中国政治評論1

時事通信社解説委員 西村哲也◇中国の鄧小平時代から習近平時代にかけて、特派員として北京…

中国政治評論1

時事通信社解説委員 西村哲也◇中国の鄧小平時代から習近平時代にかけて、特派員として北京・香港に合わせて13年駐在。◇中国政治評論2⇒https://note.com/xczy99

最近の記事

スマホ内部検査など強化─中国国家安全省の新規定(2024年5月)

 中国国家安全省の法律執行に関する新しい規定が7月1日から施行される。電子データに関する取り締まりに重点が置かれており、外国からの入国者を含め、スマートフォンなどの内部に保存された文書や画像に対する検査が強化されるとみられる。 ■「反スパイ法」などが根拠  国家安全省は4月26日、国家安全機関の行政法律執行手続きに関する規定(以下、規定1)と刑事事案処理手続きに関する規定(規定2)を発表した。規定1は反スパイ法、国家情報法、行政処罰法、行政強制法に基づいて、規定2は刑事

    • 失敗した習主席の軍制改革─「戦略支援部隊」8年で解体(2024年4月)

       中国人民解放軍は2015年の軍制改革で新設したサイバー・宇宙担当の戦略支援部隊を分割し、「情報支援部隊」などを設立した。組織再編の目玉だった戦略支援部隊はわずか8年余りで解体。さまざまな軍事技術を担う寄せ集めの大部隊はまともに機能しなかったようで、中央軍事委員会主席を兼ねる習近平国家主席が力を入れた改革は失敗したことになる。 ■情報・宇宙・サイバーが独立  情報支援部隊の設立大会が4月19日、北京で開かれ、習主席や軍制服組の主要指導者が出席した。公式報道によると、大会

      • 「琉球独立」あおる?─中国で強まる日本の領有権懐疑論(2024年4月)

         中国でこのところ、「琉球」(沖縄)に対する日本の領有権を疑問視し、中国との歴史的関係の深さを強調する主張が目立つ。共産党政権の公式シンクタンクに所属する専門家が相次いで論文を発表。「琉球独立」をあおるかのようなキャンペーンを展開している。 ■公式研究機関の論文相次ぐ  中国歴史研究院は3月下旬、SNSを通じて、琉球に関する論文3本を紹介した。いずれも、同研究院が出版する「歴史評論」(隔月刊誌)の今年第1号に掲載されたもので、同国最大級の公式シンクタンクである社会科学院

        • 存在感増す習近平夫人─彭麗媛氏、要職に起用?(2024年4月)

           習近平中国国家主席の彭麗媛夫人が政治的な存在感を増している。習主席は3期目に入る際の指導部人事で非主流派を徹底的に排除したにもかかわらず、自分が抜てきした外相や国防相を更迭せざるを得なくなるなど、政局は不安定。このため、個人独裁体制を強化するため、最も信頼できる身内の要職起用を考えているではないかとの見方が出ている。 ■異例の地方視察  最近注目されたのは彭氏の地方視察。国家衛生健康委員会が3月24日、公式ウェブサイトで、彭氏が世界保健機関(WHO)結核・エイズ防止親

        スマホ内部検査など強化─中国国家安全省の新規定(2024年5月)

          不可解な習政権の粛清人事─公職に居座る失脚高官(2024年3月)

           中国の習近平政権で昨年解任された前国防相や前外相がなかなか他の公職から完全に退かないという不可解な状態が続いている。習政権は粛清人事にも謎が多く、ますます不透明さを増している。 ■議員解任されず  「彼は参加できない。もう代表(議員)ではないから」。全国人民代表大会(全人代=国会)開幕前日の3月4日、全人代報道官は記者会見を終えて会場を離れようとした時、シンガポール紙・聯合早報の記者から、前国防相の李尚福上将(大将に相当)が全人代に出席するかどうか問われて、こう答えた

          不可解な習政権の粛清人事─公職に居座る失脚高官(2024年3月)

          海洋・宇宙・サイバーに重点─「新興領域戦略能力」で軍事力強化(2024年3月)

