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鶴巻和哉が挑んだ「エヴァ」和風バージョン?「龍の歯医者」

先日、アニメ「龍の歯医者」を見た。
この作品の存在は以前から知っていたんだが、どうも「龍の歯医者」というタイトルが琴線に触れず、なかなか食指が伸びなかったんだよね。
だけど見たら、タイトルのイメージとは全然違う厨二系ダークファンタジーのど真ん中だった。
この作品、タイトルの付け方で損してないか?
プロモーション次第ではもっと化けたのでは?と率直に思ったよ。

そもそも、このイメージビジュアルからして何だか謎めいていて、普通に「見てみよう」と思わせるものではない。
謎のタイトルと謎のビジュアル。
おそらく狙いとしてそうしてるんだろうが、ちょっとスベってませんか?
でも、こうやって情報を制限するやり方が、いかにもスタジオカラーっぽいな、と思ってさ。
スタジオカラーとは、言わずと知れた「エヴァンゲリオン劇場版シリーズを作った会社。
そりゃ「エヴァ」ほどのブランドなら情報制限が逆に功を奏するかもしれんが、さすがに「龍の歯医者」ではねぇ・・。
まぁ、今となっては地上波放送もとっくの昔に済んでるし、情報公開も普通にOKでしょう。
じゃ、この作品の概要を説明しよう。

・「龍の国」とその隣国は、現在戦争状態

・「龍の国」は謎の最強生物・龍と「契約」しており、隣国はその龍の打倒を目論んでいる

・地上で敵なしの龍にとって唯一の弱みが虫歯で、その為「龍の歯医者」という職能集団が存在する

・歯医者たちは龍と「契約」する際、自分の死のシチュエーションを知ってしまう(つまり彼らは近いうち必ず死ぬし、彼らはそれを受け入れている)

・彼らは死ぬと、龍の歯の中に取り込まれる

・ごく稀に、龍の歯の中から死んだ者が蘇ることがある

人智を超えた謎の巨大生命体・龍

で、結局「龍とは何?」と聞かれても、正直よく分からんのですよ。
それこそ、「エヴァ」における「使徒とは何?」に近いものがある。
アニメの尺がトータル2時間未満の長さゆえ、情報も足りてないし。
いや、「情報が足りてない」以前に、「うまく情報を表現できてない」ともいえる。
多分、設定の詳細は制作スタッフが全部事前に完成させてるはずなんだよ。
あとはそれをどう表現するかだが、作中に「全てを知る人物」を登場させてないので、セリフで説明するのは無理である。
そもそも言葉で説明してしまっては、せっかくのファンタジーが薄っぺらくなるし。
となると、あとは物語の中で現象を連鎖させて、視聴者側に考えさせていくしかない。
そこは「視聴者を信じる」、スタジオカラーが「エヴァ」で培ったノウハウである。
・・うん、そこまでは分かるんだ。
ただ、このやり方が「龍の歯医者」でうまくいったかというと、どうだろうね。
うまくいったなら、それこそ「エヴァ」みたくネット上で考察が盛り上がるような現象が起きてるはずだよ?
でも実際は、全然「エヴァ」の時のようにはなっていない。

主人公ふたり、野ノ子(左)とベル(右)

じゃ、内容について少し。
上の画のふたりが主人公になってて、野ノ子が既存の歯医者で、一方ベルは新入りの歯医者見習い(歯医者になるかは決めてない)といったところか。
ちなみにベルは戦場で既に死亡したはずの敵国の兵士であり、龍の歯から蘇って出てきたという特殊な境遇。
ゆえに「龍の国」の常識など全く知らず、彼は予備知識のない視聴者と同じ目線のストーリーテラーという役割を担っている。
先入観のない彼から見て最も違和感を覚えることは、野ノ子を含めた歯医者全員、自分の死を受け入れることで龍と「契約」していることである。
どうやら「契約」の際に龍は未来のビジョン(その人が死ぬ状況)を見せてくれるようで、その死を受け入れた者だけが歯医者になれるようだ。
それを知ったベルは
そんなの哀しすぎるよ。
死ぬのが分かってて、それを避けようとしないなんて、そんなの自殺と同じじゃないか

と言う。
うん、確かにそうだよね。
ただ、それを聞いた野ノ子は、
生きるって、長生きすることが目的なの?
とベルに尋ねる。
ベルは返答に困り、黙ってしまった。
多分、ここがこの作品の最大のキモだと思う。

作中、ヒロインの野ノ子はとてもカワイイ女の子として描かれている。
ノースリーブにBurberryのストール、というコスチュームはあざとすぎると思うが、これも「オシャレに関心のあるお年頃」という演出だろう。
つまり、性格的にはそのへんにいる子たちと変わらん、普通の子なんだ。
そんな普通の子が、「近いうちに自分が死ぬ現実を受け入れ、龍の歯医者をやってる」という哀しさとのギャップを狙ってるのかと。
でも彼女は自分のことを哀しいとは考えておらず、いつも明るく、イキイキとして生きている。
で、ポイントは、この野ノ子のcvをあの清水富美加がやってるということだよね。
これは明らかに、制作側の狙いだろう。
「龍の信者」である野ノ子と、「幸福の科学の信者」である清水富美加。
野ノ子⇔ベル
清水富美加⇔視聴者(我々)

