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世界文学のアーキテクチャ

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グローバルに流通する文学作品の研究において、「世界文学」の概念が用いられるようになりました。もともとは産業革命期の19世紀に誕生したこのワードを手がかりに「小説」と「資本主義」の… もっと読む
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第九章 環境――自然から地球へ(後編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 6、環境文学のビッグバン――フンボルトの惑星意識 以上のように、ルソーやワーズワースが《自然》と心を同調させる歩行の技術を定着させたことは、文学史上のブレイクスルーと呼ぶべき事件であった。レベッカ・ソルニットが示唆するように、この技術は二〇世紀のモダニズム文学にまで及ぶ[25]。主人公の行動履歴を細かく再現したヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』やジョイスの『ユリシーズ』は、歩行のログを感覚の基盤とし、それを思考や記憶の触媒とした。

第四章 オルタナティヴな近代性――中国小説の世界認識(前編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 第四章 オルタナティヴな近代性――中国小説の世界認識(前編)1、二つの文学ウイルス 本章および次章では、主に近世(early modern)の小説を中心として、中国文学および日本文学のあり方に照明を当てるが、それに先立って、中国小説の文化史的な位置づけを検討したい。少し回り道しながら考えていこう。  夏目漱石の『文学論』(一九〇七年)の序は、英文科出身の彼が英語の研究を命ぜられ、二〇世紀初頭のイギリスに留学したときの回想に始まる。彼はそこ

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