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あのアカデミー賞監督が作った実写版「ドラえもん」

今回は、今年の米アカデミー賞で邦画・アジア映画史上初の視覚効果賞受賞した山崎貴監督について少し書いてみたい。
この人は昔からVFX映画監督として、かなり有名である。
彼が一気に脚光を浴びたのは、「ALWAYS三丁目の夕日」の実写化からだと思う。

日本アカデミー賞12冠に輝いた名作「ALWAYS三丁目の夕日」(2005年)
アニメ版「三丁目の夕日」(1990年)

山崎さんって、私の中では「実写化のプロ」というイメージなんだよね。
彼の実写化した企画をざっと挙げれば、

三丁目の夕日(ALWAYS三丁目の夕日シリーズ)2005年
クレヨンしんちゃん(BALLAD名もなき恋のうた)2009年
宇宙戦艦ヤマト(SPACE BATTLESHIPヤマト)2010年
寄生獣(寄生獣part1、part2)2014年

といったところだろうか。
それに加え、最近では3DCGアニメ化にも力を注ぐようになってきており、その例を挙げれば

ドラえもん(STAND BY MEドラえもんシリーズ)2014年
ルパン三世(ルパン三世THE FIRST)2019年

などがある。
この人、実はめっちゃ漫画・アニメ好き?
思えば、彼と同じVFX畑の作家には樋口真嗣がいて、彼もまたガイナックス出身だけにアニメ畑に片足突っ込んでる人だし、元々VFX⇔3DCG⇔アニメ
を隔てる境界線は、あってないようなもの。
でもって、山崎さんと樋口さんはふたりとも、各々の「ゴジラ」で成功したわけよね。

「STAND BY MEドラえもん」

私が、特に山崎監督のキャリアの中でも凄いと思うのが、「STAND BY MEドラえもん」である。
これ、劇場版「ドラえもん」シリーズの中でも3DCGという変わり種なのに興行収入では国内80億円以上、中国100億円以上という超特大ヒットになってて、これは「ドラえもん」史上最高記録だという。
通常の劇場版のように「セカイを救う」パターンじゃなくて、TVシリーズの延長線上にあるようなスケールがやや小さい物語なんだけど、これはこれでまたいいんだよね~。
山崎監督の「ドラえもん」リスペクトが、ひしひしと伝わる内容である。
子供の頃に読んだ、ドラえもんが未来に帰っちゃう時のvsジャイアン戦のくだりを見事に映像化してくれてて、これはホント胸アツだったわ!

そもそも、彼の映画監督デビューは00年に撮った「ジュブナイル」というVFX映画であり、実はこれ、実写版「ドラえもん」なんだよね。
というのは少し語弊があるかもしれないけど、この映画の企画の元ネタってのが、当時話題になってたコレなんですよ↓↓

このネタは有名だから皆さんもよくご存じだと思うが、愛知県在住の大学生が作ったとされる、【僕が考えた「ドラえもん」最終回】という2次創作である。
これが、とてもシロウトが考案したとは思えない素晴らしい内容になってて、当時かなり話題になってたのよ。
で、山崎さんがこれを見て「映画化したい」と思ったのが「ジュブナイル」制作の始まりである。
山崎さんは前述の大学生に直談判して映画化了承を取り付け、さらに小学館と藤子プロ(藤子F先生の事務所)との交渉に臨んだという。
小学館や藤子プロにしてみれば、このての同人創作は厳密にいうと「著作権侵害」に該当するにも関わらず、作品に込められた「ドラえもん」愛に感化されたのか、この映画化を認めてくれたのさ。
粋だね~。
著作権を持つ側は、このての二次創作を「公認」はできないにせよ、多くが「黙認」というスタンスらしい。

「ジュブナイル」(2000年制作)

おいおい、全然「ドラえもん」っぽくないじゃん、と思うだろうが、そりゃ水色のネコ型ロボットなんて出したら実写映画としてチープになるでしょ。
上の画像の中央にいるロボ的なやつがドラえもんだと解釈してくれ。
このロボ、劇中では「テトラ」という呼称で、cvはあの林原めぐみである。

