野原小麦

もうずっと妖怪が好きです。 好きのきもちをもてあましてしまったとき、わたしは詩を書きは…

野原小麦

もうずっと妖怪が好きです。 好きのきもちをもてあましてしまったとき、わたしは詩を書きはじめます。 境港妖怪検定「上級」合格しました。 つぶやきびと

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  • あぶくだま

    あぶくっこ の吐き出す あぶくだま

  • 令和時代の妖怪日和

    妖怪をテーマに詩を書きます。

  • 過ぎし日の妖怪日和

    世紀末、過ぎし日の妖怪日和。

  • 思い出の民 せつなびと

    思い出に生きる「思い出の民」、刹那刹那を生きる「せつなびと」。彼らは同じ世界に共存している。

  • こむぎいろずかん

    私が見つけて、私が名づけた、私だけが知っている、私だけの勝手気儘なおばけたち。私が名前をつけたけど、すべてを好きなわけじゃない。

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かなしみロボット

忘れられないワタシのことを ヒトはみな笑うのです どうして忘れられないのだろう ロボットだからさと ハカセは言います ロボットは永遠ではありません ボロになります しかも わりとすぐ ボロになります 人より早く ボロになります それなのに 忘れることだけできないのです 記憶を消してもらうことならできます 記憶は見えなくなりました 良かったなと ハカセは言います デモネ ハカセの記憶から 消えただけなのです まだ ここに ワタシの記憶はあるのです

    • 布団 12

       両目をあけたまま、じゃぶじゃぶと顔をすすいだ。  すすぐべきものは他にもある。  泡だらけのこたつ布団。  放って置くわけにはいかない。  ここは由里さんの部屋だ。  私と橘の勝手な洗濯で、いつまでも浴室を占領しておくことはできない。  もちろん、勝手なのは橘であって、私ではない。  だけど、そんなことは関係ないのだ。  布団を濡らし、浴室で大騒ぎしているのは私ひとり。  誰がどう見ても犯人は私。  しかも、このみっともない姿。  ズボンの裾を、右足は脛の途中、左

      • 布団 11

         鏡の前に立ち、しっかりと正面から自分を見た。  額の汗で眉毛がぐっしょり濡れている。  睫毛も濡れて、充血した白目は真っ赤。  霞んでいるのは私の目だった。  汗が目に流れ込んでいるのだ。  そのことに気づくと、途端に目が痛くなってくる。  汗が目にしみる。  だけど、自分自身の凄まじい顔面から目を離すことができない。  鼻の頭、唇の上。ぷつぷつとした汗の玉がびっしりと並んでいる。  なんて酷い顔をしているのだ。  見られたくない。  誰かに見られる前に、顔を洗お

        • 布団 10

           浴槽と便器の間に小さな洗面台がある。  そこにある鏡を見上げると、意外なことに鏡面は曇っていなかった。  優秀な曇り止め鏡。  私が映っている。  虚ろな瞳で私を見つめる私。  だらしなく口で呼吸する顔は醜く、情けない。  自分自身を気の毒に思った。  とりあえず一息ついたらどうですか。  心の中で、いたわりの言葉をかける。  よろよろと、私は浴槽から這い出した。 (つづく) 「布団」は「金魚」「ティーソーダ」「ハムスター」のつづきのおはなしです。

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        かなしみロボット

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          布団 9

           洗えてはいると思う。  どこもかしこも泡だらけなのだから。  洗剤は、よく泡立っている。  綿の隙間にまで行き渡っているはず。  問題は、すすぎなのだ。  水をかけ、足で踏み、しぼり出す。  裏返し、また水をかけ、しぼり出す。  くり返しているのだけれど、しぼり出される水が澄んでくる様子は一向にない。  この作業をはじめてから、どれだけ時間が経過したのか。  お湯は一切使用していない。  それなのに、浴室の空気が白く霞んでいる。  まるで入浴中みたい。  私の

          布団 8

           左足で布団をしっかりと押さえる。  この左足を軸に体を支え、右足をピッと右に伸ばす。  伸ばした右足で、軸足の方に布団をたぐりよせ、そのままチャッ、チャッ、と二回踏み込む。  最後にその右足を、グイ、と右にずらして、布団の水分をしぼり出す。  チャッ、チャッ、グイ。  チャッ、チャッ、グイ。  立つ位置を変えて、また。  チャッ、チャッ、グイ。  チャッ、チャッ、グイ。  裏返して、水をかけ。  チャッ、チャッ、グイ。  チャッ、チャッ、グイ。 (つづく) 「

          布団 7

           洗濯機が洗濯を拒否したからといって、水に濡れ、粉洗剤にまみれたこたつ布団をそのままにしておくわけにはいかない。  しかし、すでに洗濯から興味を失ってしまった橘に、これ以上の協力を求めることは不可能だった。  いや、橘に協力を求めるというのは間違っている。  そもそも、こたつ布団を洗おうといいだしたのは橘なのだ。  私の方が橘に協力していたはずなのに。  ユニットバスの浴槽で、私は、ひとり。  泡にまみれている。 (つづく) 「布団」は「金魚」「ティーソーダ」「ハムス

