優秀な人材は学費免除したりして入学させた。こうすれば、カネで入学した学生も、超優秀な同級生のお陰で、同様に優秀なフリができる。学力をカネでカモフラージュできる。この疑いは、トマ・ピケティ氏やマイケル・サンデル氏が指摘している。

ピケティ氏やサンデル氏は、それぞれの著書で、それら有名大学が果たして十分な学力のある学生を合格させているのか疑っている。十分なお金を持っている子弟を選んでいるだけではないか、寄付金が多額だから入学を許可してるだけなんじゃないか、と疑問視している。

もし彼らの見立てが正しいとすれば、次のような仕組みであると考えられる。
・金持ちは多額の学費と寄付金で有名大学に入る。
・そのお金の一部で超優秀な人材を学費免除にする。
・超優秀な同級生のお陰でアホボンも賢い人間であるかのようにカモフラージュできる。

超優秀な人材は卒業後、起業するなどして社会で活躍する。金持ちの子弟は彼らに資金提供する。超優秀な人材はその資金をもとに会社を大きくし、金持ちにお金を還元する。こうして、金持ちと超優秀な人材による支配構造が形成される。これがアメリカの支配層(エスタブリッシュメント)。

超優秀な人材は移民がかなりを占めていた。世界中から人材を募集すれば、極端に優秀な人材を集められる。金持ちのボンボンは金の力で彼らと同級生となることで学力が高いかのように、能力が高いかのようにカモフラージュでき、移民は将来の起業資金を手に入れる。ウィンウィン。しかし。

彼ら支配層が極端に富を収奪し、自分たちは放置、無視されているとハラを立てる人々が増えてきた。典型的なのが「錆びた地帯」(ラストベルト)と呼ばれた地域に住んでいる白人貧困層。彼らはアメリカの工業を支えてきた誇り高きエンジニアたちだった。ところが。

アメリカの自動車産業をはじめ、工業は日本などの発展に押されてどんどん衰退し、エンジニアとして誇りを持っていた白人層は、生活水準を維持できなくなり、貧困層に追いやられた。他方、ニューヨークの連中は、金持ちと移民が結託してアブク銭を稼いでいた。許せない思いを抱いていた。

本来民主党は、彼ら工業で働く労働者の党だった。しかし、民主党は次第に、元移民と金持ちの結託した指導層(エスタブリッシュメント)にすり寄るようになり、白人貧困層を「努力しない怠け者」と見なし、見捨てようとしていた。その怒りの存在に目をつけた男がいた。トランプ氏。

トランプ氏は、自らが金持ちであることは頬かむりして、白人貧困層の味方であることをアピールした。ニューヨークの、移民と金持ちの結託した支配層にノーを突きつけよう!そのかけ声に白人貧困層は熱狂した。ようやく俺達の怒りに気づいてくれる指導者が現れた!と。

トランプ氏は大統領になると、移民を厳しく規制し始めた。これは指導層には非常に痛い打撃だったように思う。超優秀な人材は世界中から輸入すればいいと思っていたのに、アメリカ国内の人材だけで回さねばならない。しかしそれでは十分な人材が集まらない。金持ちと移民による結託が難しくなった。

ニューヨークに住む支配層が必死になって民主党政権に戻るように運動したのは、彼らによる社会支配が壊れそうになったからのように思う。しかし彼らも、トランプ大統領の出現により、貧困層を放置していては自分の身が危ういことに気がつき始めた。

アメリカが曲がりなりに格差是正に力を入れ始めたのは、その反省があるからだろう。中国を弱体化させるためにも、安易に中国人人材を移民として受け入れられなくもなった。でも、金持ち・移民結託システムを諦め切れないでいるから、中途半端。トランプ氏が勢いを取り戻しているのは、そのためだろう。

もし次期大統領がトランプ氏になれば、金持ち・移民結託システムは致命的な打撃を受ける恐れがある。その場合、彼らも生き残りのため、トランプ氏の支持に回らざるを得ない可能性もある。アメリカは今後、大混乱に陥る可能性が高い。この事態を回避するには。

まだしも御しやすいバイデン大統領のうちに、白人貧困層の不満を解消し、金持ち・移民結託システムによる富の収奪を改め、富の再分配を強めた社会にする必要がある。果たしてそれが間に合うかどうかの正念場にアメリカは立たされているように思う。

