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連載:メタル史 1981年①Black Sabbath / Mob Rules

ロニージェイムスディオを迎えたBlack Sabbath、「Heaven And Hell(1980)」に続いての2作目です。前作発表後、ビル・ワード(Dr)が脱退し、ヴィニーアピス(Dr)を新たに迎えた作品。ワードが後年語ったところによると「オジーがいないバンドで叩き続けるのは耐えられなかったし、アルコール依存症も悪化していたんだ」とのこと。ヴィニーアピスはリックデリンジャーバンドでたたいていたドラマーで、ヴァニラファッジのカーマインアピスの弟。ちなみにカーマインアピスはロック界でかなり初期に(僕が知る限り初めて)ツーバスを導入したドラマーです。

1981年のサバス
左からロニージェイムスディオ(Vo)、トニーアイオミ(Gt)、ヴィニーアピス(Dr)、ギーザーバトラー(Ba)

アピスはディオと同じくイタリア系アメリカ人。これでバンドはイギリス人とアメリカ人が半々の構成になります。

前作「Hevean And Hell」は商業的にも批評的にも好評だったもののメンバー交代に加えて、1980年10月9日、USのミルウォーキー・アリーナのライブ中、観客が暴動を起こし160人の逮捕者が出て、バンドも1万ドルの修理費用を支払う羽目に。この当時のUSの観客はかなり暴力的ですね。どうも、ステージにものを投げる習慣があるらしく(これは今でもUSでは問題になっています)、Black Sabbathが2曲目の「N.I.B.」の演奏中、観客が投げたビール瓶がギーザーバトラー(Ba)に直撃、そこで演奏をやめてステージから引き揚げたため暴動が起きます。酔っぱらってものをステージに投げる、というのは映画Blues Brothersでも描かれていましたが、それがアメリカンなノリなのかも。UKではライブでステージにものを投げつける話はあまり聴きません。イギリス人のバトラーからすると耐え難いことだったのでしょう。というかビール瓶が当たったら普通に痛いし。どうも目のあたりを切って出血してしまい、演奏どころではなかった様子。

ミルウォーキーでの暴動の様子
演奏が2曲で終わってしまい約10000人の観客が街に繰り出して暴れた
出典

地元、ミルウォーキーの地方紙には詳しい記事(→外部リンク)も残っています。日本でもライブ前に「危険とみなされる行為が行われ、注意しても止まらない場合はライブを中断する場合があります。その場合の払い戻しは行いません」的なアナウンスがありますが、それが本当に起きてしまい観客が暴れた例。こういう事例がアメリカにはいくつかあります。

そんなトラブルがありながらもバンド活動は順調で、前作から1年のインターバルをおいて発表された本作。前作は作品を作り始めた当初はバトラーが離婚問題で不在のため、ディオとアイオミが中心となって静かな環境で作り始めたそうですが、本作ははじめからスタジオで、大音量の中で作られました。本作はロサンゼルスのスタジオで作られていますが、当初はBlack Sabbathが作った自分たちのスタジオで作る予定だったけれどどうしても求める音が出ず、仕方なくLA録音となったそう。メンバーチェンジといい録音場所と言い、前作よりアメリカ色の強いアルバムと言えるでしょう。

このアルバムの制作中からディオ(&アピス)とアイオミ&バトラーの間の創作における主導権争いが始まります。オジーは作詞はするもののそれ以外の部分はあまり口を出さないタイプのボーカリストだったようですが、ディオは創作面もかなり口を出すタイプ(作曲の才能もある)ため、衝突が起きた。それ自体は健全なことですが、そこに加えてレコード会社のワーナーからディオのソロ契約(のちのDio)の話が来たこともアイオミとバトラーに不信感を与えます。なんでバンドでやってるのにソロをやるんだ、と。やはり生粋のイギリス人であるアイオミ&バトラーと、アメリカ人のディオの間には感覚の違いもあったのかもしれません。

このアルバムはそうした衝突がありつつも無事に完成しますが、ライブアルバム「Live Evil(1983)」の制作作業中にディオとアイオミ&バトラーの確執が決定的なものとなりディオは脱退。本作がこのラインナップでの最後のアルバムとなってしまいます。ディオを失ったバンドは新たに元Deep Purpleのイアンギランを迎えてスーパーバンド化し、Born Again(1983)をリリースするのですがそれはまた先の話。

プロデューサーは前作に続いてマーティン・バーチ。Iron Maidenのイメージが強いですが80年代ディオ期のBlack Sabbathの2枚のアルバムも手掛けています。プロデューサーも同じで音楽的には前作を正統進化させたような作品。一般的な評価は前作の方が高いですが、どちらも名盤だと思います。1981年を代表する作品の一つ。

※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。

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1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…

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