見出し画像

【恋愛小説】通じる (最終話)


トイレで、何度も顔を洗った。
ようやく涙が止まった頃、僕はトイレを出た。
理美を見ると、長椅子に崩れるように横になり、僕のジャケットを肩までかぶり、ぐっすりと寝ていた。
よっぽど疲れたのだな。
それはよく分かった。
理美が横になったので、僕は隣の長椅子に腰かけた。
座ってすぐに気がついた。
腹が減った。
そう言えば、昨日夜中に帰った時に買ってきた焼きそばを食べていない。
昨日は昼も、デスクでコンビニで買った卵サンドを食べたきりだった。
腹が減った。
 
1階の外来受付のロビーの端にコンビニがある事は知っていた。
理美を見た。ぐっすりだ。
僕は、一人でコンビニへ向かった。
 
売り場を見ると、腹が減り過ぎて、何が食べたいのかが、よく分からない事に気づいた。ああ、そうか。僕は、こんなに無理していたんだ…
すごく実感した。
 
ああ、そうだ。理美もお腹が空いているのではないか?
今度は、理美の事も考える事ができた。
何かを買っていこう。
 
理美の分の事も考えると、売り場を見る目が違ってきた。
理美は何を食べたいだろう?
 
この3か月近くに間で、何度も一緒に食事をしたが、理美が何が好きなのか、あまり気にしたことがなかった。
嫌いなおかずは、少しなら分かる。
理美は、川魚が全般的に嫌いだ。
後、明太子や、イクラなど、魚卵が苦手だ。だから、シシャモも食べられない。
 
野菜は何でも好き。パクチーだって、むしゃむしゃ食べる。
 
辛いのは、苦手。焼肉屋に行って、タレに豆板醤も入れたくない。
 
さあ、困った。何を買おう。何を食べよう。
 
パン類は、一番最初に候補から外した。
僕が昨日の昼にコンビニのサンドウィッチを食べたからだ。
 
本当は、さっきから味噌ラーメンから目が離せなくなっている。
美味そうだし、今、一番食べたいかも…
 
しかし、あの手術室前の待合スペースで、僕一人、麺をズルズルと啜るのは如何か?そう考えると躊躇するし、自然と選択肢から除外された。
 
やっぱりおにぎりにしよう。
それは決めた。後は、具を何にするかだ。
 
さっき言ったように、理美は魚卵を食べない。だから、明太子もたらこもいくらも排除できる。子持ち昆布だって、外してもいいだろう。
しかし、それを除いても、まだだいぶ選択肢がある。
どうしよう?
理美は、ツナマヨを食うか?いや、ツナマヨは食べてるのを見た事ねえなあ。あっ、マヨネーズが苦手って言ってなかったっけ…違ったっけ???あいつ、焼肉、好きだったよなあ。じゃあ、カルビのおにぎり?朝から、しかも、この疲れてる中で?ちょっとキツクね?んんんん…悩む…
 
自分が食べたいものを先に選ぶことにした。
 
僕は絶対に日高昆布を取る。一人、2個、買おう。じゃあ、僕はもう一個。悩んだ挙句、やっぱり鳥五目にした。本当は大好物なんだが、些かカロリーが高いので、普段は控えているのだが、今日は食べたいものを食べる事にしようと思ったからだ。
理美の分。高菜は無難だと思った。そして、定番のシャケにした。
そして、リスクヘッジのために、塩むすびを一個と、稲荷寿司を一個、追加した。
どれかがダメでも、どれかを採用してもらえればよいし、残ったヤツは僕が食べてしまうか、持って帰る。
 
全部をかごに入れ、小さいペットボトルの温かいお茶を二つを取り、レジに並んだ。
買う時に、レジでホットコーヒーを二つ、注文した。
理美は大のコーヒー好きだ。ブラックを一日に何杯も飲む。
最悪、理美がどのおにぎりも食べたくなくても、コーヒーだけは絶対に嫌がらないだろう。
 
おにぎりとお茶を袋に詰めてもらい、コーヒーのカップを両手で持ちながら、僕は手術室がある3階へと戻っていった。
 
 

