見出し画像

GW知多半島を巡る旅④ お江が暮らした大野城

 愛知県常滑市に大野城という城郭跡がある。知多半島の旅から名古屋に戻る途中で気まぐれに立ち寄ってみた。なんと二代将軍徳川秀忠の正室おごうが再婚であったことを初めて知った。

 浅井長政とお市の方の娘である3姉妹の末娘「ごう」が常滑市大野の領主・佐治一成に嫁いできたのは1583年のこと。父の佐治信方が永禄初年頃に信長の妹・犬を室に迎えていることから、一成と江は従妹であり織田一門格ということになる。父・信方は織田氏による伊勢長島攻めに従軍して戦死したため、幼少の一成が家督を相続する。一成に嫁いできたとき、江は10才の幼さだったと考えられている。妹・市の生んだ浅井三姉妹の長女の茶々は豊臣秀吉の側室、次女の初は後に小浜藩主となった京極高次の正室となる。信長の親族であり、秀吉の側室を姉に持つ家柄の江が、政略結婚とはいえ、なぜ小さな所領の大野に嫁いできたのかは、信長との縁戚だということもあるが、大野という土地が戦略上の理由が考えられる。
 当時、大野は伊勢湾における重要な港町で、ここを制することが、軍事・海運ともに絶対とも言える戦略拠点だった。ここを領していたのが、江の嫁いだ佐治一成だ。秀吉はここに江を送り込むことで、佐治氏および大野を支配下に置きたかったのだろうか。

大野城跡の碑

 しかし、江が嫁いできた翌年、一成は秀吉に反旗をひるがえす。小牧・長久手の戦いで、家康方に味方したのだ。一成は小牧・長久手の戦いにおいて、家康が三河へ帰陣する途中の佐屋街道の渡しにおいて船を提供したことで、家康方に味方したと秀吉の怒りを買い、大野城を退去することとなる。当然ながら秀吉は激怒し、江と一成を離縁させる。たった3年ほどの結婚だったといわれている。その後、一成の佐治氏は没落したものの、その後、伯父・織田信包の領する伊勢へ逃れてその家中にあり、後に信長と側室・お鍋の方の娘で従妹にあたる於振を正室に迎えたと伝えられる。寛永11(1634)年9月26日、京都にて66歳で死去したという。

 小牧・長久手の戦いの頃は、険悪な関係だった豊臣秀吉と徳川家康だが、講和した以上いつまでも火花を散らす訳にはいかない。また、豊臣秀吉が天下統一を成し遂げるためには、徳川家康を臣従させる必要があったため、あの手この手で徳川家康に揺さぶりをかける。そんな豊臣秀吉に徳川家康もとうとう折れ、徳川家は豊臣家に従うことになるのだが、天下統一が手に届くところまで来た豊臣秀吉には、別の企みもあった。それは、お江を利用した政略結婚で、豊臣秀吉の側室となったお江の姉・茶々は、豊臣秀吉との間に秀頼を授かった。そして秀吉は、お江に対して「女の子が生まれたら秀頼に娶らせよ」と言って徳川家に嫁がせたのだ。その相手が秀忠で、家康の嫡子だったのだ。つまり、秀忠と結婚して授かった娘を秀頼と結婚させられれば、徳川家を丸々取り込めると考えたのだ。お江の結婚は、すべて豊臣秀吉の駒としていいように利用されただけだった。

大野城

 豊臣秀吉に利用され続け、不運な道を歩むお江だったが、徳川家に嫁ぐと状況が一変する。文禄4(1595)年に徳川秀忠と結婚してから3年後に豊臣秀吉が亡くなると、豊臣内部で対立が起こり「関ヶ原の戦い」が起こった。関ヶ原の戦いは、豊臣家の配下にある有力者達の内部対立が原因と言われている。まず行動を起こしたのは、仕方なく豊臣秀吉に臣従していた徳川家康で、もうひとり戦いの筆頭となったのが石田三成だった。三成は、豊臣秀吉への忠誠心が強く、何でも豊臣秀吉に報告してしまうため、石田三成を嫌う有力者も多く、彼らは徳川家康陣営に加わった。結果として徳川家康が勝利を収め、徳川家は一気に勢力を拡大させていった。

 この勝利は徳川家に嫁いだお江にとっても喜ばしいことで、お江の人生もこの戦いを契機に好転する。徳川秀忠の正室だったお江は、江戸城の女主人として権力を握り、再婚してから2男5女、計7人の子宝に恵まれた。特に注目すべきは、嫡子の徳川家光で、のちに江戸幕府3代征夷大将軍となる。徳川家将軍の生母となった正室はお江だけだと言われている。

 それまで波乱万丈な人生を強いられてきたお江だったが、徳川政権が強まったことで穏やかな人生へと移行した。特に、次期将軍である徳川家光を生んだため、お江は揺るぎない立場に君臨したのである。そして寛永3(1626)年、穏やかな後半生を過ごしたお江は、江戸城西の丸にて息を引き取った。

 名古屋への帰り道にたまたま立ち寄っただけの大野城跡から、以上のような学びができるとは想像もしていなかった。「人に歴史あり。史跡に新たな学びあり。」を痛感した。

大野城

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。