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プロローグ

漆黒の闇。
温かい沼に落ちたような感触。
定期的なリズムを保つ振動。
その全てが心地よく感じる。
100%の愛に守られているという実感。
無条件のやさしさに包まれている。
ずっとこのまま。
ずっとずっとここに居られたらいいのに。
その場所で私は、とろけそうなほどにぼんやりとした意識の中で、そう願っていた。

どのくらいの時が経ったのだろう。
私を守るはずの洞窟が物理的に窮屈に感じ始めてきた。
それから暫くすると、突如として闇の洞窟内の壁が動き始め、私をどこかへと運ぼうとする。
留まろうと踏ん張り抵抗するが、その流れに抗うことは出来なかった。
安寧の場所から移動させられる事に不安を感じた。
叫びたいのだけれど声が出ない。
暫くして頭がどこかに挟まり、止まった。
挟まれた頭の狭い通路の向こう側は洞窟内とは違う世界が広がっているという予感があった。
頭のてっぺんに僅かに感じる外気は明らかにこことは違っている。
また壁が動き始め、私を洞窟の外へと押し出そうとする。
が、少し先へ進むもののその先の通路は狭すぎてまた元の位置に戻ってくる。
〈洞窟の外へ出なければ〉
突然、何かの記憶のようなものが私にそう思わせた。
そして私は狭い通路を抜けようと踠いた。
進みそうで進まない、出られそうでまた引き戻される。
そんな状況が続いた何度目か、押し出そうとする闇の洞窟の意思と私の出ようとする動きのタイミングがぴたりと合った。
頭が洞窟から飛び出して眩しい光を浴びた。
私は一瞬、自分の頭が爆発してしまったのではないかと錯覚した。
そうではないと気付くのと同時に息苦しさを感じた。
呼吸が出来ない。
どうしたら良いのか判らずパニック状態になる。
戸惑う私を余所に、洞窟の壁は尚も私の体を押し出そうとしている。
何者かの手によって頭を引っ張られ洞窟を抜け出した。
が、未だ呼吸が出来ず苦しくて死にそうだ。
全身に恐怖が走る。
大声で叫ぶ。
今度は声が出た。
すると体内に一気に空気がなだれ込んで来た。
〈助かった〉と思った。
すると今度は猛烈な空腹感に襲われた、また大声で叫ぶ。
涙が出た。
私は布にくるまれたあとで誰かの胸に抱かれた。
口に何かを差し込まれる。
私はそれを勢いよく吸った。
温かく僅かに甘い液体が口内に満ちてゆき、それを必死に飲み込む。
〈私はこれまでこの人に守られていたんだ〉と気付く。
そして〈いつか私はこの人のことを守らなければいけない日がやってくる〉という事も感じた。

兎にも角にも命がけの旅は一先ず終わり、私は大事な人に抱かれながら気を失うように深い眠りに落ちた。

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