席に戻ると、理美は起きていた。寒いのか、僕のジャケットをかぶったままで、首だけ出して、うつろな目で前を見ていた。きっと、何か考え事をしているのだろう。今、理美は何も見ていない。
「起きた?」少し離れたところから、僕は声を掛けた。
「ああ、まささん、どこへ行ってたの?」
「朝飯をね、買ってきた。おにぎり、お茶も、コーヒーもあるよ。食べる?」
「ありがとう。お腹空いてたの。」
「だろう、だからさ。僕も、腹減っちゃって。理美が何が好きかが分からなかったから、色々買ってきた。好きなの、選びなよ。」
「いいの?」
「いいさ。さあ、好きなの、選んで。」
理美は、鳥五目と、稲荷寿司を取った。
「これ、食べたい。いい?」
とっ、鳥五目! それ、俺の好物!
「いいに決まってるさ。その二つだね。じゃあ、僕は、それ以外のを食べよう。」
僕は、日高昆布と、高菜にした。
二人で、おにぎりをパックから出し、食べ始めた。
「しかし、意外だな。」
「何が?」
「理美は、白いご飯が好きなんだとばかり思ってた。」
「ああ。ナオちゃんの躾のためにね、白いご飯を食べるようにしてるの。ホントは、私、白いご飯、あまり好きじゃなくて。」
「そうなんだ?」
「そう。うちがね、すごい歴史のある料理割烹なのね。お父さんが総料理長で、お母さんが女将。だから、うちはいつも夕食は、私と妹と二人だけで食べてたの。いつも、白いご飯と、お味噌汁、そして、賄で作ったおかず。いつも、その繰り返し。カレーライスとか、オムライスとか、スパゲティとか、そんなんは絶対に夕食では出てこない。休みの日だって、家族で一緒に外食とかはなくて。だから、白いご飯、あんまり好きじゃないの。」
「そうだったんだ。じゃあ、コンビニのおにぎりは、絶対に白いご飯じゃないヤツ買うの?」
「そう、大体ね。」
「一番好きなヤツは?」
「オムライスみたいなヤツ。ケチャップライスのおにぎりを薄い卵で包んでるの。」
あっ、ああ、見た事ある。こんなの、誰が買うんだと思ってたヤツだ。
「知ってるよ。じゃあ、二番目は?」
「チャーハン。」
「後は?」
「そうねえ、季節によるけど、ウナギのヤツも好き。後、焼サバの入ってるヤツも好き。」
「徹底してるねえ。」
「忘れてた。一番は、オムライスじゃない。オムライスは二番目よ。一番は納豆巻き。」
もはや、おにぎりですらない。
覚えておこう。
納豆巻きが一番、オムライスが二番、三番目はチャーハンだ。
 
僕は、自分の分を食べた後、残ったシャケと、塩むすびも食べた。
きっと、これらは理美は食べないからだ。
 
お腹は空いていたが、これはちょっと食べ過ぎだ。
 
食べ終わると、二人でコーヒーを飲んだ。
 
予定では、後1時間ほどでナオちゃんの手術は終わるはずだ。
 
 

コーヒーが思いのほか美味く、理美にお代わりをねだられて、また買いに行ったりしたら、あっという間に1時間が経った。
 
それから、10分を過ぎた頃、ナオちゃんの手術室から、術着を着た看護士が出てきた。
「無事、終わりました。15分後に、カウンセリング室で先生から説明がありますので、もう少し、ここでお待ちください。」と言われた。
 
無事に… 終わった… 身体中の力がいっぺんになくなりそうになった。
ここが無重力だったらいいのに…
そしたら、フワフワと浮いていられる。
 
理美は、今まで張りつめていた糸が切れたようだった。涙が溢れ、手が震えていた。
僕は理美の肩を抱き、スツールに二人で腰かけた。
「良かったね。」
「…良かった…」
 
二人で、ひっそりと喜びをかみしめた。
 
座っていると、看護師に呼ばれて手術室の横にあるカウンセリング室に入った。
中には、術着のままの先生が机の前に座っていた。
 
「あの、お世話になります。三沢です。」と理美が言った。
「執刀医の小野崎です。お父さん、お母さんですか?」
「はい。」
「じゃあ、早速手術の概要を説明しましょう。」
 
