【読んでみましたアジア本】伸るか反るか、日本人向けにまとめられたアメリカ戦略家の中国攻略論/エドワード・ルトワック(著)奥山真司(訳)『ラストエンペラー習近平』(文春新書)

最近、中華圏のニュースを開くと、上海ロックダウンに香港の行政長官選挙(及び移民ブーム)などの話ばかり。さらには、北京でもロックダウンが…?という話もじわじわと人の口に上がってきて、胃の中でガスがぶくぶくと音を立てて上がってきている気分だ。

北京は首都だし、政府高官の住む街だし、さすがにロックダウンはないだろ?と思う一方で、あの上海がロックダウンされてから本文執筆時点ですでに1カ月になっている。当局はこのところ「封鎖の緩和を行う/行われた」という話題をチョロチョロ流しているが、現実的には「解放感」はない。その解放感のないところに北京でも感染拡大のニュースが流れたので、北京住民に恐慌が走った。

この「ロックダウン」、実は今も中国当局はその中国語にあたる「封城」という言葉を絶対に使わない。「検疫」「隔離」、あるいは「封鎖管理」といった言葉で表現する。でも、どんなに言葉を変えたところで人っ子一人いない上海の繁華街は「ロックダウン」だ。そしてなんと、トップ人気の観光地「上海外灘」(バンド、と呼ばれる)は、1カ月誰も歩かなくなった歩道のタイルの脇から雑草が顔を出し始めたという。

この大都市ロックダウン、実は2月に香港でもささやかれていた。すでに当局が段階的に人の流れを制限するための策を打ち出し、レストランの夜間営業をテイクアウトのみとし、昼間の活動を終えた人たちを早々と帰宅させていた。そこに中国からの専門家がやってきたというニュースが流れ、続いて林鄭月娥行政長官が「3月に全市民に対するPCR検査を3回行う」と発表、さらにその直後に衛生局長が「禁足令の発令も考慮中である」と言ったのだ。

街中は大騒ぎになった。1カ月で全住民のPCR検査3回は「無理だな」と誰しも思っていたけれど、「禁足令」つまり外出禁止令の発令だけは、皆がかなり真剣に不安がっていた。

筆者はその時、香港にいて思った。この流動性だけで生きているといってもよい土地を、すでにほぼ2年間海外からの香港住民以外の出入りを禁じている街を、どうしたら完全に「足止め」させることができると思うのか。そして、香港では「失敗」に終わったものの、まさかの上海でそれを実施してしまったとは…

一体どんな思考回路がそんなことを思いつき、命令できるのか、そして1カ月経ち、経済的にも社会的にも、大きな影響が出始めているというのにその手を緩めないのはどんなロジックなのだろう…と、その号令人の頭の中身を知りたくて、検索したところ出版期日が近い本書を見つけて手にとったのだ。

●「ありえない」事実を積み重ねる習近平

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