【掌編小説】Twilight Legacy
初春の夕暮れ時、島にスターがやって来た。
正確には、帰ってきた、と言うべきか。西側にある島唯一の港に泊まった定期便から、水上志門は桟橋に降り立つ。その風貌は、薄手の黒いパーカーに、穿き古したデニムのジーンズ、右手にクラッチバッグをひとつ携えただけという軽装。前髪が両目を覆い隠すほどに長いこと以外は二十年前と何も変わらず、彼は右肩下がりの側弯の身体をのっぺりとよろめかせて島に足を踏み入れた。
明日は嵐になると聞いて、鈴森小春は観光案内所に併設されている八百屋の外で売っていた野菜