先生の話は短かった。
 
鼻の奥にある穴は、穴の中に抗生物質を塗りこんでから塞いだ事。それで、当面は何事もなく暮らせるが、もう少し大人になり、鼻の穴が大きくなってから、もう一度手術した方が良い事。
そして、脳炎の可能性については、手術後、麻酔が取れ、熱が引いた時にしか分からない事。もし、熱が術後もずっと続くようであれば、脳炎のリスクが高まる事を知らせた。
「兎に角、我々としては、直海ちゃんが、麻酔が取れた後、どれぐらい意識がはっきりしているかに注目するしかないと思っております。ですから、直海ちゃんが麻酔が取れたら、お父さん、お母さんは必ずそばにいて、話しかけてあげてください。いいですか?」
「もちろんです。」
 
ナオちゃんが、ストレッチャーに乗り、病室へと運び出された。
僕と理美も後に続いた。
 
 

病室に着き、蛍光灯の白い光の下では、ナオちゃんの顔がよく見えた。
顔が動かないように、両サイドに小さな枕のようなもので半分固定されているナオちゃんは、キチンとあおむけの姿勢だ。
手術していない方の鼻の穴には細いビニールのチューブが刺さっている。手術した方には、半透明の絆創膏が軽く当てられている。鼻を全部塞いでいるようではなく、呼吸は苦しくなさそうだ。
 
安心したのは、その寝顔だった。
よく子供の寝顔を「天使のよう」と表する事があるが、その天使は今、ここにいる。
 
なんと、安らかな事か。
 
小さい寝息が聞こえている。
幸せの息。生きている証拠。
 
僕も理美もホッとした。
そして、理美はナオちゃんの手を握り、上半身をベッドに預け、ナオちゃん、ナオちゃん、良かったねえ、ナオちゃん、元気になろうねえ、と、呪文のように唱え始めた。
そして、声が途絶えた。
理美も寝息を立て始めた。
 
僕は、そんな二人をずっと見ている事にした。
 
 

異臭がした。
臭くて、鼻をつくような匂い。
び、びえーーーーん。
すぐにぐずるような泣き声。
理美が起き、ナオちゃんの上半身に覆いかぶさり、顔を見た。
低く泣くナオちゃんの様子を見て、理美はナオちゃんの布団を剥いだ。
ナオちゃんはオネショをしていた。しかも大量に。
どうやら手術後にオムツをつけ直すのを忘れてしまったようだった。
理美は、「ナオちゃん、大丈夫よお。沢山おチッチ出て良かったねえ。かちこかったねえ。」と、泣くナオちゃんを落ち着かせるように言いながら、ナースコールを押した。
応答があり、すぐに看護士が二人で替えのベッドを運んできた。
ナオちゃんの下半身を蒸しタオルで拭いた後、新しい寝間着に着替えさせ、新しいベッドに移した。
拭いてもらって気持ちが良かったのか、ナオちゃんは、キャッキャとはしゃいで、訳の分からない事を早口で言った。誰に話しているのか?自分に話しているのか?
取り敢えず、起きて、喋ったので、重度の後遺症のリスクは、無くなった。
看護士は「先生を呼んできます。」と言い、部屋を出て行った。
理美は、一人でブツブツ話すナオちゃんの腕を掴み、「ナオちゃん!ナオちゃん!ママ、見て!」と言うが、ナオちゃんは理美の呼びかけには反応しなかった。
ナオちゃんが僕を見た。
「あーーー!まちゃちゃんだあ!まちゃちゃん、バイキンマン、やってえ。バイキンマン、やってえ!」
ナオちゃんは僕のバイキンマンの声真似が大好きだ。いつも僕の顔を見ると、バイキンマン、やってえと、せがんでくる。
だから僕は、思い切り声を出して、「はっひふへほーーーー!」と叫んだ。
すると、ナオちゃんは手を叩いて喜び「まちゃちゃん、じょうず!おもちろーい!」と、叫んだ。理美は思わず、ナオちゃんを抱きしめた。抱きしめられながら、ナオちゃんは僕に「もう一回、もう一回!」と頼んだ。僕は、「はっひふへほおーーー」「もう一回」「はっひふへほおーー」「もう一回」
何度も叫んでると、病室のドアの外に先生と看護士がいたのに気づいた。先生も看護士も笑顔だった。先生は笑いながら、僕らに頷いた。僕も笑いながら、「はっひふへほおーーー」と言った。理美はナオちゃんを抱きしめ、泣きながら笑った。
 
