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読書感想文

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私、タケノコが書いた読書感想文など本についてのあれこれをまとめました。
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読書感想文: 細野晴臣 夢十夜

読書感想文: 細野晴臣 夢十夜

細野晴臣 夢十夜(原作:細野晴臣、著: 朝吹真理子/リリー・フランキー/塙宣之(ナイツ)、KADOKAWA、2022)

ミュージシャンの細野晴臣さんが見る夢は、だいたいはコケるような「下げ」で終わると言うがぼくの場合はオチがつかない夢がほとんどだ。
クリエイティブな仕事に携わる人の夢は面白い。夢さえもこうして作品になるぐらいなのだから。
交友関係もわかって面白い。
しかしなにしろエッチな夢を細野

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読書感想文: その世とこの世・ぼく

読書感想文: その世とこの世・ぼく

その世とこの世(著:谷川俊太郎・ブレイディみかこ、絵:奥村門土、2023年、岩波書店)

ぼく(作:谷川俊太郎、絵:合田里美、岩崎書店、2022)

『その世とこの世』の中にこんな谷川俊太郎さんの詩が出てくる。

ブレイディみかこさんとの往復書簡で構成されている本で、その中にこの詩が出てくるのだが、この「その世」という詩からブレイディさんはある一冊の絵本を想起する。
それが『ぼく』である。子供の自

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野上弥生子短編集 読書感想文

野上弥生子短編集 読書感想文

野上弥生子短編集(作:野上弥生子、編:加賀乙彦、岩波文庫、1998)

野上弥生子短編集を読んで思ったのは常に根底にあるのは登場人物たちが謙遜であるということだ。
しかし謙遜が過ぎると辛い目に遭う。言いたいことが言えずあるいはそもそも言うということ自体が考えられず、耐えて結果不幸になる人たちがこの国には多かったのだ。
読んでいてどうしてこんな意地悪な不幸な話をどんどん書くのだろうと疑問に思った時も

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GW中に六冊読む

GW中に六冊読む

このゴールデンウィーク中に六冊本を読んだ。
一日に二冊のペースで読んだ。
だが速読でもなんでもない。ほんとうの読書家だったら一日に二冊なんて当たり前だろう。
途中挫折しそうになった本も(挫折した本も)あった。
読んでいてつらかった時もあった。
本以外のことで頭がいっぱいで本など読んでいる気にならない時もあった。
だから「本ばかり読んでいた」とは言い難い。元々集中力などない人間である。
しかし自分の

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負けない力(著:橋本治) 読書感想文

負けない力(著:橋本治) 読書感想文

負けない力(著:橋本治、大和書房、2015)

例えば学校の授業でも質問があったら遠慮なくと先生から言われても誰も手を挙げなかった。そして私は授業後こっそり先生に尋ねたものである。「分からない」のが気持ち悪かったからである。だいたいの場合は先生は喜んで質問に答えてくれた。自分は後輩に対してそのことができていた(る)だろうか。たいしたことない人にはなりたくない。

果たして自分はこの本を読んでこの著

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思い出袋(著:鶴見俊輔)読書感想文

思い出袋(著:鶴見俊輔)読書感想文

思い出袋(著:鶴見俊輔、岩波新書、2010)

これは鶴見俊輔さんの遺言なのではないかと思った。

まず読んでいてあまりに鶴見さんの読書範囲が広く愕然とした。
2003年10月の時点で今まで鶴見さんが読んだ本のオール・タイム・ベストを挙げるとすると、例えば水木しげる『河童の三平』、岩明均『寄生獣』、宮沢賢治『春と修羅』、ウィルフレッド・オウエン『ソング・オブ・ソングス』、ジョージ・オーウェル『鯨の

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「わからない」という方法(著:橋本治)読書感想文

「わからない」という方法(著:橋本治)読書感想文

「わからない」という方法(著:橋本治、集英社新書、2001)

本を読んで自分が思っていることを先回りされて既に書かれているという経験はないだろうか。
私はこの本を読んでその経験をした。

自分がこの著者に対して思っていることを逐一著者自身が語るので正直感想文には困る本である。なぜかというと感想文はもうその本の中に十分すぎるほどあるからである。

この著者は馬鹿なのかと思うと自分は馬鹿かもしれない

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モーツァルトを聴く人(著:谷川俊太郎)読書感想文

モーツァルトを聴く人(著:谷川俊太郎)読書感想文

モーツァルトを聴く人 谷川俊太郎詩集(著:谷川俊太郎、絵:堀内誠一、小学館文庫、2022)

