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大友克洋「スチームボーイ」、なぜウケなかった?

今回は、大友克洋監督について書いてみたい。
まず、大友克洋の偉大さについては、特に海外人気の高さでそれを痛感するのよ。
好きな日本のアニメ作家は?」という質問に対し、外国人のかなりの部分が「大友克洋」と答えるから。
しかし、よく考えてほしい。
今まで大友さんが作った長編アニメ作品は、
・「AKIRA」(1988年)
・「スチームボーイ」(2004年)

このたった2本だけである。
あとは主に短編で、
・「工事中止命令」(1986年)
・「大砲の街」(1995年)
・「火要鎮」(2013年)
※文化メディア芸術祭大賞受賞
あとは脚本を手掛けたのが、
・「老人Z」(1991年)北久保弘之監督
・「メトロポリス」(2001年)りんたろう監督
の2本。
どちらかというと、寡作といえる人だと思う。
「彼は本職が漫画家だから・・」と考える人もいるだろうが、それは違うよ。
ちゃんと彼が漫画を描いてたのは90年代までのことで、それ以降は新作を発表していない。
ここ数十年、描いたのは装画ばかりである。
彼ほどの才能が、実に惜しい。

「スチームボーイ」(2004年)

じゃ、「スチームボーイ」について少し。
これ、正直いうと大友さんのキャリアの中で、あまり注目されてないんだよね。
貴重な長編作品のひとつなのに。
なぜ注目されないかというと、前作「AKIRA」があまりにもインパクト大だったからだろう。
今でも
大友克洋といえば「AKIRA」
と皆が口を揃えていうんだが、でもこれ、40年近く前の作品だからね?
そんな古いものをいまだ評価基準にするのは、少し大友先生に対して失礼というもんさ。
じゃ、「スチームボーイ」の当時の評判はどうだったのか?
これが正直、芳しくなかった・・。
ただひとつ言わせてもらうなら、断じて駄作ではない。
・総制作費24億円(『AKIRA』は10億円)
・制作期間9年
(『AKIRA』は3年)
・総作画枚数17万枚
(『AKIRA』は15万枚)
という充実した数値。
これでも、高畑勲作「かぐや姫の物語」の制作費52億、作画枚数24万と比較をするとかわいいもんで、規模としては高畑勲作「となりの山田くん」と同程度といったところか。
とはいえ、前作「AKIRA」と比較すると格段の予算アップである。

スゴイよね!
純粋にアニメーションとして見ると、「スチームボーイ」のクオリティは「AKIRA」を凌駕してると思う。
これはCGの進歩もあるし、あと予算の倍増がデカいかと。
案外知られてないことだけど、大友さんは「AKIRA」を失敗作と公言してるのよ。
予算が足りなかったことで、後半は見るに堪えない、と。
その点でいうと、「スチームボーイ」に対してはそこまでのこと言ってないので、本人的にもまぁまぁといった感じなのかと。
本人的には【AKIRA<スチームボーイ】なんだろうね。
でも、世間一般の評判は【AKIRA>スチームボーイ】となっている。

多分、「スチームボーイ」は世間が大友克洋に求めたものじゃなかったんだよ。
求められてたのは、SFでいうところのサイバーパンク系
ところが「スチームボーイ」はそれ系じゃなく、スチームパンク系だった。
実はこのズレ、大友さん自身も制作前から分かってたことなんだそうだ。
周囲が口を揃えて「AKIRA」っぽいのもう一回やってくれ、と連呼するもんだから、本人もあるいは意地になったのか、「スチームパンクをやる!」と最後は強引に押し切ったみたい。
大友さん的には
そんな同じようなのやっても、1回やったことじゃん
ということらしい。
なるほど。
しかし、出来上がった「スチームボーイ」はハリウッド型のエンタメ路線で、なんかマーベル映画を見てるような感覚に陥ったもんだよ。
めっちゃ面白いんだけど、見終わったらスッキリしてあとには何も残らないというか・・。
「AKIRA」の時は逆にモヤ~っとしたものが胸に残って、スッキリした感覚にはならなかったと記憶する。
じゃ、どっちが好きかって、私は「AKIRA」の方なんだが・・。