中央がのび太、左がジャイアン、右がスネ夫、という解釈でいいと思う
しずかちゃん役は、若き日の鈴木杏が演じていた

なんというべきか、子役がイケメンすぎる・・。
そういや、山崎監督は「クレヨンしんちゃん実写化でも、しんちゃん役が妙にイケメンだったと思う。

「BALLAD名もなき恋のうた」しんちゃん役は、一度もケツを出さずに終わった

あんまり俳優を原作に寄せ過ぎると、「20世紀少年」みたいになっちゃうからね。
で、この「ジュブナイル」はSMAP香取慎吾が出演した効果なのかは知らんが、興行収入10億以上を記録するスマッシュヒットとなった。
まぁ、誰も「ドラえもん」実写化だと意識せずに見てたとは思う。

「ゴジラ-1.0」

で、「ジュブナイル」から始まった山崎監督のキャリアは、「ゴジラ-1.0の米アカデミー賞受賞という快挙をもって、遂に頂点を迎えたといっていいだろう。
アカデミー賞における「ゴジラ-1.0」のノミネート競合作品群はハリウッド資本の大作ばかりで、その顔ぶれは

・「ザクリエイター」⇒制作費予算118億
・「ガーディアンオブギャラクシー3」⇒制作費予算370億
・「ナポレオン」⇒制作費予算372億
・「ミッションインポッシブル/デッドレコニング」⇒制作費予算428億

といったところである。
これらと比べると
・「ゴジラ-1.0」⇒制作費予算21億
は「すみません、ウチ貧乏なもんで・・」と少し卑屈になってしまうんだけど、それでもこれらを蹴散らしてオスカーを勝ち得たのはホントに嬉しい。
たとえ資金がなくとも、日本人ならではの知恵と工夫で何とかなった好例である。
山崎監督は80年代、「白組」という小さなVFX映像制作会社に入社して、最初ここの社員数はたったの3人だったという。
VFXだけにCGをメインにやっていくコンセプトだったにせよ、若い山崎さんに当時与えられた仕事は
CGがうまくいかないこともあるので、特撮用のミニチュア模型を作る
というものだったらしい。

若き日の山崎さんは、「ハウスバーモンドカレー」CM用のミニチュア模型を作っていたらしい

なるほど、「円谷プロ」方式か。
こういうのは、手先が器用な日本人にしかできない職人芸だろう。
もともと日本男児はプラモ作りが得意であり、こういうシコシコした地道な作業になぜか耐えられるものである。
対して、アメリカ人はこういうのがあまり好きじゃないみたいで、せいぜいLEGOブロックみたいなざっくりしたやつが関の山さ。
基本、細かい作業が嫌いっぽい。
だからあいつら、VFXは何でもかんでも巨大資本の3DCG一辺倒になるわけで、今じゃあの国、2Dアニメなんて「過去の遺物」と思ってるんじゃない?
もともとは、ディズニー2Dアニメが素晴らしい国だったのに・・。
しかし、シコシコした地道な作業に耐えられる人材がまだ現存してる我が国では、たくさんのアニメーターさんたちが2Dアニメ文化を今なお支えてくれている。
これは誇らしい。

①アニメが人気
②アニメに夢中になった子供たちが、プラモ(フィギュア)を作る
③子供たちは手先が器用になり、集中力が養われる
④優れたアニメーターの素地ができる
⑤優れたアニメが制作される
⇒①に戻る

我が国には、こういう素晴らしい循環があると思う。
日本は「世界最古の木造建築」法隆寺を見ても、「世界最古の土器」縄文式土器を見ても、どうも昔からシコシコした地道な作業が得意だったっぽい。
あと、「世界最古の長編恋愛小説」源氏物語、「世界最古のSF」竹取物語もあり、フィクションの創造力もまた折り紙付きである。
なんていうか、世界の中で日本が生き残っていく道は、案外こういうところじゃないかな?
シコシコした地道な作業で生き残っていく。
それが、我々の土俵だと思う。


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