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「デザイナーと仕事する」ってどういうこと?ー事業会社の中からみたデザインのお仕事その1|問い

こんにちは。
NEWhでサービスデザイナーをしている渋谷(しぶたに)です。
私はもともと事業会社のデザイン部署出身で、今は支援側にまわりクライアント様と一緒にデザインのお仕事をさせていただいています。

このnoteでは、
・事業会社の中でデザイン部署で働いている方
・デザイナーに仕事を依頼している方、しようと思っている方
向けに、どうすればお互いの垣根を超えてワクワクするデザインが出来るか
ということをサービスデザインという営みを通じてお伝えできればと思います。

1.サービスデザイナーってそもそも何?


そう思われる方も多いでしょう。私も事業会社にいる間はその存在を知りませんでした。そもそも、「サービス」と聞くと、「サービス残業」や「サービス精神」という言葉が連想されますよね。広辞苑で引いてみると、以下のように書かれています。

1. 奉仕。他人のために尽力すること。「家族ー」
2. 給仕。接待。「ーのいい店」
3. 商売で値引きしたり、客の便宜を図ったりすること。「付属品をーする」
4. 物質的生産過程以外で機能する労働。用役。「ー産業」

広辞苑

日本においては「奉仕」という意味が一番に出てきます。(その代表が「家族サービス」であるという現実は変えていきたいですね)どうやら日本の辞書にある「サービス」の意味はどれもサービスデザインとは合致しません。
英語圏の辞書ではどうでしょうか。

Service-
1. the official system for providing something, especially something that everyone in a country needs to have, or the official organization that provides it.
1.何かを提供するためのシステム、特に誰もが持つ必要があるもの、公的な機関が提供するもの

2. a particular type of help or work that is provided by a business to customers, but not one that involves producing goods
2.顧客に対する特定の種類の支援または作業。商品の生産を含まないもの

となっています。(他にも訳は存在しますが、ここでは割愛します。)
日本の訳よりも広義で抽象的なもの、かつ精神性よりも産業的な特性を指しています。「サービスデザイン」とはそう、日本ではなく欧米で生まれた考え方であるからこそ、こちらの訳の方がしっくりきます。
私なりの解釈では、「サービス」とは「ユーザーに何か体験と感情をおこさせるもの全て」であり、その各パーツの役割を正しく設計し、それぞれを紡ぎ、価値あるストーリーを描き出すことが「サービスデザイン」だと思っています。つまり、究極のところ会社の中でサービスデザインに関係しない仕事は一つもないのではないか?という考えに立っています。この考えに至った経緯は、前職の事業会社の中にいたからこそなのですが、少しその時の話を次でしたいと思います。

2.何をデザインするべきなのか?という疑問


私はある企業の中でデザイン部署のディレクターとして働いていました。
グラフィックデザイナーや建築デザイナー、ディレクター、イラストレーター、UIデザイナー、UXデザイナーなど様々な肩書きのデザイナーが所属しています。
ある日、私の席に来たある戦略部長から、この様な相談がありました。
「このレストランが、売上が伸張している。ここでデザートを刷新して、女性とお子様の顧客をさらにゲットしたい!デザインを考えてもらえないだろうか」
この様な相談は毎日のようにありました。
様々な想像や疑問が頭に浮かびつつ、そのデザートは自分も食べたことがあり、品質が非常に良く丁寧に作られたものでしたから、私も気合を入れて打合せに臨みました。
ところが、次の打合せでこんなことを言われてしまうのです。
「ターゲットや販売量、コスト、価格はこちらで決めてあるので、それに沿ったデザインを考えてほしい」

この手の依頼は実際のところ非常に多く、デザイナーの関わる範囲というのは、ある程度企画が練られた上での表層のこと。良いデザインであれば売れる、そうでなければデザインが悪い、こういった考えは古い様ですが企業の中にはまだまだ根強くあります。最近は「デザイン思考」という言葉もよく使用され、企画の段階からデザイナーの意見を取り入れようという動きのある企業もありますが、何の目的でどのような効果を期待しているかは曖昧なところが多いのでは無いでしょうか。

