新居でやらかした

医療系の研究補助をサービスとしている会社で働いている。入社から4年目。そこそこの経験は積んできた。次の職場では遂に事業所の管理を任されることとなった。だが部下はいない。独り現場だからだ。実家からは遠いので独り暮らしもする。正直に言うとワクワクしかなかった。

引越しの準備は完璧だ。会社から与えられた引越し休暇は5日間。初日に役場で転出届は出しておいた。家電も購入して新居への配達もお願いしてある。そのため引越し業者は使わない。荷物が少ないからだ。僕の車は5ナンバーの4人乗り。最低限の物はそれで運ぶ。荷室スペースは狭いが、測量もしたうえでのGOサインだ。準備は完璧なのである。

引越し当日。朝早くから車へ荷物を詰め込む。布団とテレビ。ゲーム機本体とソフトの一部。大きなバッグには衣服を可能な限り詰め込んだ。ノートパソコンも忘れない。スマホの充電に必要なコード類もだ。まだまだ必要なものはあるが、あとは現地で調達する。「いってきまーす」。母に別れを告げて車に乗り込んだ。

新居は実家からまあまあの距離だ。車で3時間くらい。高速を使わなくても4時間あれば着いてしまう。いつもより車重があるので緊張感はあったが、問題なく現地に着けた。道順もしっかりと調べておいたおかげだ。準備は完璧なのである。

まずは新居の管理者である不動産屋を訪れた。とはいえ契約うんぬんのめんどくさい作業はすべて会社が行ってくれている。ありがたいことだ。僕は鍵を受け取るだけでいい。はんこが必要なことも知っている。ちゃんと持ってきた。準備は完璧なのである。

新居はアパートの1階角部屋だった。とりあえず荷物をすべて搬入する。リビングに布団を敷いて寝転んでみた。自由すぎる。開放感も半端ない。独りだが笑みもこぼれてしまった。

だがゆっくりはしていられない。引越の当日は忙しいのである。まずは役場へ。転入届と上下水道の手続きを済ませる。事前にシミュレーションはしておいた。準備は完璧なのである。

コンビニでは昼食を買い、ホームセンターで日用品を調達。お隣さんへのご挨拶時のお土産も購入した。買い物リストは作っておいたから買い忘れはない。準備は完璧なのである。

あとは新居で待機。タイミングよくお隣さんへのご挨拶も済ませることができた。予定通り電気屋さんとガス屋さんもやってきた。その対応が終われば引越ミッションはコンプリートなのである。僕は頑張った。すべては準備のおかげ。昨日までの自分にありがとうを言いたい。その後、気が抜けたのか、僕は布団の上で眠ってしまった。

気がつけば辺りは真っ暗。手探りで電灯のスイッチを押す。まぶしい。目が慣れてきたところで気が付いた。またやらかしてしまった。カーテンの無い部屋は、夜になると外から丸見えなのである。恥ずかしいったらありゃしない。とりあえず電気は消し、出かけることにした。

近くのスーパーで食料を調達した。初日の夜は弁当に決定。新居に帰り、外から丸見えの状態で食べた。自然と姿勢はピンとする。なぜか正座で食してた。正直、食べた気はしなかった。

準備不足であった。何度も行ったシミュレーションだったが、カーテンのそれには気が付かなかった。こんなにもカーテンが重要だとは思っても見なかったのである。引越とは奥が深い。侮るなかれカーテン。あした必ず買うと誓うのであった。

早々にシャワーを浴びて床につくことにした。きっと明日の朝は早い。おそらく日の出と共に起きるだろう。それも田舎暮らしの嗜み。本当は朝までゲームをしたかったが、仕方ないのである。


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