見出し画像

デザイナーのための7つの思考トレーニング

はじめに

担当サービス(プロダクト)のクオリティをあげる目的で考えたこと。
結論からいうと、主に構造化思考力を伸ばしていく。
それを軸にロジカルシンキング、クリティカルシンキング、ラテラルシンキングのような各種思考法の良いところを取り入れたい(〇〇シンキングはキリがないのであえて深く言及しない)。

なぜ「構造化思考」に至ったか?
「クオリティ」を構成する要素をUXの5段階モデルを参考に考えた。
戦略>要件>構造>骨格>表層

表層は主にビジュアルのデザイン。弊社のクリエイターはすでに表層が強みとして市場で認識されているはず。さらに向上させるべく組織施策は実行中。骨格も育成のフレームがある程度ある。

構造〜要件が一番ふんわりしてるのでここを狙って伸ばしたい。

画像4

経験と元々の性格でここのスキルをカバーしてるデザイナーもいるが、体系的に伸ばす動きができてない。
いくらビジュアルが強くても、構造や要件がショボかったらいいモノは作れない。
イケてない仕様をかっこいいビジュアルにしてもなんにもならない。

なにをするか?
今回は思考力とは?構造化とは?をいくつかのケーススタディと共に説明。
『ジュニアデザイナーの育成に用いて、チームとしてより創造的な時間を作り新たな挑戦ができる状態』を目標としたい。

(事前に)ありそうな質問とそのアンサー

Q. 構造〜要件はPMがイケてればいいんじゃないの?
A. デザイナーがここに強くなればもっといい組織になる、という考え。
構造〜表層まで一気通貫で作れるポジションがいると解像度が落ちずにアウトプットできるので強い。
Q. 構造化すれば良いもの作れるの?
A. 今回の話は使いどころに注意!アイデアの発想自体は感覚的でもいいし、ロジックを超越した息を呑むクリエイティブを目指すも良し。
ただ、構造化はそれを人に伝える時や実現するために必要な力であり、ロジックが求められる制作過程に効果あり。
Q. 結局どう成果と繋がるんだっけ?
A.
1 リーダーが構造化思考力を体系的に身につける
2 ジュニア育成で活用する→ジュニアの仕事のスピードと精度が上がる
3 マネジメントコストが下がり、チームがステップアップできる
Q. どういう時に役立つの?
A.
1 課題を分解して解決しやすくする
2 プレゼン時に精度高く伝えられ、説得力が増す
3 デザインへのレビュー精度が上がる(目的がブレない、抜け漏れがない、制約をチェックできる)
4 プロジェクトの意思統一ができる
5 再現性を持たせられる


具体と抽象

「抽象的でわからない」「具体的でわかりやすい」という会話をよく耳にする。しかし具体はわかりやすいがために解釈の幅が絞られて応用が利かない。具体の世界で生きてるとオペレーターとして歩むことになってしまう。

議論がまとまらない

「ユーザーの言うことを聞いてもクリエイティブなモノは作れない」
「ユーザーヒアリングこそがクリエイティブの起点だ」
「ロジカルシンキングではあっと驚くモノは作れない」
「ロジカルシンキングが無いとまともにモノを作れない」
「リーダーは発言が二転三転してはいけない」
「リーダーは臨機応変に対応を変えるべき」

これらはどちらも正しいのだが、全て抽象度が違う視点での言葉であり、そこに気づかないと話が全くかみ合わない。
前者は具体の視点で話しており、後者は抽象の視点で話している。
例えば、ユーザーの具体的な声をプロダクトに反映させまくると破綻してしまうが、ユーザーの具体的な声から課題を抽出することで有効な場合がある。また、プロダクトの立ち上げ時はユーザーの声を多数取り入れるよりかは抽象度の高いビジョンや理念を詰めていくことが有効かもしれない。
ケースバイケースで議論の適切さは変わってくるが、1番避けたいのは↑のように抽象度が異なったまま議論することであり、そのままだと永遠にまとまらない。


