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甘いお菓子に合う日本酒を探せ。左党と右党の日本酒実験

飲兵衛の左党、甘党の右党、嗜好において真逆に置かれることの多い2つの嗜好ですが、僕は両方好きです。最近は「デザートワインのような日本酒」なんて紹介されるものも増えてきましたし、お酒と甘いもののマリアージュをすすめるお店も増えてきました。
では、実際にどんな日本酒がどんなお菓子に合うのだろう?
ちょうど、自宅にいただきもののお菓子が余っていたので、ペアリング実験を実施。一度味わえばもうストレートな組みわせには戻れない、魔性の組み合わせを発見してしまいました。

甘味はバター、キャラメル、チョコの3種

こちらが、家にたまっていた本日の「酒のあて(甘いもの)」です。

右から順番に
A)フィナンシェ …バターの甘み
B)フロランタン …キャラメルの甘み
C)チョコレート(甘み) …チョコレートの甘み、苦味

そう、どれもいただきものです。あまりです。

お酒はタイプ違いの3種

お酒も3種。こちらは家にある&「合うかも?」というものを選びました。

同じく右から順に

あ)繁桝 純米大吟醸 生々(福岡 高橋商店)
い)華鳩 貴醸酒の生にごり酒(広島 榎酒造)
う)古酒 KINENBISHU 1983(福島 笹の川酒造 ※酒茶論)

フレッシュな新酒、甘みの貴醸酒、個性派の古酒です。
どれもそのままでもとってもおいしかったのですが、あえて甘い物と一緒に味わってみました。お酒を軸に評価していきます。

フルーティーな新酒に甘いものは、ややきびしい…

まずは(あ)の繁桝から。フルーティさ(といっても華やかすぎるわけではなく、果実よりのフレッシュな爽やかさを感じるといったところ)と、後味をしめる酸が特徴のこのお酒。開栓後数日たっていたため、やや丸みがでて、舌の上にもったりと居座るような厚みも生まれてきていました。この状態も美味です。

甘いものとの相性で言うと…これは全部イマイチ。お酒の味も甘味の味も生かしきれていない。

×A:フィナンシェ
バターの膨らみと完全に喧嘩。お酒のフレッシュさが見事に邪魔をします
×B:フロランタン
キャラメルの強さに完全に負けています。結果、味はわからないのに後味の酸味さけがやってくるという変な具合に
×C:ビターチョコ
やる前からダメだろうと思っていたけど、ビターチョコが強い。フルーティーさが見る影もなくなりました

「本当に合う味をわかりやすく実感したければ、合わない組み合わせも知ること」とは、大塚・日本酒はなおかさんの言葉。痛感しました、びっくりするほどあいません。蔵の方、へんな合わせ方してしまい本当にすみません。

乳酸系は「苦味」を丸くする

続いては(い)の華鳩。貴醸酒のなかでも「新酒」というこちらは、トロリとした舌触りと強めの乳酸を感じる「濃厚カルピス」のようなイメージ。こんなキャッチーな飲み物が成人限定だなんて、世の不条理です。

ちなみに、榎酒造は日本ではじめて貴醸酒を造った蔵です。
貴醸酒とはざっくりいうと、「仕込み水の代わりに『酒』を使った、ちょっと贅沢で甘いお酒」のことです。
もうちょっと踏み込むと、日本酒は「並行複発酵」(1・麹菌による糖化→2・その糖分を酵母がアルコール化)で醸すのですが、その最中にあえてすでに発酵された「酒」を加えることで、2のアルコール発酵を抑え(酵母って、アルコールでとまるんです。自分で出すくせに)、1の糖化だけが進む。つまり甘みが強くなるという感じです。(認識違いあれば教えてください!)

で、この貴醸酒と甘いものというと…「まあまあ」です

△A:フィナンシェ
バターの風味に乳酸由来の甘さが絡み…出すとおもったのですが、別物の甘さでした。甘さの濃度は近いものの、タイプが異なるので違和感あり。
△B:フロランタン
合わなくは…ない。しかし、貴醸酒の綺麗な甘さはキャラメルなどの強い甘さには合わないかもしれません。
◯C:ビターチョコ
期待していなかったこの組み合わせ、いいです! お酒のにごり(おり)がチョコレートのビターさをうまくコーティングし、ほのかな甘みがあわさる。しかし、せっかくのビターチョコレートのよさを消してしまっている印象も。

重い古酒が、スイーツで化ける!

最後は(う)の古酒。35年ものとあり、見た目も琥珀色。香りは枯れに枯れた熟成香。人によれば「薬くさい」ともいう独特の風味があります。さらに味も熟成によるカラメルのような苦み、舌をしぼりあげるような個性があり、単独で飲むにはなかなかハードルが高いお酒です。もっとアルコールが高かったらウイスキーみたいにボディの重さでまとまるのかもしれません。
甘いものとの相性は、これが一番よかったです。3種の甘いもの、すべてで一番合いました。

◎A:フィナンシェ
バターの軽さとスモーキーな熟成香がもちあげ、柔らかい甘みを熟成のコクがぐっとしめる。(スイーツ=弱)+(酒=強)の組み合わせがばっちりです。
◯B:フロランタン
3つの酒のなかでは一番合います。甘いものに古酒は鉄板。しかし、フロランタンのキャラメルの味と酒のカラメルのニュアンスが近すぎるのか、合わなくはないけれど盛り上がりもないです。
◯C:ビターチョコ
期待していたほどでは…。なぜかというと、Aのフィナンシェは「甘さ」と「苦味」の足し算があったけれど、「ビターチョコ」にはすでにその相反する味の式があるんですね。もったいない…。

甘いチョコレートで再実験

たまたま冷蔵庫の奥に甘いチョコレートを発見。もちろんもらいものです。

D:ミルクチョコレート
すごく合います!! クセと苦味がある古酒には、ミルクチョコと好相性でした。
ミルクチョコレートは「わかりやすい甘さ」が特徴。それが個性的な香りとコク、苦味のある古酒とあわさると、途端に複雑で上品な甘さに変身します。高級スイーツをいただいているかのような気分です。

古酒を温めてみた

甘いものによく合う古酒、せっかくなので温めてみました。クセのある香りは一層立つものの、やや角がとれてスムーズに身体に染み込みます。

C:ビターチョコレートが化けた!
常温では「それほど…」だったビターチョコが、おかんではぴったり。お酒の苦味がチョコのビターさをぐーっと伸ばし、その奥からお酒とチョコの甘みがどんどん伸びていく。チョコと酒が完全に協力しあっていました。


おまけ:バニラアイスもあう!

ちなみに華鳩は、公式で「バニラアイスにかけて」とあります。せっかくなので試してみると…これがもう最高です。バニラのやさしい甘さと、貴醸酒のフレッシュな酸味が見事に混じり合います。語彙が少なくて恥ずかしいのですが、「フルーチェ」と「バニラシェーキ」のいいところを合わせたような具合です。
アイスがちょっと溶けて酒と混じり合ったギリギリくらいが本当にたまりません。おかわりしました。

味の要素を近づける同調と、
反発しあう味をぶつける対比、
のあたりがおもしろいのかなーと思ってはじめてみたのですが、それ以上に「甘さのタイプ」ごとの相性や、お酒との組み合わせによって「シンプルな味を複雑にする」おもしろさに驚きました。


もちろん、お酒を飲みます。