3.誰がデザインするべきなのか?という疑問


組織の分業やスピード化を追求する上で、縦割り組織は長く支持を得てきました。「商品」「MD」「経営企画」「広報」「営業」といった様に、それぞれの部署内に専門となる人材を集め、部署内で結果を出す。それぞれの部署でKPIが設定され、ガントチャートが作成され、プロジェクトが進行していく。例えば先ほどの例で「お店で提供するデザート」を一つ取っても、以下のような業務が関連してくることが想像できます。
・調達
・商品設計
・物流
・販売チャネル
・販売促進/マーケティング
・パッケージデザイン
・接客
etc…
これらは全てが揃わなければサービスとして成立しませんし、顧客は全てを一つの体験として認知します。しかし、デザートの例で言えば、これらは全て別の部署が別のKPIのもと走らせていました。

具体的には
・商品設計:商品部・・・販売数と粗利   
・物流:物流本部・・・物流コストの削減
・接客:営業部・・・オペレーションの簡略化とサジェッション回数

この様にKPIに基づいてそれぞれの部署がバラバラに動くことで、本来設計しなければならなかった「女性とお子様の顧客が増える」という「コト」は
いつの間にか見失われ、「モノ」に執着した仕事になりがちです。そうすると部署間はお互いの利害でぎくしゃくし、途端に発言が義務的でやらされ仕事の様になる、という経験はみなさんも沢山されているのではないでしょうか。

4.サービスデザインのアプローチ


では、どの様にアプローチするのがよいのでしょう?
ユーザー目線に立ったデザインの部署が声高に、「ユーザーのことを考えましょう!」と言ったところで、なかなか動かないというのが現実です。
私は、サービスデザインという考え方に出会い、そのメソッドを実践をしていくことで、お互いの垣根を超えてワクワクするデザインに近づいていけるのではないかと思っています。もしあなたがプロジェクトの旗振りをする立場を任されたら、サービスデザインの考え方を参考にしてみてもらえたらと思います。
ではどの様に考えるかというと、先ほどのデザートの場合、まず「問い」を「問う」というところから始めます。商品部長の話を思い出しましょう。

「あるレストランが、売上が伸張している。ここでデザートを刷新して、女性とお子様の顧客をさらにゲットしたい!デザインを考えてもらえないだろうか」

商品部長さんのお悩み

この話の中には、沢山の「問う」べき「問い」が隠されています。
・なぜ、売上が伸張しているのだろうか?
・なぜ、このタイミングでアクションを起こすのだろうか?
・なぜ、デザートを刷新することで女性とお子様が増えると思うのか?
・なぜ、女性とお子様を増やしたいのだろうか?
・なぜ、デザインを変えるのだろうか?
当たり前に気付きそうな「問い」ではありますが、いかに良質な「問い」
を問えるかによって、その後のチームの共通認識は変わってきます。
これらの問いを一つ一つ明らかにすることによって、まず何を今から始めようとしているかということの解像度が上がってくるのです。
その際に大事なのは、ビジネス的な問いから入るのではなく、一人の人間としての「素朴な疑問」をどれだけ持てるか?というところです。

中には、この様な「問い」はプロジェクトの進行を遅らせるものであり、否定的に捉えられる方もいらっしゃるでしょう。しかし、この様な「問い」を
することは、ビジネスの新たな「機会」を発見することに繋がるかもしれないのです。思ってもみなかった方向に良いアイディアが生まれ、チーム全員でワクワクできる様なゴールがイメージできた時、人は能動的になります。
部署ごとで縦割りで仕事を進めるよりも、進んで様々な部署が関わる様になれば、その方が業務の効率も良くなる可能性もあります。
そして何よりも、この「問い」というワークは自分自身がユーザーであるという基本的なスタンスに戻って考えることに、測りしれないデザインメリットがあります。

次回は、この「問い」に対してどの様にアプローチし、チームメンバー全員で共通認識を持つかという方法論をお話できればと思います。







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