リアルな現場での「具体と抽象」


①依頼された仕事が抽象的なお題だったとき

抽象度が高いということは、お題の解決策に対する自由度が高いため具体化していく上での裁量があるということ。本来であればその人の仕事っぷりを発揮できるいい機会。

しかし、「依頼が抽象的でわかりません!」となってしまう人は、「じゃあ例えばさ…」で伝えられた例をそのままアウトプットにしてしまう。それでは依頼する側の想定を下回る仕事しかできない。
逆に、抽象的なお題に1人で突っ走って謎のアウトプットにたどり着いてしまう場合もある。

構造化により目的〜具体イメージをすり合わせながら進めていくのがスマートだが、場合によってはあえて構造化をスキップして感性で探究するのもいいかもしれない。
ただし、仕事上のコミュニケーションにおいて論理構造をスキップしていいのは信頼関係があるときのみだろう。

②依頼された仕事が具体的なお題だったとき

具体的な要求は抽象化して本質的な狙いを炙り出すこと。
(なぜ?を5回繰り返す話と近い)

画像4

「文字を大きくしてほしい」という要求
なぜ大きくしたい?
→『目立たせたいから』→大きさだけじゃないかも
なぜ目立たせたい?
→『タップ率を上げたいから』→目立たせなくても事前のステップで説明することで解決するかも
なぜタップ率を上げたい?
→『タップ率が上がるとKPIに効くはずだから』→このアクションじゃなくても別画面の体験を磨けばKPIにより効くかも

枝葉を切り捨てて幹を見れるか?


③分析を元にアイデアを出すとき

因果関係について。

身近な例でいうと、
「お酒を飲みすぎると、財布を失くす」は一見すると納得してしまいそうだが、これは直接の「因果」ではない。

お酒を飲みすぎる
→酔っ払う
→注意不足になる
→財布を失くす
という順序。

つまり財布を失くさないためにお酒を飲まない!という手段をとってしまうと、日常の楽しみが減る残念な問題解決になる。
直接的な因果関係を見つけられないと、「注意不足でも財布が自分と離れるとアラートが鳴るデバイスを身につける」というハッピーな解決策が生まれない(お酒を飲みすぎない方が良いのは確かにそう笑)。

また、相関関係を因果関係と間違えてしまうことにも気をつけないといけない。
「気温が高くなるとアイスクリームの売上が増える」は因果関係にある。
「気温が高くなるとプールの事故が増える」も因果関係にある。
すると、「アイスクリームの売上が増えればプールの事故も増える」も因果関係だと誤認してしまう。
あくまでも「気温の高さ」という因子があることでこの現象が起きてるのであって、アイスの売上とプールの事故数は単なる相関関係である。
そのような誤認があると「アイスクリームを販売禁止すればプールの事故が減る!」という間違えたデザインをしてしまう。

④パターンを作って提案するとき

「友達にオススメするアプリ、GmailとSNSどっちにしよう」とならないように。
これは、抽象度が違うため正しい比較ができない例である。

UIデザインの現場でいうと、
「テキストを赤くするパターンとステップを減らすパターンどっちがいいか?」のような話。
正しく抽象度を合わせると
「アクションを強く訴求して目的を達成する狙いとステップを減らして目的を達成する狙いのパターン」になる。

画像4

⑤説明するとき

構造的(論理的)に話すことで対話者を同じ目線にし、実行しやすい環境を作れる。
話す量としても、具体化と抽象化を意識できれば30分かけて具体的に伝えることもできれば1分で簡潔に要点を伝えることもできる。
このとき具体の視点しかないと全ての思いの丈を言い尽くそうとして途中で体力が切れてしまう。求められるボリュームに合わせて要約できるようになるととても強い。

