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しごでき列車

「この列車に乗せてください! しごできになりたいんです!!」

「なんだか見るからにポンコツだねぇ。本当に『しごでき』になりたいのかい? 一度乗ってしまったら終点まで降りることはできないよ」

「はい! 私、どうしてもしごできになりたいんです!!」

私は、乗ったものを「しごでき」にしてくれるという幻の列車を見つけ出し、車掌に直談判した。

なんとか乗車を許された私は、車掌のいうことはなんでもこなした。

「今日からおまえの名前はポンだ。わかったら返事をするんだ、ポン!」

「はい!」

「終点にたどり着くまでは、おまえには従業員として働いてもらう。車掌であるあたしのいうことは絶対だ。おかしな真似をしたらすぐ外に放り出すからね」

「はい!」

その日から、ポンは列車の従業員として働き始めた。
もちろん朝は就業時間より前に来て、列車中をピカピカに掃除する。
車掌が来る前にすべて終わらせておく。
日中は車掌のお手伝い。
忙しく仕事が終わらないときは進んで残業を申し出る。

忙しいときは、とはいったものの、大体忙しいので気づいたらほぼ毎日残業になっている。毎日、夜が明ける前から暗くなるまで働いた。

1日の時間の流れがどんどん早くなった。
列車に乗り込んで、何日経った?
終点までどれくらいかかるんだろう?
はじめのうちは、1日、2日と数えていたのに、次第に何日目かもわからなくなった。
もはや日にちなんてどうでもいい。

車掌に言われた仕事を必死にこなした。
その日に言われた仕事はその日に片付けてしまいたい。
終わらない時には休日も仕事をした。
休日に仕事をすると、溜まっていた仕事が片付く。
スッキリして、また休み明けから仕事をこなせるので癖になってしまった。

そうしているうちに休みの概念がなくなった。
毎日仕事をキリのいいところまで終わらせたい。
たまらないように次々進めたい。
車掌に頼まれる仕事はどんどん増えていった。

「これもやっておくんだよ」

「はい! 今日中に終わらせておきます」

列車に乗り込んでから、1日にこなせる仕事量は倍以上に増えた。
ポンコツだった私が、しごできに近づいている……!!

もっと、もっと、もっとしごできになりたい!!
仕事、楽しい!!








ポンがいよいよ仕事以外に興味がなくなったころ。

「そろそろ、かね」


車掌がひとりごちるのとほぼ同時に、車内アナウンスが流れ始めた。

「ご乗車ありがとうございました〜まもなく〜終点」



「終点、社畜〜社畜にとまります」




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