           中国の習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、軍事力強化で海洋、宇宙、サイバー空間に重点を置く方針を示した。全国人民代表大会(全人代=国会)の解放軍代表団に対し、「新興領域戦略能力」の全面的向上を求めた演説で述べたもので、独自のイノベーションに基づく「新たな質の生産力」と「新たな質の戦闘力」の融合を進めるよう指示している。 ■「海上軍事闘争」に備える  習主席は3月7日、全人代解放軍代表団の全体会議に出席し、以下のように演説した。  一、新興領域戦略能力は国家戦略体系

          海洋・宇宙・サイバーに重点─「新興領域戦略能力」で軍事力強化(2024年3月)

          「思想解放」実は統制強化─習近平政権、官僚粛清を拡大か(2024年2月)

           中国で春節(旧正月)の連休明けから「思想解放」を大々的に呼び掛ける動きが話題になっている。改革・開放が始まった頃のスローガンを思い出させるが、その実態は習近平国家主席(共産党総書記)の教えによる思想統一という統制強化。習政権内で事なかれ主義が広がっていることから、腐敗官僚だけでなく、やる気のない怠慢な官僚も粛清する狙いがあるとみられる。 ■鄧小平演説を想起  湖南省党委員会は2月18日、「思想解放大討論活動」を展開するよう省内各レベルの党組織に指示する通知を公表。これ

          「思想解放」実は統制強化─習近平政権、官僚粛清を拡大か(2024年2月)

          メッシ香港欠場の謎─政治利用の企てが逆効果に?(2024年2月)

           サッカーのスーパースター、メッシが脚の不調を理由に香港での親善試合を欠場した3日後に日本でプレーしたことが香港で猛反発を招き、政治問題化している。メッシは「香港軽視」「親日反中」と批判されているが、実際には、現地政府が民主派の徹底的弾圧で悪化した香港の国際的イメージを改善するため、メッシを政治宣伝に利用しようとして、かえって逆効果になった可能性がある。 ■「二度と来るな」  メッシが所属するマイアミは2月4日、香港チームと対戦したが、メッシはベンチに座ったままで、約3

          メッシ香港欠場の謎─政治利用の企てが逆効果に?(2024年2月)

          香港政治体制、完全中国化へ─スパイ狩り新法で統制強化(2024年2月)

           香港政府はスパイや反逆の防止を口実に、政治活動や報道を全面的に規制する新法の制定作業を開始した。2020年に中国の習近平政権が制定した香港国家安全維持法(国安法)を補完する現地の立法で、香港の政治体制は完全に中国化する。政治の社会主義化により、資本主義体制下で発展してきた国際金融センターとしてのビジネス環境も一段と悪化する可能性が大きい。 ■「国家安全維持条例」案を公表  香港政府は1月30日、中国の香港基本法23条に基づいて「国家安全維持条例(国安条例)」を制定する

          香港政治体制、完全中国化へ─スパイ狩り新法で統制強化(2024年2月)

          警察幹部3人で収賄250億円━中国官僚の汚職、泥沼化(2024年1月)

           収賄の総額12億3100万元(約253億円)。中国国営テレビはこのほど、東北地方・遼寧省の警察トップが3代にわたって巨額の賄賂を受け取っていた異例の事件を詳報した。共産党政権は「反腐敗闘争」を長年展開し、習近平国家主席は取り締まりをさらに強化してきたものの、深刻な官僚の汚職は改善の兆しがなく、泥沼化している。 ■見返りは鉱山の株式  国営中央テレビは1月下旬、高官の汚職を取り締まる党中央規律検査委員会の宣伝部と共同制作した反腐敗の特集番組を4回放送した。「主役」は、

          警察幹部3人で収賄250億円━中国官僚の汚職、泥沼化(2024年1月)

          中国軍の大粛清確認─元ロケット軍トップら議員解任(2024年1月)

           中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)で人民解放軍出身の代表(議員)9人が解任され、軍内で大規模な粛清が進行していることが確認された。核ミサイルなどを運用するロケット軍や空軍のトップ経験者が含まれている。これほど多くの軍要人の失脚が同時に公表されるのは異例だが、粛清はさらに拡大するとみられる。 ■装備調達関係の汚職か  全人代常務委員会の公告(昨年12月29日)で全人代代表解任が発表されたのは以下の9人。 【ロケット軍】周亜寧(元司令官、上将)◇李玉超(前司令

