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用意された美味

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“これは、食卓に用意されている美味を味わうだけのお話。” 飲食店にて女ひとりで食事するだけの短編小説です。
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歌舞伎町串焼萬太郎、しいたけとピーマンとレモンサワー(用意された美味 #3)

歌舞伎町串焼萬太郎、しいたけとピーマンとレモンサワー(用意された美味 #3)

これは、食卓に用意されている美味を味わうだけのお話。

串と名の付く料理がほんとうに美味い店は、しいたけとピーマンが絶対に美味い。
この二つの食材の美味さは、香りと食感にある。焼きが足りないと生温く青臭く、歯ざわりも悪い。焼きすぎてしまうと身が固くなり、焦げの匂いに香りが負ける。味見ができない串焼き料理に於いて、ちょうど良く仕上げるにはスキルが必須となる。
ちょうど

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おひつご飯四六時中、だしをかける海鮮丼(用意された美味 #1)

おひつご飯四六時中、だしをかける海鮮丼(用意された美味 #1)

これは、食卓に用意されている美味を味わうだけのお話。

「所詮、通りがかったご飯屋さんだ」
私はそうした先入観を抱き、『おひつご飯』の店に入った。
そこはチェーンの定食屋といった風体で、どこか変わったところがある訳でない。「だしをかけて食べる」というおまけがなければただの海鮮丼屋でしかない。ただそのおまけである「だし」に心を惹かれ、私はふらりとその店に入った。

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あつた辨天、ひつまぶし(用意された美味 #2)

あつた辨天、ひつまぶし(用意された美味 #2)

これは、食卓に用意されている美味を味わうだけのお話。

立てかけてあったメニューに書かれていた「焼の確かさ」とは何だろう。
それは、鰻を噛んで、すぐにわかった。表面に香ばしい焼き目を持ちながら、身が甘く柔らかい。これが確かな焼、そして焼の確かさなのだろうと。
焼き目の食感と身の食感が合わさってとても心地が良く、そこに伴う身の甘みは「用意された美味」だった。誰もがこれを味わ

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