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短編小説 「深夜のお客さん」


深夜のコンビニはいつも静かだ。LEDの明かりが冷たく降り注ぎ、時折、車のライトが差し込んでくる。僕は床を掃いてた、一方、レジにはマユが立っていた。彼女と僕はシフトが重なることが多かった。僕は時給が高いから深夜のシフト入れていた。マユはお客が少ないから深夜を選んでいた。

時計の針が夜の深さを告げる中、黒いパーカーに赤いジャージのパンツを履いた、20代くらいの女性が入店してきた。女性は入ってすぐ右の雑貨コーナーに向かった。僕はその様子を天井の鏡越しに見ながら床を拭きながら、女性がなにを買うのか想像していた。五分くらいすると、レジにいたマユが女性の方へ向かい、話をはじめた。しばらくして、マユが僕のもとに来た。

「山下さん、ゴムって持ってますか?」と、マユが真顔で聞いてきた。頭にすき家の牛丼弁当が頭に浮かんで、冷蔵庫のフックにかけた輪ゴムを浮かべた。

「家の冷蔵庫にならあるけど、今は持ってないよ」と、僕は答えた。マユは眉間にシワをよせて首を傾げた。

「避妊具を冷蔵庫に保管してるんですか?」と、マユはうすら笑みを浮かべた。目の前がグニャッと歪み、顔が熱くなり、全身がほてりはじめた。なにか言わなくては、なにか言わなくては、と頭の中で繰り返していたら、雑貨コーナーから先程の女性がこちらを伺うように顔を出した。彼女の視線が、僕たちの会話に引かれているようだった。

「まぁそう」と、僕は返しながら額の汗を拭った。マユは僕の動揺を楽しむかのように再び笑った。

「彼女、今夜はじめてするそうです。彼氏は持っていないから買いに来たそうです」と、マユは女性の事情を僕に話した。

「あぁそうなんだ。でも持ってないよ」と、僕は返した。

「そうですか。それじゃあ私のピルをあげようかな」と、マユは独り言のようにつぶやいた。マユは女性のもとへ戻っていった。僕は掃除をするフリをしながら、2人の会話を盗み聞きして頭の中でいろいろ想像していた。

会話が終わると女性はマユに頭を下げて、お礼をいいながら帰っていった。マユが近づいてきて会話の内容を話してくれた。どうやら、女性は今回は諦めて次回致すことにするそうだ。マユは笑いながら「そう言ってたけど、そうはならないよね」と、言っていた。

僕は黙ってうなずいていた。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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