          中国軍の大粛清確認─元ロケット軍トップら議員解任(2024年1月)

          消えた天皇訪中─中国の公式歴史書に記載なし(2023年12月)

           1992年10月の天皇陛下(現上皇さま)訪中に関する外交文書が公開され、日本国内に慎重論や反対論もある中で紆余(うよ)曲折を経て、訪問が実現に至る詳しい経緯が明らかになった。天皇訪中は外交面で苦境にあった中国に助け舟を出す形になったが、中国側では現在、その事実は公式の歴史書に書かれていない。 ■日本側は外務省主導  中国は89年に民主化運動を武力弾圧した天安門事件の後、先進諸国などから各種の制裁を受けたが、日本政府は91年、海部俊樹首相が訪中して、真っ先に対中関係の修

          消えた天皇訪中─中国の公式歴史書に記載なし(2023年12月)

          闇深まる香港─周庭氏亡命、訪中記者拘束(2023年12月)

           中国化が進む香港の政治的な闇がますます深まっている。民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が事実上の亡命に追い込まれたほか、北京に出張した香港有力紙の著名記者が消息不明になっており、中国当局に拘束されたもよう。2020年に制定された香港国家安全維持法(国安法)による弾圧で民主派は既に壊滅状態になっているにもかかわらず、締め付けの強化が続いている。 ■中国特区視察を強要  周氏は12月3日、SNSを通じて、留学のために9月からカナダに滞在しているが、おそらく香港に戻ること

          闇深まる香港─周庭氏亡命、訪中記者拘束(2023年12月)

          習近平指導部を牛耳る「福建閥」─内政・外交両面で存在感(2023年11月)

           中国共産党政権指導部で習近平国家主席の福建省人脈(福建閥)がますます勢力を強めている。内政だけでなく、対日米などの外交でも存在感を増しており、指導部を牛耳りつつあるようだ。 ■日中首脳会談で「重要な共通認識」  訪中した公明党の山口那津男代表との会談に応じたのは、共産党総書記の習主席でも李強首相でもなく、党中央書記局の蔡奇筆頭書記だった。蔡書記は、習主席がかつて福建省幹部だった頃の部下で、習近平派内の福建閥で筆頭格の地位にある。  「(日中)両国の執政党は両国指導者の重

          習近平指導部を牛耳る「福建閥」─内政・外交両面で存在感(2023年11月)

          李克強氏、変死の怪情報広まる─習主席への不満反映か(2023年11月)

           急死した中国の李克強前首相について、暗殺など変死説の怪情報が広まっている。いずれも具体的根拠は全くないが、改革・開放に積極的だった李氏と対立した保守派の習近平国家主席に対する不満を反映した現象とみられる。 ■異例の病名公表  中国の公式報道によると、李氏は上海で休養中の10月26日、突発的な心臓病で倒れて、翌27日未明に死去した。病死した中国指導者の訃報は通常、病名に触れず、「病気のため逝去した」と発表するので、病名の明記は異例だ。死因に関する臆測を避けるためと思われる

          李克強氏、変死の怪情報広まる─習主席への不満反映か(2023年11月)

          謎だらけの主要閣僚解任─混乱続く習近平政権(2023年10月)

           中国の李尚福国防相兼国務委員と秦剛国務委員(前外相)が解任された。いずれも習近平国家主席(中央軍事委員会主席)の大抜てき人事で任命されてから数カ月しかたっておらず、その失脚には謎が多い。国防相の後任は決まらず、習政権は混乱が続いているようだ。 ■主流派の「内ゲバ」?  李国防相らの更迭は10月24日の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で決まった。李氏は中央軍事委員も解任された。中央軍事委の装備発展部は7月下旬、過去の装備調達に関する不正の調査を始めると発表。調査

          謎だらけの主要閣僚解任─混乱続く習近平政権(2023年10月)