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頭だけの少女

 恋人が戦争にいってしまった少女がいました。
 今日帰ってくる、明日帰ってくると花びらを数えて、恋人の帰りを待ちこがれていました。すると少女のつま先が透き通り、煙のように消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ちました。
 
 やがて飛行機が空を焦がし、空が真っ赤に染まりました。少女は大きな音におびえながら、うずくまっていました。少女の膝は煙を出して消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ちました。
 
 兵隊がたくさん押し掛けて、家の中のものをすっかりもっていってしまいました。少女のお気に入りのお皿もなくなってしまいました。少女のふとももは煙を出して消えてしまいました。それでも少女は恋人を待ちました。
 
 父親が爆弾に当たって死んだと連絡がありました。少女はとても悲しみ、何度も何度も涙を流しました。少女の腰は煙を出して消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ちました。

 食べるものがなくなって、少女はとてもひもじい思いをしました。一番小さな妹は骨と皮だけになり、死んでしまいました。少女のおなかは煙を出して消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ち続けました。

 火事が起きて、少女の家は全部焼けて、崩れてしまいました。もうどこにも住む場所はありません。母親は妹を助けようとして柱の下敷きになりました。少女の肩は煙を出して消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ち続けました。

 とうとう少女は頭だけになってしまい、地面には彼女の金色のぼさぼさの髪が広がっています。大人たちはそれを気味悪く思い、兵士は足で蹴って遊びました。少女はそれでも恋人を待ち続けました。

 少女の恋人は、戦地で血だらけになって死んでいました。少女はそれでも恋人を待ち続けました。やがて、ころころ、ころころと、少女の首は恋人の元へ転がっていきました。

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