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100の綴り。

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100の綴り:ベッド

100の綴り:ベッド

広い、広いベッドには洗いたての、お日様の匂いがする白いシーツが敷いてある。私はそのシーツの上に寝そべり、太陽の光を浴びていた。開け放った大きな窓から吹き込む風が皮膚の上の温かさを優しく奪っていく。私はなんとなくぼんやりと、大切な考え事をしていたのはずなのに、気付けばいつの間にか違う別の事を思い出していた。きっと、私が吸血鬼だったらとっくの昔に灰になって風に飛ばされてしまっていたに違いない。なんて

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100の綴り:電車

100の綴り:電車

いろんな人が沢山乗っている朝の電車。大学に2時間かけて通う月子にとっては後ろから無理やり押されたり、鞄を引っ張られたり、舌打ちされたりと、とにかく煩わしく嫌いな時間だった。その上今日は運が悪く女性専用車両に乗れなくて、サラリーマンの中年男性や、香水のきつい匂いのする男の人と車両にすし詰めされて、心を無心にしてじーっと窓の外を眺めて、はやく降車駅につかないかとただそれだけを考ていた。朝の、満員電車な

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100の綴り:包丁※ちょっと残酷

まぁ、その私という奴はどこにでもいる、どこにでもいない少女だった。最早少女と呼べる年齢だと断言できないあたりも悲しい。およそまあ、普通より少し裕福な家庭に、まあ普通より少し美しい両親のもとに産まれ落ちた私はなんというかまあ、普通より少し可愛かった。少しだけ。それは蝶よ花よと育てていた両親もわかっていて、だからこそ可愛いといいながらもその反面あれができない、これができないということでバランスをとって

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100の綴り:燃える

100の綴り:燃える

「あなたは、臆病者だわ。これっぽっちも救われたいと思ってないのに、そうやっていつまでも被害者面でいるのよ。」

 彼女のその言葉にかっとなり、白く細い腕を掴んでベッドに引き倒す。おびえるでもなく、怒るわけでもなくただ真っ直ぐな射抜くような目にこちらがひるんでしまうほどだった。それでも、力をこめて腕を掴み彼女の表情を無理矢理に歪ませる。

「あんたに何がわかる。」

「わからないわ。だって、あなた何

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100の綴り:湖

100の綴り:湖

「いいか、これはとある湖にまつわるはなしだ。」

それは、俺の爺さんの口癖だった。

「流石に夜は冷えるな...」

 夜になり、日が沈むと気温は下がり体温を緩やかに奪っていく。今日中にどうにかしてこの山を超えて人の住む場所へ辿り着くつもりだったが、道を間違えたらしい。森のような木々の合間を縫うようにして俺は山を登る。幸いかは疑わしいが背中の荷物は今朝、宿を出発したときより軽くなっていた。夜になっ

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100の綴り:青

100の綴り:青

 授業が終われば学校は役目を果たしたかのように収束を迎え、子供たちの楽園と化す。私たち子供は広く、そして狭い檻の中で大人たちに観察されながら、世界を見つめているのだ。

「ねぇ、いつもどんな曲を聴いてるの?」

 私が鞄にいつも大きなヘッドフォンをぶらさげているのが気になっていたのだろう。前の席に座っていた数少ない女友達の柚葉が椅子に跨って私のほうを向いてそう質問した。彼女の長い髪が揺れると爽やか

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100の綴り:運命

100の綴り:運命

血と、埃の匂いがする。剣を握りすぎて豆ができ、その豆が潰れる。しかし、この血の匂いはそれではない。限りなく死臭に近い、血の匂いだった。

「もう、やめればいいんじゃないのか。」

「あら、どうして。」

「そうなってまで、女が闘う理由がわからない。みつからない。」

ゴツゴツとした骨ばった男らしい彼の指が私の頬の小さな擦り傷から滲んだ血をぬぐうとピリ、とした痛みを感じて思わず眉を潜める。そんな

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100の綴り:空

100の綴り:空

夏の入道雲が立ち上り、突き抜けるような青空が今は、憎い。やかましく鳴り響く蝉の声に、やる気をすべて根こそぎ持っていかれるような気分だ。窓を開けていても風鈴がちりんちりんとなるばかりで、一向に部屋の温度は下がらない。むしろ、暑い。

「あっちぃ…」

梅雨も終わり夏休み。やることもなくだらだらと自分の部屋で時間を浪費しているとふと、耳に入るあいつの声。俺の部屋の窓が開かなくなり、あいつとの距離は自然

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100の綴り。:星座

100の綴り。:星座

 私は数学がとても苦手だ。コサインやタンジェントそんなものわからないし、公式なんてちっとも頭に入らない。なぜなら、私はずっと先生を見ていたから。

 「今日から数学の担当になる小林です。」

 ものすごくかっこいいとか、スタイルがいいとかそういうのではなく、きっとこの人は私が一生かけても理解ができない人だと思ったのだ。窓を開けて心地よい風が入り暖かい日向の教室。春。その季節に私は先生と出会ったのだ

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100の綴り:月

100の綴り:月

昔、月は7つあったらしい。7つも月があった頃はこんなに寂しい夜は訪れなかったのだろうか。きっと、1つだけ、一人だけ取り残された月だから寂しく思ってしまうのだ。

透明なボウルで掬い上げた月は一口大の大きさで、口の中に放り込んで飴玉のように舐めて溶かす。そうやってたった1つだけ残された月さえも無くなれば夜はどうなるのだろう。

少しの光も見えない真っ暗闇になるのだろうか。それとも夜には星だけが残り煌

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100の綴り。

以前このタイトルでブログを作っていましたが使いづらかったのですっかり放置していたのを忘れていました。

私の好きな単語100個に対して100の物語を作ってみようという試みです。よろしければおつきあいください。どこから始めるかは私のその時の気分で決まります。

1鏡2月3星座4空5氷 6空気 7血 8骨 9眼球 10指 11筋肉 12男 13女 14爪 15靴 16イヤリング 17服18口紅 19夢

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100の綴り。:鏡

100の綴り。:鏡

 向き合う。じっと見つめる。鏡の中の自分は白く透き通るような肌は冷たい雪を連想させて、まるで生きていない人間みたいだった。いや、むしろ生きてなくても構わないと思ってしまう自分を笑うが、その笑みにさえ見とれてしまう。これで観賞用だと胸を張って、私はただ笑っているだけで愛される人になれるのだ。さようなら醜い私。

 私は、朝起きるのが嫌だった。起きるといやでも自分の顔を見ないといけないからだ。どんなに

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