お買い物日記 リトルブラックドレスの巻

とびきりおしゃれな年上の友人が、とても素敵なポップアップショップがやっていると教えてくれた。

場所は代々木上原。for herという名前で、オーナー兼バイヤーのまりこさんという女性が、1人で店に立っているという。期間限定なのは、年に数回、パリに買い付けに行ってはお店を開く、というスタイルだからとのこと。

その身軽なお店の開き方がまず素敵なのだけれど、とにかくお店の品揃えがすごいらしい。

前回、前々回と機会を逃していた私だったが、つい先日、会食の直前、すべりこみでfor herに行くことができた。

それは不思議な空間だった。足を一歩踏み入れただけで、店内に、まりこさんの「好き!」が凝縮されていることがわかる。もの1つ1つのセレクトから感じるセンスの良さはもちろんだが、ディスプレイにまで、まりこさんの魂が行き届いている感じ。

そして、どの商品を手に取っても、まりこさんはその商品と自分との出会いを詳しく話してくださる。客に購入を勧めるわけではない。その話し方は、むしろ、愛しい娘の嫁入り先を探すお母さんのよう。もの(まりこさんは自分のお店の商品を、宝物という)が一番輝く相手に引き継げるように細心の注意を払っているのだ。

見たい! と思って行ったはずの気持ちは、たちまち欲しい!に変わってしまう。でも、一方で、私を選んでくれる「もの」がなければ、当然買う気は起こらない。

奥のラックに、控えめにかけられていたワンピースが目にとまる。タグを見ると、「YvesSaintLaurent rivegauche」とあった。
YSLはSaintLaurent Paris に名前を改めて数年が経つ。知識の少ない私にも、それがデッドストックだとわかる。

生地はコットン。背中が大きく開いている。その開いた部分にあしらわれた紐がなんとも言えず美しい。

お値段は全く可愛くなかったのだけれど、美しさに見とれている私にまりこさんが説明してくださる。それは、美しさのあまり、たくさんの人が手に取ってきたものの、誰もサイズが合わなかった一品だそうだ。

確かに胸回りと腰回りが驚くほど狭い。脇に着脱用のジッパーはついているものの、生地が硬いために、多くの人が体を入れることすら叶わなかったのだと言う。

なるほど。それなら私も無理か。そう思ってラックに服を戻そうとすると、まりこさんが、「お客様なら、着られるかもしれません」と私におっしゃる。買うつもりはなかったけれど、服オタクとしては、こんなデッドストックを着れる機会がまず貴重だと、試着をしてみることにした。

いくら小さくても、入らないものは入らないんだけどな…そんな思いで袖を通そうとすると……!!! 驚くべきことに、そのワンピースはどんな既製品より、私の身体にぴったりだった…。しかも、胸がないことが、むしろ長所に見えるというおまけつき。絶妙なスカート丈も、足の太い部分を見事にカバーしてくれている。


その日私は、母が40年前にグアテマラで買い付けてきたふわっとした子供服を着ていた。身体のラインが見えたはずはないのに、服のプロの才覚というのはすごい。

お直しをせずとも、これだけぴったりくるワンピースにはそう出会えない。すこしマニッシュな感じのサンローランらしいきれいさも気に入ってしまい、私は大切な友達の結婚式に着ていくことを口実に、購入を決めた。

このワンピースは、ダリアという名前のパリのおばあさまが収集されていたものだそう。ダリアさんは、手放したものにも愛着を忘れないタイプで、まりこさんが買い付けに行ってお会いするたびに、その前に譲ったものがきちんと誰かの手に渡っているかを心配そうに尋ねるのだそうだ。「今日、ダリアに電話しちゃいたい気持ちです」とまりこさんは言った。そのワンピースは、それくらい、買う人がなかなか見つからないものだったそうだ。

1つ1つに、エピソードが詰まっているんですね。私がそう言うと、まりこさんは大きくうなずいて言った。「だから私が1人で全部やらないと、ダメなんです。お客さまに、全てを伝えたいので」。

買い付け、という行為のなかにこんな物語が広がっていたなんて…。なんだかすごく素敵な買い物してしまった。

パーティへは、キラキラ光るスタッズたっぷりのジュゼッペザノッティのピンヒールと、ZARAで発掘したカラフルな刺繍クラッチを合わせて。

夏の普段着には、キャンバスのサンダルとかごバッグを合わせたい。

これ、リゾートにもっていくワンピースにもいいかもしれない。東南アジアのリゾートにノースリーブワンピースをもっていって、レストランで寒い思いをすることって多いから。

妄想が広がる。たくさんたくさん、着たくなる服だ。
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ちなみに、そんなまりこさんの夏のPOP UP SHOPの第2弾が本日7月12日から7月17日まで開かれるそう。

営業時間は11:00〜19:30(最終日のみ18:30クローズ)。お店の場所は、渋谷区元代々木町10-1 代々木上原駅から代々木八幡方面に歩いて5分ほど、左手にカクヤスが見えたら、右手にレンガ造りの建物があります。そちらです。

以下、まりこさんのインスタもどうぞ。


http://instagram.com/forhertokyo




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