小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(7)池のほとりで
Chapter 7
「釣り竿で、どうやってその『斧』を探すんですか?」
昔から好奇心旺盛なレナにとって、この奇妙な状況は気になって仕方がなかった。
「釣り竿で『検索』してるんだよ。これにはそういう機能がある。最新型のAIってやつなのかな? 僕にはよくわからないんだけどね」
スーツ姿の男性の返答は、レナにとって理解が追いつかなかった。彼の言葉は最新技術についての何かを暗示しているようで、その非現実的な説明に彼女の疑念はただ増すばかりだった。男性の冷静な表情とは裏腹に、彼女の心は不安と困惑で満たされた。
「あー、そうなんですね」
レナは深呼吸をした。その後、自然と身体が後ずさりを始め、男性から距離を置こうと無意識のうちに決断した。目の前の不可解な状況から逃れるため、彼女がその場を離れようと足を踏み出した瞬間、突然男性の声が高らかに響き渡った。
「おおっ!? かかったかな!?」
その声に引き止められるように、レナは思わず足を止めて振り返った。目の前に広がる光景に彼女の疑念が一瞬にして驚きへと変わり、日光に照らされて眩しい光を放つ「物体」に視線が釘付けになった。
「すごい⋯⋯これは、金色の斧?」
レナは近寄って、目の前の斧に見とれた。その斧は両刃でどちらの側にも鋭い刃がついており、神々しい光を放つと同時に、威厳ある雰囲気を漂わせていた。シンプルなデザインだが、彼女には何世紀にもわたる時を刻んできたかのような風格を感じさせた。
「う〜ん、違う。これじゃないな」
男性はその金色の斧には全く興味を示さず、そっけなく池のほとりへ放り投げた。レナは思わず駆け寄り、斧に魅入った。
「なんて綺麗な輝き⋯⋯それでいて、なにか歴史を感じさせるわ」
レナは心を駆り立てられ、恐る恐る斧を手に取った。重量感がありながらも、彼女は腰を落とし両手で柄をしっかりと掴み、ゆっくり持ち上げてみた。斧は太陽の光に反射して、黄金色の輝きが一層強まった。その光は周囲の自然と調和しながら、まるで古の時代から語りかけてくるようだった。
「おや? 何か浮いてきたぞ?」
男性は自分の足下を縁取る池の水面に、ゆっくりと浮上するものに目を凝らした。
「何だろうね、この白いものは⋯⋯。大量のストローのようなもの⋯⋯?」
男性の言葉にレナは敏感に反応した。視線の先の水面には無数の細いストローが無秩序に浮かび、静かに漂っていた。斧から手を離した彼女は池の端に身を乗り出した。
「このストローは⋯⋯トムの!!」
池の淡い水面を覗き込むと、そこにはレナが今まで見たこともないような、恐怖で顔を歪めるトムの姿が映っていた。彼の目は、驚愕と共に底知れぬ恐怖に見開かれていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?