基本的には、根拠と主張/結論をセットにして喋ることを意識する。
主張/結論が根拠と結びついており、その納得度や説得力があることを「論理的」だと評価されやすい。

『画面遷移のトランジションを作り込むことで、コンバージョン率が上がるだろう』
といったように、根拠と主張/結論の距離が遠いと納得感が得られにくい。

画面遷移のトランジションを作り込む
→ユーザーが遷移状態を正しく理解できる
→サービスのメインループをよりスムーズに体験してもらえる
→コンバージョン率が上がる

このように細かく分解して論理の連鎖を示すと納得度が高まるかもしれない。
しかし、連鎖が長ければ長いほど確率が低く感じられるため結局納得感が得られないこともある。「風が吹けば桶屋が儲かる」に近い。

逆に「白背景に黄色文字を配置したため、見辛くなるだろう」という論理は、論理構造は正しいが根拠と主張の距離が近すぎるため、『当たり前やんけ』となる。

ロジックツリーを整理しておくと説明がしやすく、カスタマージャーニーマップやファネルなどの構造を表した図があればよりわかりやすい。

また、コミュニケーションの上でどのレベルの抽象度が求められてるか?相手が知ってる言葉を使えているか?を常に意識しよう。
以下は同じことについて話しているが、対話者が求めている抽象度はどちらだろう?

『ボタンの幅を200ptに変更した上で、遷移先を全画面モーダルからボトムシートに変更した』
『アクションを目立たせた上で、UIのモーダル性をなるべく抑えた』

画像4

⑥話を聞くとき

根拠と主張/結論がセットになっているか気をつけて聞く。
根拠と主張/結論、またその前提への疑問を持つこと。
さらにそれぞれの繋がり(根拠と主張が本当に納得できるか?など)についても疑問を持つ。
この時、ナゼナゼ攻撃や批判的なコミュニケーションにならないように注意。
常に疑問をツッコミ続けるようなコミュニケーションは相手を追い詰めてしまう。これはまた別のスキル。

⑦行動、実行するとき

抽象度が高い目的から具体的な行動に移していく過程で、具体的な行動に集中すると本末転倒が起きることもある(効果のいいバナーにするため訴求要素に数字を入れよう→数字を1番目立たせてしまう、など)。

ただ、抽象度が高い理想論だけ会話していても前に進まない。具体と抽象は常に往復が必要。



常に論理的な作り方が求められる?

そんなことはない!はず!
冒頭でもあったが、アイデアの発想自体は感覚的でいいし、ロジックを超越した息を呑むクリエイティブを目指すのも良し。
ただ、構造化はそれを人に伝える時や実現するために必要な力で、ロジックが求められる制作過程に効果あり。

表層部分を普段から手がけるデザイナーは特に、「カタチ、色、動きのイメージ」など視覚や触覚を元に着想を得る場合が多い。
そもそも発想の種類は他にもたくさんある。

・ランダムに物事を組み合わせて発想する
・もし〇〇にしたらどうだろう?〇〇かもしれない、と妄想から始める
・常識に逆張りして考えてみる

そこで得られたアイデアに論理が後付けされるのでも、正直いいと思う。
「後付け」と言ってしまうと罪悪感を伴うかもしれないが、具体と抽象の行き来が思考に備わっていれば、カタチを作り出す過程で同時に論理構造もうっすらと見えてくる。

A:目的を構造化してロジックツリーを元にカタチを作っていくやり方
B:目的からすぐカタチをイメージし、同時に論理構造を見いだすやり方

↑どちらが効果的かを見極める。

ただ、どのアイデアの発散方法にしても、自分の脳内をそのまま表現したところで他人は理解できない。
理解してもらえるとしたら、同じ目線で同じ抽象度、同じような理解度を持つ信頼関係の元で成り立つくらいであろう。
または、そもそも周囲に理解してもらう必要がない稀な環境もあるかもしれない…。
結局ほとんどの環境では、人に伝えるための構造化が必要なのである。

最後に

構造化思考は人の感情を無視することではないし、デザインの視野が狭まることでもない。
むしろ人の感情や心理に溶け込みやすくするため、クリエイティビティを拡張するための努力だと考える。
こういうときこういう考え方があるな、という引き出しにしてもらえると良さそうだが、結局は熱量やこだわりが成果の源だったりする。人間的な「やる気」や「想い」に芯を通すプロセスを意識できるとよさそう。


参考






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?