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世界文学のアーキテクチャ

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グローバルに流通する文学作品の研究において、「世界文学」の概念が用いられるようになりました。もともとは産業革命期の19世紀に誕生したこのワードを手がかりに「小説」と「資本主義」の… もっと読む
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2023年6月の記事一覧

第三章 他者を探し求めるヨーロッパ小説――初期グローバリゼーション再考(後編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 第三章 他者を探し求めるヨーロッパ小説――初期グローバリゼーション再考(後編)6、アジアの帝国から未知の新世界へ われわれはふつう、文学の世界認識は狭小な段階から徐々に拡大していったと漠然と思い込んでいる。しかし、ヨーロッパ文学の歩みは決してそういうものではない。繰り返せば、古代ギリシアのアイスキュロスからして、すでに東方のペルシア帝国とのコンタクトを劇の中枢に据えていた。前章で述べたように、「今・ここ」を超越して、他者に憑依するガリレイ

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第三章 他者を探し求めるヨーロッパ小説――初期グローバリゼーション再考(前編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 第三章 他者を探し求めるヨーロッパ小説――初期グローバリゼーション再考(前編)1、ヨーロッパ中心主義をいかに解体するか 世界文学=世界市場の成立は、文芸の諸ジャンルのなかで小説が覇権を握ったことと不可分である。小説は文学史上の新参者であるにもかかわらず、詩や演劇を凌駕し、世界規模の市場を生み出した。いわば小説のパンデミックこそが、近代文学史における最大の出来事なのである。序章で述べたように、それは商品としての小説が勝利したということと等し

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