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メリークリカエシマス
12月24日。
「クリスマスなんて来なければいいのに」
バイトからの帰り道、歩道の空き缶を思い切り蹴っ飛ばした。空き缶は野良猫にぶつかり、鈍い鳴き声を上げて走り去っていった。
大体、どいつもこいつも面白くない。
何が「華やぐ街」だ。
何が「ホワイトクリスマス」だ。
クリスマスなんて、サカるのを見せつける口実じゃないか。
一生懸命働いても、今日も店長に叱られるし慰めてくれる彼
誰にもなれなかった夜
「何だってこんなにも月が明るいんだ。畜生が」
刺すように冷たい光を投げかけている月から逃げるように、男は裏通りへと続く道へ入っていった。年に一度だけと浮かれている町並みも、それに混じることのできない自分も何もかもが面白くない。
後ろめたい気持ちがないといえば嘘になるが、それ以上に全てをめちゃめちゃにしたくて仕方がない。
ガラ ガラ ガラガラ。
いつのまにか男の手には錆が浮いて
首なし地蔵とあんころもち
ある村の風習で、稲の収穫が終わった後の祭りが終わった後には必ず村のはずれの六地蔵の前にあんころもちを供えるというものがある。そのお地蔵様も変わったもので、すべて最初から首がない。その地蔵には、こんな言い伝えがあるという。
昔むかし、村のはずれにカタワの男とめくらの女が住んでいました。村の者は哀れがって何かと村の中で暮らしていけるよう世話をしていました。男と女は一人の娘をもうけていましたが、娘
掌編小説「カーブミラーの先で」
あの十字路を曲がれば、てっぺんにカーブミラーのある坂道に出る。坂道を登って曲がり角を曲がると、そこに家があるはずだった。夕焼けの中、何度も何度も十字路を曲がって、カーブミラーのある場所へ行こうとした。それでも、いつまで坂を登っても家につかない。疲れて空を見上げるといつの間にか夕焼けは消えて、一番星がきれいに見える。周りの家からは夕食を作る匂いと電灯の暖かな光が漏れてくる。世界中で自分だけがぬくも
もっとみる掌編小説「誰かのミカタ」
「そんなの全部インチキじゃないですか!」
「いや、君が何を言っているかわからないよ」
何を言ってもはぐらかしばかりで、先ほどからこの調子で30分は経っている。このボクに間違いがあるはずがない。
「これは明らかに詐欺行為じゃないですか!」
「それでも、こちらとしては了承をもらって、双方合意の上成り立っていることだから、ね」
話を聞けば聞くほどおかしな話だ。メグミが悪いわけないじゃないか。アイツら
掌編小説「さかなつり」
「魚釣りに行こうよ」
うたた寝をしていたら、少年が二人バケツを持ってやってきた。
「でも私たち、竿を持っていないわ」
「竿を探すところからが魚釣りだよ」
私は少年二人に手を引かれて、淡い緑色の地面を歩き始めた。この二人とはとても仲が良かった気がするが、名前が出てこない。
「でも私、仕事があるから家に帰らないと」
「仕事はオトナがするものだよ。君は女の子じゃないか」
本当の私は40手前の冴えな
夏と向日葵と家族旅行
埃っぽい部屋は息が詰まる。何年この部屋にとどまり続けたのだろうか。
「行き先なんて決まっていないんでしょ」
優しい顔の母が僕にささやいてくる。
「僕はこの部屋から出たいだけだ」
母の好きな向日葵とスーツケースを持って、僕は母と一緒に部屋を出て行った。
母は僕の本当の母ではなかった。本当の母はもうずっと昔に亡くなっている。仕事が忙しい父は僕にあまり構わずに、お金目当てで婚活してきた女性をう