この構図の作り方も、妙にあざとい。
いや、正直皆さんが清水さんにどういう印象を抱いてるかは知らん。
たとえ皆さんがどう考えてたとしても、清水さん自身は自分のことを哀れだとは微塵も考えてないはずで、むしろ我々よりよっぽど前向きに生きてると思うぞ。
信者ってやつは、大体そういうもんだし。
もちろん、これは野ノ子=清水富美加なのよ。

龍の歯医者における最古参のひとり、柴名

で、この柴名は「エヴァ」における碇ゲンドウ的立ち位置のキャラだね。
愛する人にもう一度会いたいが為、密かに「龍の国」を裏切り、自ら虫歯菌と同化して人間じゃない領域に踏み込んでいる。

ウェスト細くなったし、一石二鳥だわ(cv林原めぐみ)
そういや、碇ゲンドウも最後は使徒化してたよね

ある意味、柴名は「龍」という宗教から目が覚めた元信者ともいえるわけで、かといってベルと同じ立ち位置のリベラルなところに着地したわけじゃなく、逆に「虫歯」という新カルト宗教に入信しちゃったのね。
龍を倒すという、真逆のベクトルに行っちゃったわけだ。
分かりやすい、ヤンデレである。

そういや林原めぐみは、旧「エヴァ」でも最後エライことになってたっけ・・

こういう騒ぎの中、最後にベルは野ノ子にこう言うんだ。

僕は、やっぱり龍の歯医者にはなれない

こいつ、ヘタレ?
と思わせといて、実は違った。
この時、既にベルは自分の死を覚悟していたわけよ。
この点でいうと、同じく死を悟っている野ノ子らと同じスタンスである。
ただベルのそれが微妙に違うのは、それを運命として受け入れている野ノ子と違い、ベルは自らの選択として、自分の命を状況打開の為に使おうとしたんだ。
以前「死ぬのが分かってて、それを避けようとしないなんて、そんなの自殺と同じじゃないか」と言ってた彼だが、結局最後はそれを選択したわけよ。
哀れなベル?
いや、彼はもともと一度死んでるわけで(しかも、味方の裏切りで殺された無駄死に)、前回の死に比べれば今回のはちゃんと意味のある死である。
むしろ、いい締め方だったといっていい。

野ノ子を演じた清水富美加と、監督の鶴巻和哉氏

この作品、やはりテーマは「宗教」かな?
「エヴァ」の二番煎じ?
いや、「エヴァ」がキリスト教(ユダヤ教)をベースにしてたのに対して、今回は和のテイストゆえ、戦前の国家神道っぽい感じ。
しいていうなら、「お国の為に散っていった若者たちは、不幸だったのか?」といったところだろう。
いわれてみりゃ、龍の造形はほとんど戦艦大和だよね。
この作品は反戦というわけじゃなく、かといって戦争賛美でもない。
と同時に宗教賛美じゃないし、宗教否定でもない。
皆さんで各々に考えてみてくださいね、というふわっとしたものである。
この作品の監督は、「エヴァ」劇場版監督の鶴巻和哉氏。
昔から彼は「庵野秀明の右腕」っぽいイメージがあり、いうなれば押井守にとっての神山健治に近いものがあると思う。
正直いって、鶴巻さんと庵野さんの個性の違いがよく分からないほど。
よくも悪くもオタクの文脈のど真ん中にいる人で、厨二の文脈のど真ん中にいる人である。
こういうの、私は大好きだけどね。
無駄にオンナノコの服を脱がせるところとか・・。

野ノ子は、めっちゃ脱ぎっぷりのいい子

でも気をつけないと、確か清水富美加は「東京喰種」で不本意な役をやったことが出家の要因だった、という噂もあるぞ?

あと、鶴巻さんの色として「フリクリ」にせよ「トップをねらえ」にせよ、パロディをぶち込んでくるクセがあり、今回の「龍の歯医者」ではそういうのがジブリだったような気がする。

なんかジブリ映画で見たことあるようなのが多かったわ

・・ところで、これは続編あるのかな?
まだ未開封の情報がたくさん残ってると思うし、ぜひ続けるべきだと思う。
この設定は、まだまだ奥が深いって。
龍の謎を追っていく中で、いずれハクみたいなのが出てくるのはお約束だろう。

ハク

あと、野ノ子着用のストールも絶対設定があるはずだし、「進撃の巨人」のミカサ系か、「夜桜四重奏」のヒメ系かのどちらかだろう。

ヒメ

つまり、この物語はもっと深いところまで掘っていけるはずなんだ。
今後、楽しみにしてますね!


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