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窓辺の猫 第五十回 「仲間意識」

外は危険でいっぱいだ。
野良暮らしを経験した後輩の猫は家の中から出て行かない。
最近では窓を開ける音がしただけでも、その部屋から出て行くようになった。飼い主のいない外猫が家の中に突入してきたことがあったから、警戒しているのだ。
自分だってそうやって、家猫になったくせに歓迎する気持ちは微塵もない。
ただ一方で、先輩には加勢しなければいけないという気持ちは持っている。
先輩が負けたら、この家はボス猫に乗っ取られてしまう。
先輩の縄張りに入れてもらった居候の身としては、先輩が逃げずに戦っている様子を陰ながら覗いてみないではおれないのだ。
外のボス猫がそれほど気が強い性格でないのもわかっている。
怪我をするほど自分から喧嘩を仕掛けてはいかないのだ。本当は先輩がゆったりと受け入れれば、家族が増えるだけになるのかもしれない。でも、ボス猫が幅を聞かせるとしたら、子分になるのは絶対に嫌だ。

臆病だけど、少しのプライドは持っている。
本当は誰よりも猫らしい猫なのだ、トンボ猫は。

GWは全く計画していたように過ごせなかった。雨続きの前半に体調が優れず、晴れたと思ったら強風が吹き荒れて庭作業もままならなかった。立夏の5日の前は春土用なので、土を動かすつもりはもともとなかった。だが、虫除け用に作ったハーブをぶち撒けるつもりもなかった。恨めしいのが父の所業。公土神にお仕置きされてしまえばいい。

荒れ模様の天気では猫のトイレも外で洗えない。そもそも父のせいで水道が使えない日があった。それなのに、5月2日の早朝に父が開けっぱなしにした玄関扉から飼い主のいない猫四匹のうち、ボス猫がよりによって室内に侵入してしまった。ボス猫は出て行かず、人間はそのまま外出せざるをえなかった。

ボス猫を一日追い回したらしい先輩猫。後輩猫は時折援護して、ほぼ隠れて寝ていたようだ。
飼い猫のトイレで用を足したらしいボス猫。健康状態はまずまず良好のようだった。トイレの周りにはトンボ猫の毛も散っていたから、トイレを使われたのは嫌だったようだ。

夕方にはボス猫が外に去り、掃除はしたが、いかんせんトイレが洗えない。ノミダニが心配なので、猫砂とペットシートは思い切って捨てた。畳は雑巾掛けをした。
そして、翌日トンボ猫を洗った。セミ猫先輩は薬に弱く、高級なノミダニ薬を使っている。3ヶ月継続だ。トンボ猫は玄関で寝転がって毛を削る。ブラッシングをさせないので、全身拭くのは難しい。

シャワーの時はブラッシングの時よりおとなしい。逃げ回るけれど、おやつにつられて自分の足で風呂場に来る程度である。洗ってもらえばスッキリすることを学習している。ドライヤーさえ回避できればあとは野となれ山となれだ。
わたわたしながら洗ってもらい、タオルドライ後は渋々私の部屋に暖房をつけた。
風呂後は窓辺に行く事はわかっていたから、バスタオルをそこに敷いた。

実のところ、先輩より汚れているのはトンボ猫もプライドが許さない。セミ猫ほど過剰な毛繕いはしないが、たまに仕方ないから洗わせてあげようという態度で人間のお風呂についてくる。セミ猫は脱衣室に入りたいだけだが、トンボ猫は浴室が好きだ。足の悪いトンボ猫には滑るから危ないので閉め出すが、するとキュンキュン鳴く。

もしかしたら、セミ猫より綺麗好きなのかもしれないが猫の気持ちは分からない。とりあえず、怖いけどいつだって洗われる覚悟があるのがトンボ猫だ。セミ猫は洗われたい時しか来ない。それも年に一度くらいだ。

猫は単独生活をすると言われるが、素人認識とはちょっと違うようだ。少なくとも先輩猫から学ぼうとしたり、怖くても加勢しようとすりトンボ猫の様子を見ると雌猫は縄張りを共有することができるのではないかと思う。
同じ家で暮らして、同じ釜の飯を食らう仲間意識があるのではないか。
なんだか、前回もこんな事を書いた。

私のはじめてのクラファンの試みはGWで心が折れた。しかし、猫家族の避妊手術はしたいので、GWにネットフリマなどにも勤しんだ。数千円にもならなかったけれど。

もはや、外猫たちも同じ敷地で暮らす我々の仲間なのだ。セミ猫もトンボ猫も認めてはいない。それでも外の風が厳しいと同情するのか、窓辺に来ても威嚇しなかった。
トンボ猫は逃げるだけだ。

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