 

熱が引き、鼻の絆創膏が取れてからは、ナオちゃんはどんどん元気になっていった。
さすがは子供だ。治りが早い。
手術して1週間後には退院できた。
 
予定より1週間遅れたが、僕らは約束していたディズニーシーへ行った。
入口のカウンターで誕生日の手続きを取ると、ナオちゃんには誕生日の人用の首から下げるメダルのような目印をもらった。
ナオちゃんが、それをつけて園内を歩くと、どこからもキャストが祝福してくれた。
 
ハッピーバースデー!
 
お誕生日、おめでとう!
 
いくつになったの?
 
おめでとう!おめでとう!おめでとう!
 
みんながお祝いの言葉をナオちゃんに投げかけてくれる度、僕は何故か誇らしい気持ちになった。
何でだろう?でも、うちのナオちゃんは可愛いだろう…きっと、世界一可愛いんだ。
みんな、祝ってくれてありがとう。
 
ミッキーとミニーに会う事ができた。
 
ナオちゃんは、大好きなミッキーとミニーに囲まれて写真を撮った。
その場に居合わせたキャストが、僕ら家族全員の写真を撮ってくれると言った。
僕と理美もナオちゃんの方へ行き、僕はナオちゃんを抱きかかえた。
僕らの写真を撮ってもらった後、僕に抱かれているナオちゃんは、ミッキーの顔と同じ高さにいた。
ミッキーは、ナオちゃんに鼻でキスをしてくれた。
ナオちゃんは、キャッキャと笑った。
「こちょばいよお、ミッキーしゃん」と言った。
ミッキーは恥ずかしそうにした。
「でも、もう一回してえ。」
ミッキーはもう一度、鼻でキスをしてくれた。
その時、理美が写真を撮った。
ミッキーと、鼻と鼻をくっつけて、ナオちゃんは弾けるような笑顔だった。
 
 

仕事は、合計で8日間休んだ。
 
月曜日、久々にスーツを着て、出社した。もちろん7時前には会社に着くように。
会社に着くと、誰もいなかった。佐伯部長もいなかった。
 
僕のデスクには、処理済みの書類の山と、みんなからのメッセージが書いてあるボードが置いてあった。
 
熊谷さん、自分だけ幸せになるのはズルいですよ。僕にもおすそ分けしてください。
 
よかったなあ、娘さん無事で‼後は、仕事、ガンバレ!お前の置き土産の5千万、待ってるぞ!
 
おめでとうございます。何か、自分の事のように嬉しいです。熊谷さん、頑張ってたから、きっと神様が見てたんですよねえ。
 
等々、嬉しいんだか、ちょっとばっかし、脅迫されてるんだか、みたいなメッセージが書いてあった。
 
そのボードは、うちに持って帰る事にして、僕は自分のデスクを片づけた。
そして、年末までの切羽詰まった特別企画の営業の進捗状況を確認した。
イントラ上では、うちの部が一番ビリだった。
みんな頑張ってくれてるはずだが、これは正直キツイ。
何故なら、うちの部は他の部よりも予算が大きいため、ビリだと年内売上全体に響くのだ。
 