で、冒頭の話に戻る。慶応大学塾長の発言は、トランプ氏が大統領になる前のアメリカの流儀をマネようとしたもののように思う。2000年代に入ってから、日本の富裕層に触れると、そういう話題が結構出ていた。これから日本はそうした社会になる、と平気で口にしていた。塾長はその一派なのだろう。

日本は、確かにアメリカのやり方をなぞり始めている。今の日本の大学の博士課程は、外国人だらけ。高度人材を海外から集める構造が進んでいる。もしこの状況で、塾長の言うように国立の学費を100万値上げしたら、日本人の子弟の多くが大学に行けず、低学歴化するだろう。

低学歴化した日本人は、アメリカの白人貧困層と同じ立場に置かれ、日本の富裕層と移民だけが大学に進学し、「高学歴」の称号を得て、社会の支配層に君臨する。日本の庶民は被支配層に転落し、移民は高度人材として日本の富裕層のために活躍し、富裕層は彼らを「高級奴隷」として駆使して君臨する。

それが慶応大学塾長の構想のように私は考える。トランプ氏が現れる前のアメリカをそっくりなぞる支配構造のように思う。しかしこの支配構造を選ぶことはあまりにも愚かなことのように思う。アメリカはすでにトランプ大統領の出現を招いて、大混乱しているではないか。

それに、アメリカの富裕層も安心して生きていけなくなった。赤ちゃんの世話をベビーシッターに任せようとしても、ベビーシッターは貧困層だったりする。もし彼らにぞんざいな態度をとれば、赤ちゃんが虐待される恐れがある。現実に虐待の事例があとをたたなかった。このため。

安心して任せられるベビーシッターの賃金が高騰しており、中途半端な富裕層では手が出せないほどになっているという。このため、自分たちで子どもの面倒を見なければならず、プチ富裕層くらいでは、夫も産休を取って育児参加しなければとても回らなくなってきている、と、アメリカ在住の方から聞いた。

慶応大学塾長は、自分たち富裕層と移民とで支配者層を形成すれば、貧困層をわずかな賃金でこき使えると考えているのかもしれない。しかし、あなた達の子どもは、そのために敵視されるようになるかもしれない。その恐怖がわかっているのだろうか。人を虐げれば、自らも虐げられる。

「情けは人のためならず」ということわざがある。このことわざは、竹中平蔵路線の影響のためか、「人に情けをかけたら甘やかすことになってかえってよくないから、情けはかけないほうがよい」と誤解されるようになってしまったが、本来、そんな意味ではない。

「人に情けをかければ、巡り巡って自分に戻ってくるのだから、自分のためと思って情けはかけるようにしなさい」という意味。慶応大学塾長や、彼にろくなことを話していない富裕層は、この言葉の意味を忘れているのではないか。富裕層のみが安泰な社会などあり得ない。

貧困層が苦しまないように最大限の配慮と努力をするからこそ、富裕層はその存在が許される。もし富裕層が貧困層をバカにし、酷使するつもりでいるならば、富裕層は自らのまいた怨恨のタネを、将来刈り取ることになりかねない。なんでそんな愚かなことをするのか?

塾長は「貧困層には奨学金をつければ」などと言い訳しているらしい。しかしこれは、アメリカの有名大学のやり方を踏襲しようとしているに過ぎない。超優秀な人材以外ははねつけ、富裕層はカネで解決するシステムにし、富裕層による支配を確実なものにしようという企みを感じずにはいられない。

しかしその道は、富裕層にとっても破滅の道。戦前には共産主義やナチズムを生み、富裕層は全財産を没収され、ときに殺された。自ら地獄への道を切り開くつもりだろうか?慶応大学塾長の示した道は、富裕層を地獄に突き落とすことになりかねない。

もう、そんな愚かなことは考えないほうがよい。富裕層は警察と法律とお金が自分たちを守ってくれると安易に考えているのかもしれないが、貧窮にあえぎ、富裕層からバカにされて恨みに思う人間を増やしたら、身を守ることは困難になる。

法律は、自分たちの生活を守ってくれるものだと考えるから守る。でも、自分たちの生活を苦しめる方向に機能する社会や法律を守ろうとしてくれると考えるのは安易。そしてこの安易な考えに囚われる富裕層がやや増えている様子なのが気になる。あえて言おう、それは愚かである、と。

「情けは人のためならず」のほんらいの意味に立ち戻ろう。富裕層の方々は、貧困層がこれ以上苦しまずに済むように最大限の努力をして頂きたい。それが富裕層の存在を肯定できる唯一の道なのだから。

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