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美味いもんだが食べすぎはアカン。

 昨日野菜の直売所で銀杏を見かけた。

 ビニール袋にパンパンに入って一袋150円と格安だったので思わず買い求めた。

 子どもの頃は近所の神社に拾いに行っていた。

 そのまま掴むと手がかぶれるので軍手をはめてうっすらオレンジ色とも黄色ともとれる淡い色の実を一つずつ拾った。
 
 ご存じの通り落ちたての実は何といって臭い。

 鼻が曲がりそうになりながら息を止めつつ必死で拾った。
 
 ビニール袋いっぱいになったら口をしっかり縛って家に持ち帰る。

 帰宅してすぐにバケツに水を張ってそこに採れたての銀杏を入れておく。

 大体三日位漬けておくと実がふやけてブヨブヨしてくる。

 そうなったらビニール手袋をはめて実をこさいで種を出す。

 後は天気のいい日にザルに並べて三日間天日干しにするとようやく見慣れた銀杏が出来上がる。
 
 ここまでの工程を私は祖父と一緒にやったものである。

 後はペンチでヒビを入れて焙烙で乾煎りをする。

 時おりパチンと跳ねて危険なのでこれは大人の仕事だった。

 殻がこんがり焦げたところで剥いてみるとヒスイ色の胚乳が現れる。
 
 後は塩をつけながら頂くだけである。
 
 ハムッと食べるとむっちりもっちりした食感で歯に引っ付きそうになる。

 それでも嚙んでいくと柔らかな甘みとほのかな苦みが口の中に広がる。

 その風味が何とも言えず乙で子どもながらにたまらないと思った。

 祖父にもっとちょうだいというとこれは子どもには刺激が強いと言って少ししか食べさせてくれなかった。

 一度の食事でせいぜい三粒もらえれば上出来だった。
 
 銀杏自体は非常に美味いものなのでそれがいつも不満だった。

 やがて成長して大学生になった私は秋にスーパーで銀杏を買い求めた。

 ニ十粒で三百円もして拾えばタダの物がそんなにするのかと驚いた記憶がある。

 それでも積年の想いを遂げるために銀杏を茶封筒に入れて塩を振りかけて封筒の口を幾重にも折りたたんでレンジに放り込んだ。

 しばらくするとバンバンと景気のいい音がしはじめる。

 音が止んだらレンジ銀杏の完成である。

 劇的に安い日本酒をお燗して銀杏を小皿に並べた。

 ではではと手を揉みながらまずはお酒をツイッ。

 喉の奥がカッと熱くなる。
 
 そこにすかさず銀杏を放り込むとえもいわれぬ風味の競演が広がった。

 ええっ、日本酒と銀杏を合わせるとこんなに美味いんだとびっくりしながら一粒もう一粒と口にしていった。

 ニ十粒位の銀杏を食べるのは訳もなかった。
 
 いやぁすごい体験をしてしまったと思いつつ大満足でお酒を飲み続けた。

 ご馳走様をしてしばらくすると何だかお腹が痛い。

 ううん?何か悪いもの食べたっけと思いつついしばらくトイレにこもった。

 その日はずっと部屋とトイレの行ったり来たりになって眠れない夜になった。

しばらくして実家から電話があったので母に何げなく今年は銀杏をたくさん食べたよ、美味かった~と言うとあんたバカね、銀杏には毒があるんだよと言われてゲゲッとなった。

 何でも子どもなら七粒程度、大人でも十五粒くらいを目安に食べるのが当たり前だとの事。

 確かに祖父も子どもの私にはほとんど食べさせてくれなかった。

 ええ~そういうことは早く言ってよと思ったが己の間抜けさが際立つのでそれ以上はその話題は掘り下げなかった。 
 
 後年知った事だが銀杏には死亡事故例もあるようで食べすぎは厳禁の悪魔の実である。

 今年も一日十粒くらいを目安にチビチビと大切に食べたい。

 とまあそんな事を教訓としながら昨日の晩御飯のお話を。

 昨日は寒くなったので鍋。

 鶏モモ肉を一口サイズにカット。

 野菜は白菜と玉ねぎ、ジャガイモ、長芋。

 ザクザクとカットする。

 副菜はキャベツの卵とじ。

 キャベツを千切りにする。

 フライパンに油を敷いて火を点ける。

 キャベツをしんなりするまで炒めたら軽めに塩コショウ。

 そこに溶き卵をタラリと流し込んでオムレツ状にまとめる。
 
 お皿に移したらケチャップをかけてあっと言う間に一品出来上がり。

 つまみは知り合いから貰ったコメダ珈琲店のあの豆を食べる。

 もう一品はもちろんレンジ銀杏で決まり。

 居間に鍋を運んでコンソメと塩を入れて火を点ける。

 沸騰したら鶏肉と野菜を入れて煮えたらいただきます。

 昨日のお酒は安定銘柄のビール。
 
 プルタブをレピッシュと起こしてパヤパヤ。

 ググィッと飲むと一日の疲れが溶けていく。

 ああ、ビールは命の水だなぁと思いつつコメダの豆をポリポリ。

 鍋が煮えるまではキャベツの卵とじでつなぐ。

 オムレツにキャベツが入っただけだがシンプルなこういった料理はお手軽で安心できる味でいい。

 箸休めに銀杏に塩をつけて頬張る。

 あまり食べすぎないように二人で大切にパクリパク。

 そうこうするうちに鍋が煮えるのでふたを開けてボワッと。

 コンソメ味の鍋なので洋風な味わいでなかなか面白い。

 煮えた長芋のショリショリした歯応えが楽しい。

 玉ねぎもしっかり煮込むと甘みが出て食べていて笑顔になる。

 モリモリ食べてビールを三本飲んだところで締めに。
 
 締めはクリームシチューにアレンジした。

 鍋のいい出汁がシチューにしても素敵で妻と二人でお代わりをして食べた。
 
 さすがにお腹いっぱいになったのでご馳走様。

 片づけをしてお腹をさすってみたがどうやら大丈夫そうだった。

 飲んべぇ殺すにゃ刃物はいらぬ銀杏百粒あればいい…。

 おお怖っ。

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