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世界文学のアーキテクチャ

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グローバルに流通する文学作品の研究において、「世界文学」の概念が用いられるようになりました。もともとは産業革命期の19世紀に誕生したこのワードを手がかりに「小説」と「資本主義」の… もっと読む
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#文学

第四章 オルタナティヴな近代性――中国小説の世界認識(前編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 第四章 オルタナティヴな近代性――中国小説の世界認識(前編)1、二つの文学ウイルス 本章および次章では、主に近世(early modern)の小説を中心として、中国文学および日本文学のあり方に照明を当てるが、それに先立って、中国小説の文化史的な位置づけを検討したい。少し回り道しながら考えていこう。  夏目漱石の『文学論』(一九〇七年)の序は、英文科出身の彼が英語の研究を命ぜられ、二〇世紀初頭のイギリスに留学したときの回想に始まる。彼はそこ

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第一章 世界文学の建築者ゲーテ――翻訳・レディメイド・ホムンクルス(前編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 第一章 世界文学の建築者ゲーテ――翻訳・レディメイド・ホムンクルス(前編)1、ヴァイマルの文芸ネットワーク 序章で述べたように《世界文学》という概念の発明はもっぱら、一七四九年に生まれて一八三二年に亡くなったヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテに帰せられる。つまり、一八世紀ヨーロッパの文化的財産の継承者であり、かつ一九世紀前半にますます世界化してゆくヨーロッパの資本主義社会を生き抜いたドイツの哲人文学者が、《世界文学》に新たな生命を吹き

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第一章 世界文学の建築者ゲーテ――翻訳・レディメイド・ホムンクルス(後編)|福嶋亮大

福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ 第一章 世界文学の建築者ゲーテ――翻訳・レディメイド・ホムンクルス(後編)4、《ゲーテ》の制作――郵便局と事務局 このように、ゲーテの言説を読み解いていくと、各国の作品が相互に翻訳=批評される世界文学の時代が、一種のコミュニケーション革命の時代でもあったことが浮かび上がってくる。なかでも、ゲーテとカーライルの往復書簡は、コミュニケーション史やメディア論の文脈においても特別な位置を占めている。なぜなら、彼らはともに当時の郵便システムに依拠し

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