この本にはまず詩集『モーツァルトを聴く人』が掲載されている。
この詩集には、老いて呆けた母を想う詩が多く、そして自らも老いた谷川さん、と、老いとはなにかと考えさせられる。その老いにあわせてモーツァルトをはじめクラシック音楽の旋律が流れて谷川さんを癒していく。

そして詩集『モーツァルトを聴く人』全篇の後に

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愛について/愛のパンセ(著:谷川俊太郎)読書感想文

愛について/愛のパンセ(著:谷川俊太郎)読書感想文

愛について/愛のパンセ(著:谷川俊太郎、小学館文庫、2019)

『愛について』

詩:昼夜より4連から引用

時というものを見事に捉えた言葉だと思う。

『愛について』という詩で必ず連の最後に「そして私は愛ではない」と書かれて深く考えさせられる。例えば1連の

そして5連の

愛ではないのならなんなのだろうか。

『愛のパンセ』

勇気づけられる文章たちである。エッセイと詩と歌、短い劇で『愛のパ

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人生相談 谷川俊太郎対談集(著:谷川俊太郎) 読書感想文

人生相談 谷川俊太郎対談集(著:谷川俊太郎) 読書感想文

人生相談 谷川俊太郎対談集(著:谷川俊太郎、朝日文庫、2022)

谷川徹三さんの言葉、

こんな言葉親からもし言われたら絶対に嫌だ(笑)。

この谷川徹三さんの言葉が後の対談相手とのやりとりにも響いてくる。

外山滋比古さんとの言語論、鮎川信夫さんとの書くことについての悩みにも深い感銘を受けた。

鶴見俊輔さんの言葉、

谷川俊太郎さんの伯母が心筋梗塞で入院している。父谷川徹三さんも行く。伯母に

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イシュマエル ヒトに、まだ希望はあるか(著:ダニエル・クイン) 読書感想文

イシュマエル ヒトに、まだ希望はあるか(著:ダニエル・クイン) 読書感想文

イシュマエル ヒトに、まだ希望はあるか(著:ダニエル・クイン、訳:小林加奈子、ヴォイス、1994)

ライターの主人公が、イシュマエルという名のゴリラと、人類が世界を救うにはというテーマで対話するという小説である。
人類というものについて考えるヒントになる学術的な小説でもある。
人間は「取る者」(いわゆる文明人)と「残す者」(いわゆる未開人)に分かれるという。さらに私たちの文化の人間たちは、人と世

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読書感想文: オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか

読書感想文: オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか

オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか(著:中沢志保、中公新書、1995)

映画『オッペンハイマー』公開にあわせて読んだ。
オッペンハイマーという人間がよくわからなくなった。
いや、わかりたいから読んだのだが、映画を観て本を読んでますますよくわからなくなった。
矛盾している。原爆開発・核の国際管理は推進するが水爆開発は非難する。
「科学者は罪を知った」と言いながら。
そして戦後は水

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読書感想文: 現代俳句の世界16 富澤赤黄男 高屋窓秋 渡邊白泉 集

読書感想文: 現代俳句の世界16 富澤赤黄男 高屋窓秋 渡邊白泉 集

現代俳句の世界16 富澤赤黄男 高屋窓秋 渡邊白泉 集(著: 富澤赤黄男、高屋窓秋、渡邊白泉、朝日文庫、1985)

坂本龍一さんが選書した本、『坂本図書』に富澤赤黄男という俳人の句集が紹介されていた。それからこの富澤赤黄男が気になっていた。
今回その俳句を読んでみて特に印象に残ったいくつかの句を紹介してみる。

俳句はどれも全体的に繊細かつぶっきらぼうな印象である。その無骨さ、可笑しさ、悲しさ、

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おとなになるってどんなこと?(著:吉本ばなな) 読書感想文

おとなになるってどんなこと?(著:吉本ばなな) 読書感想文

おとなになるってどんなこと?(著:吉本ばなな、ちくまプリマー新書、2015)

この抜粋した箇所からは映画『シェルタリング・スカイ』の中でポール・ボウルズが言う台詞を連想しました。

「人は自分の死を予知できず、人生を尽きぬ泉だと思う、だがすべて物事は数回起こるか起こらないか。自分の人生を左右したと思えるほど、大切な子供の頃の思い出も、あと何回心に浮かべるか4〜5回思い出すのがせいぜいだ。あと何回

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