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【こころ #39】圧倒的に得意な凸で価値を届ける起業家


竹島 雄平さん


 発達障害は、得意と不得意の凸凹とも表現される。竹島さんは、凹の部分で苦しんだ経験も梃子に、圧倒的に得意な凸の部分を活かして新しい価値を届けようとしている、当事者起業家だ。


 小中高は、「人との会話を活発にする反面、集中力が持続しないネガティブな部分で苦しんだ」。当時は『発達障害』なんて診断される時代じゃなく、読み書きと理解力は段違いに早く英語も得意な一方で、「先生からは問題児扱いだった」。授業を受けず一人で本を読み、友達からイジメも受け、親からは“できないこと”ばかりを指摘される学生生活だった。

 しかし、大学入学後に入った国際交流サークルで「AD/HD※1の良いところが爆発した」。留学生の影響で英語はネイティブレベルまで上達し、米国シリコンバレー近くのコミュニティーカレッジに渡る。「リベラルな環境で、2年間のびのび勉強した」結果、中国語までマスターした。

※1「集中できない(不注意)」「じっとしていられない(多動・多弁)」「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」などを特徴とする『注意欠陥多動性障害』

 帰国後に再度 日本国内にあるアメリカ州立大学で学んだ後、新卒でコンサルティング会社に入社する。しかし、今度は「ダメなところが爆発した」。会社の体質に合わず、業務も苦手な経理という状況に「1週間で鬱寸前になり」、退職を余儀なくされた。

 精神科に半年通院して障害者手帳を取得することになるも、何とか『クローズ就労(自分の障害のことは伝えず、一般採用枠で応募し就労すること)』を目指すも、どうしても不注意などの特性が出てしまい、服薬をしても「試用期間のうちに見事にダメだった」。それなら自分でと、仲間と起業してみるが、物別れに終わった。

 改めて企業への就労を考え、就労移行支援事業所に「覚悟して1年間入所した」。そこで竹島さんは自分以外の発達障害者と出会い、「(どの人も)ちゃんと話は通じるし、ちゃんと仕事もできるのに、少しの凸凹があるだけで、なんでここまで?」と疑問がわき始める。そして、そうした当事者を「取り巻く社会側の理解をどう進めるか」という問題意識が芽生えていった。


 そんな中で、その後就職した企業で出会ったのが、ASD※2の疑いのある方だった。会話がかみ合わないどころか、自分で言ったことも翌日には忘れてしまうなど、「すごいストレスを感じた」。それ以上に、「同じ当事者でもこれだけ付き合いに苦労するんだと気付いた」。

 竹島さんの結論は、「結局はコミュニケーション。そこから理解が進まない」。竹島さんはそう話さなかったが、AD/HDの良いところが爆発したのかもしれない。竹島さんは「その人の生体情報を基に話の文脈の理解の手助けができないか」と発想するや、当事者3名で「生体反応をスマホのセンサーで検知し、脈の上昇などから怒っている悲しんでいるリラックスしているかを推定する」仕組みを実装した。

※2コミュニケーション能力や社会性に関連する困難を抱えることを特徴とする『自閉スペクトラム症』


 竹島さんの取組は現在、さらに進化した。ASDの当事者や他人とのコミュニケーションに悩んでいる方向けに、会話生成AI『ChatGPT』を使ったコミュニケーションツール(製品へのハイパーリンク)をリリースしている。

 例えば、「この文章の意味を教えてください」とChatGPTに投げると、ASDの当事者でもわかりやすいよう、複雑な会話なしに分解して具体的に説明してくれる仕様を組み込んでいる。職場での作業依頼などが理解できなければ、フローチャートの形でも示してくれる。

 また、ASDの特性として会話が横道に逸れることがあっても、仮に途中で当事者から「辛かった」などの感情表現が出ると、なだめてくれるなど愚痴聞きモードに切り替わる機能も備えている。

 その先の構想もある。ChatGPTを公開するOpenAI社は、動画生成AI『Sora』もリリースしている。これを使えば、「ASDの当事者が投げれば、ChatGPTが整理してくれ、Soraが動画に変換して、これで合っていますか?なんて確認してくれる機能も実装できる」。


 竹島さんは、ご自身の経験を通じて、色んな関係性で障害への理解や知識のギャップを見てきた。就労を目指す当事者とその定着をサポートする支援者、利用者の特性を企業に伝える支援者と企業の採用担当者、職場での当事者と上司や同僚。どの関係性でも「ギャップはまだまだ大きい」。

 現在、そうしたギャップを埋めるために、多くの場所や機会を通じて、啓発活動や研修などがコストをかけて盛んに行われている。しかし、それらの代わりに、「このツールが、当事者の特性を伝えてくれる」。竹島さんは、障害当事者、就労移行支援事業所の支援員、企業の採用担当者、職場の上司や同僚、すべての負担軽減につながると確信し、障害に関する「知識格差を限りなく0に近づける」と強調した。

 

 もちろん、このツールはまだ認知度が低く、ユーザー数も少ない。現場レベルではChatGPTなど新しいテクノロジーへの拒否感もあるかもしれない。でも「ポテンシャルがあると思っている」と竹島さんは揺るがない。現在はエンジニアも募集しており、そのための資金調達も検討しているそう。ただ、大事な条件が一つ。「当事者目線で、同じ熱量でやれる人」。

 自身の体験に最先端テクノロジーを掛け合わせて社会を変えようと挑戦する当事者起業家がいる。同じ熱量で応援しようと思える、そんな方だ。



▷ 会話生成AI『ChatGPT』を使ったコミュニケーションツール



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