何とかせねば…
もう、戦闘モードに切り替わった。
 
予算表を詳細に分析し始めた。
笠松さんは、約束通りに予算を達成してくれるみたいだった。
大島さんのところももう少しで達成しそうだ。
悪いのは、僕の後釜の君塚君のところだった。
僕が課長になる直前にプレゼンした5千万の案件が未だに決定できていないみたいだ。
 
僕は、対策を検討し始めた。
 
 

君塚君に頼んで、5千万案件のクライアントの担当者である三崎さんと上司の大越部長を一緒に訪ねる事にした。
先方に着くと君塚君は、ソワソワし出した。
「どうしたんだい?」
「いや、僕、大越部長、苦手なんですよね。強面だし、直ぐに値切ってくるし。」
 
やっぱりそうだ。
 
大越さんは、応答が難しい人だ。
懐に入ってしまえば、どうって事ないんだが、他人行儀にしてると、途端にのらりくらりと話を前に進めなくなる。ビジネスとは言え、人間性を全面に出して、本音で付き合わないと、納得してくれない。
 
君塚君は、論理的に仕事を進めるタイプで、自分が必要性を感じない事は説明を端折る傾向がある。
 
三崎さんと大越部長が、応接室に入ってきた。
君塚君の背が伸びた。
「いやあ、熊谷さん、お久しぶりだねえ。元気だった?」
「ありがとうございます。お陰様で。」
「何か、聞いたところによると、ご結婚されたとか?」
「ええ、いきなり、やってしまいました。37にして、無謀にも。」
「無謀って、結婚に年は関係ないじゃない。で、課長昇進だろう?貴方一人で、この世の花を満喫しているようですなあ。はっはっはっはっは」
「いやあ、それがそうでもないんですよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、あの年末企画の決定がまだ出てないもので、僕は新婚ですが、ここのところ、家族の顔を見る時間には帰れなくて。」
「家族って?奥さんだけではないんですか?」
「ええ、妻の連れ子で3歳の娘がおります。」
「3歳!娘!そりゃ可愛いでしょう?連れ子でもねえ。」
「むちゃくちゃ可愛いんですよ!でも、起きてる時間に帰れないし、土日も仕事やゴルフが入って、娘と話も出来ない有り様でして」
「うちも娘が一人なんですがね。3歳の頃は可愛いかったなあ。今は、高三でねえ、僕とまともに話をしてくれない。分かりました。うちの案件で熊谷さんの家族が崩壊したら大変だ。早速年末企画を前に進めましょう。今週中には、決定を出すようにしますよ。」
「ええ?決定ですか?ありがとうございます!」
「何の。結婚祝いですよ。」
 
週末までに、本当に決定が出た。
しかも、予算が増額され、7千万になった。
 
 

12月になった。
結果的に、年末企画の売上は、我が三部がトップになった。
 
慰労の意味を込めて、打ち上げをやろうと、誰からともなく言い出した。
週末に、会社近くの大きな中華料理店で行う事になった。
 
当日、僕は出先から一人で、直接店に行った。
貸切になっている三階の宴会場へ行くと、まだ、誰も来てなかった。僕は一人で椅子に座って、タブレットでメールをチェックしたりした。
 
エレベーターのドアが開いた。
 
えっ?
 
理美とナオちゃんが出てきた。
 
「どうして?」
「あなたの会社の大竹さんって人から連絡いただいてね。今日、何かセレモニーがあるから来てくれって、言われたの。」
「セレモニー?だから、ナオちゃん、よそいきの服着てるのか?」
 
突然、ウェディングマーチがかかった。
そして、ステージの袖からみんなが出てきた!
 
「熊谷さん、ご結婚おめでとうございます!」
 
みんなで声を合わせて言ってくれた!
 
嬉しかったし、大いに照れた。
 
お調子者の大竹君は一人、アンパンマンのコスプレをしていた。
それを見て、ナオちゃんはキャッキャと喜んだ。
 
エレベーターのドアが開いた。
「悪い、悪い。遅刻だなあ…久々の東京だもんで、地下鉄の駅に辿り着くのに手間かかっちゃって…」
神主の正装をしたヒロ兄だった。
 
 

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?