「メトロポリス」(2001年)監督・りんたろう 脚本・大友克洋

上の画は、大友さんが「スチームボーイ」の3年前に脚本を書いた「メトロポリス」である。
これ、不思議な世界観だったよなぁ。
見ると紛れもなくサイバーパンクなんだけど、また同時にスチームパンクという世界観なのよ。
さすがは原作者が手塚治虫、ハイブリッドな世界観を見事に構築している。
この脚本を手掛けた大友さんは、こういうレトロフューチャーが好きなんだと思う。

「AKIRA」(1988年)⇒「老人Z」(1991年)⇒「大砲の街」(1995年)⇒「メトロポリス」(2001年)⇒「スチームボーイ」(2004年)

という時系列で見ると、なるほどなぁ、確かにサイバーパンクからスチームパンク(レトロフューチャー)へのグラデーションが見てとれる。
そして

「スチームボーイ」(2004年)⇒
火要鎮」(2013年)

今度はレトロフューチャーからレトロへのグラデーションか・・。
付け加えると彼は「スチームボーイ」と「火要鎮」の間に、2007年「蟲師」という実写映画を撮ってるんだ。

「蟲師」(2007年)

思えば、宮崎駿にも似たような傾向がある。
彼の場合はサイバーパンクではなく元々の軸がスチームパンク、レトロフューチャーなんだけど、その象徴である「ナウシカ」や「ラピュタ」などを経て、やがて「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などのレトロ方面へいったわけさ。
ここでも、レトロフューチャーからレトロへのグラデーション。
そして押井守も最近の仕事が「火狩りの王」の脚本だったところを見るに、レトロへと舵を切ったのかな?
あと小説家の伊藤計劃も、1作目「虐殺器官」2作目「harmony/」というサイバーパンク系だったのに、遺作となった3作目「屍者の帝国」は明確にスチームパンクだった。
私はこういう傾向を、「作家性エントロピーの法則」という呼称で名付けている。

アニメ化された伊藤計劃作品群

つまり何を言いたいかというと、大友克洋もまた彼らと意味を同じくして、その遍歴には実に整合性のあるグラデーションが刻まれてる、ということ。

サイバーパンクから、スチームパンク、レトロフューチャーへ。
さらにレトロフューチャーから、レトロへ。

そして、遂に「一周回った」というべきか、現在の大友さんは「AKIRA」のセルフリメイクに着手してるらしい。
三十数年前、「失敗作だった」といった「AKIRA」を遂に手直しするんだ。
なぜ、今さらリメイクを?
私は、そのヒントになるのが「火要鎮」のような気がする。
皆さんは「火要鎮」、見たことある?
オムニバス映画「SHORT PIECE」の中の一編なんだが、できれば見てほしいね。
私なりの解釈として、この作品におけるお若(cv早見沙織)と松吉(cv森田成一)は、どう見ても「AKIRA」における鉄男と金田なんだわ。
最後、「松吉さ~ん!」と叫びながら、炎の中に消えていったお若が何とも哀しい・・。

「火要鎮」(2013年)

思うに、やはり大友さんは「AKIRA」への無念の思いをいまだ断ち切れてはいないんだろうな、と。
で、いよいよセルフリメイクに乗り出したわけか。
「火要鎮」を見る限り、現在の大友さんのスキルはトンデモない次元にまで到達してるので、今「AKIRA」を作ればきっと凄いものができると思う。
楽しみである。
「AKIRA」のリメイクが終わったら、次は「スチームボーイ」の続編なんてどうですか?
あの作品、明らかにエンドロールでこの後の展開を匂わす感じだったわけで、ホントは続編のアイデアもあったんだろ?
あまり興行収入振るわなかったもんだから、出すに出せなくなったんだろうけど・・。

新作として、今は「ORBITAL ERA」というのを作ってるらしい


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