          布団 6

           こたつ布団が洗濯機に収まった時点で、こういった事態を予測すべきだった。  洗濯槽は、こたつ布団で、いっぱいだった。  他のものが入り込む隙間なんてなかった。  その上に粉洗剤をふりかけ、ふたをし、スイッチを入れたのだ。  自動で注ぎ込まれる水は、ほとんどすべてが外へあふれ出し、まわりだした洗濯機は、ものすごい轟音を立てて、右へ左へ、ずり動き、のたうちまわり、熱くなったアイロンみたいなニオイをさせながら、最後にひとつ、がったん、と大きく頷いて、停止した。 「ダメだね」

          布団 5

          「ダメだね」  諦めるのかと思ったら、そうではなかった。  途方に暮れる私をわきによけ、橘は両腕を布団の上から洗濯槽の中へ、ぐいっと突っ込んだ。  こたつ布団は洗濯槽の中へ、無理やり、ずぼっと押し込まれる。 「これで、よし」  誇らしげな背中を私に見せつけながら、橘は両腕を引き抜こうとした。  洗濯機がつられて、ぐわっと、手前に持ち上がる。  私は慌てて橘の下に潜り込んだ。  持ち上がる洗濯機を両手で押し戻し、立て直してやる。  橘は、もう一度「よし」といって、両腕

          布団 4

           手洗い、可。  洗濯機、不可。  そういった意味合いの表示だ。 「洗濯機はダメみたいだよ」  そんな私の忠告を無視して、橘は、すでに洗濯機に向かっている。  一度やってみないことには、気がすまないのだろう。  しばし付き合うことにした。  こたつ布団をできるだけ小さく折りたたんだ。  たたんで、たたんで、たたんで。  三回までがやっと。  三回たたむと八分の一の広さになる。  だけど、厚さは八倍。  その厚さ八倍のこたつ布団を橘と二人で押さえ込むようにして抱え上

          布団 3

           春の終わりの昼下がり。  部屋は暖かく、まだ冷房を効かせるほどではない。  それでも、こたつの中は少しひんやりとしている。  もちろん電源が入っていないから、真っ暗で何も見えない。  つかんだ布切れを離さないよう気をつけながら、こたつの中から頭を抜いた。  よく見えるように布切れを引っ張り出す。  天板も一緒に、ズズズと斜めにずれた。  出てきたのは、やはり品質表示だった。 (つづく) 「布団」は「金魚」「ティーソーダ」「ハムスター」のつづきのおはなしです。

          布団 2

           橘は、右側のこたつに取り掛かっている。  必然的に、私は左側のこたつ担当に決まる。  洗い方を検討しなければならない。  品質表示の確認が必要だ。  こたつの中に右手を突っ込んで、品質表示を探った。  布団の裏側。どこかに縫いつけられているはず。  正方形のこたつを一面ずつ調べていく。  まずは、手前に垂れ下がっている部分から。  次に、左側。それから、いちばん奥の面。  いちばん奥には手が届きそうにない。  そちらは後まわしにすることにして、向かって右側の一辺を探

          布団 1

           橘が、こたつ布団を洗おうといいだした。  由里さんの部屋には、こたつが2つある。  これらのこたつは、春夏秋冬、季節を問わず、一年中、出しっぱなしになっている。  その布団を今から洗うというのだ。  なぜ、今洗うのか。  不満に思ったが、こたつから布団をはりきって引き抜いている橘を見て、それを思いとどまらせることは不可能だと悟った。 (つづく) 「布団」は「金魚」「ティーソーダ」「ハムスター」のつづきのおはなしです。

          ハムスター 12

           水の入った水槽は、とても涼しげ。  しかし、なによりも気になるのは、やはり水の質量。  こんなにもたくさんの水をたくわえて、店の床は抜けてしまわないのか。  無意味な心配を抱えたまま、店内の細い通路をうろうろと歩きまわる。  ふと、赤い色に目を奪われた。  真っ赤というよりは、朱墨の朱色。  あの赤い小さな塊が、うようよと水槽の中をうごめいている。  由里さんの部屋にいるのと同じ、夜店の赤い金魚だ。  ものすごい数だった。  横幅90センチくらいの水槽いっぱいに浮遊

          ハムスター 12

          ハムスター 11

           見覚えのある水草を見つけた。  長く伸びた茎に、細長い葉が輪を描くようにして、定期的に並んでいる。  試験管用の掃除ブラシを長くしたような形。  パーティーの飾りつけに使うモールのほうがよく似ているかもしれない。緑色のモールだ。  教科書で見たオオカナダモに違いない。  そう思って水槽のラベルを確認すると、そこには「アナカリス」という知らない名前が記入されていた。  途端に、自分の記憶に自信がなくなる。 (つづく) 「ハムスター」は「金魚」「ティーソーダ」のつづき

          ハムスター 11

          ハムスター 10

           魚の飼育には水草が必要なのだろう。  理科の時間に「メダカを飼うときには、オオカナダモという水草を植えましょう」と教わったことを思い出した。  光を浴びたオオカナダモが、光合成をして酸素を出す。  オオカナダモが出した酸素をメダカが取り入れ呼吸して、二酸化炭素を吐き出す。  メダカが吐き出した二酸化炭素をオオカナダモが光合成にまた利用する。  そんな内容だったと思う。 「オオカナダモはメダカの産卵場所になります」という説明だったような気もする。  理科が好きだったば

          ハムスター 10