ほとばしるジューシーさ「紀土-KID-雄町 特別純米」(美味しかった日本酒)


「紀土-KID-雄町 特別純米」
(1300円税抜き/720ml)

「日本酒」とは、お米と水だけで醸すお酒。
2つの原料が日本酒の「主役」とだけあって、よく同じ商品の「お米違い」を目にすることがあります。でも、僕は実はこれまで「お米の違いなんて、まずわからない」と思っていました。自分の味覚力のなさだけならまだいいのですが、「やっぱり美山錦(という原料米です)はいいね!」なんて声を聞くと、つい「本当にお米の違いわかるのか?」と、これも心のどこかで少し思ったりしていました。

そういうわけで、ある銘柄の「お米違い」商品があったとして、わざわざ飲み比べるようなことはありませんでした。

ところが、この「紀土-KID-雄町 特別純米」はすごいです。雄町すごい、おいしいと、今年一番びっくりしました。

まずはブランドの紹介。「紀土」とは、和歌山県にある平和酒造が醸す比較的新しいブランド。代表の山本さんがお若いこともあり「若い人に飲んで欲しい」という願いを込め、日本酒初心者でもすっと飲めるようなお酒として誕生しました。

特徴は大きく3つ
・心地いいフルーティーさ
・軽やかな飲み心地
・とにかく安い

1000円程度の安めのお酒は結構クセが出るものが多いのですが、紀土なら日常酒より安く、だけどワイングラスとかでするりと飲める質の良さがある、といったところでしょうか。人気銘柄ですが、個性よりバランスに優れた万能タイプのため、「コスパのいいお酒」「飲み慣れていない人にす薦めたいお酒」というイメージです。

個人的には味よりも平和酒造さんの取り組みがおもしろく、
・自分たちで田んぼからお米を育てる
・蔵人を新卒で採用(なんとマイナビ!)
・蔵人のためのきれいな寮を完備
・「音楽を聴かせて醸す」など、蔵人のクリエイティブを伸ばす実験的な醸造を行う
などなど、いかにも「現代の蔵」の姿勢に好意を抱いていました。

そんな平和酒造さんがはじめて「雄町」で醸したというお酒がこの「紀土-KID-雄町 特別純米」。
ちなみに雄町とは日本酒米のひとつ。雄町好きな人たちは「オマチスト」と呼ばれるほどコアなファンの多い酒米です。

どうしてこのお酒を手に取ったかというと、
練馬にある地酒の名店「酒の秋山」さんが、「このお酒がすごい!!」と盛んにTwitterで発信していたから。
日本酒は毎年出来が変わるし、保存方法によっても異なるもの。その年に流通する商品の味は「お酒を実際に飲んだ人」に聞かなければわかりません。正解を一番知っているのが、地酒専門店の人。信頼できる地酒屋さんの情報が、僕の情報源のひとつです。

舌の上で踊る!  このジューシーさはすごい

香りは上品でやや控えめ。舌触りは滑らかで優しい印象…とここまではいつもの紀土なのですが、ここからの変化がすごかった。舌の上を伝っていくと同時に、流れるそばからジューシーな甘みがあふれだします。しかもドバドバと結構な勢いで。

液体を飲んで「あふれる」なんて変な感想だと思うのですが、よく熟れた果実をかじった瞬間のように、おいしさの波がわいてくるのです。その圧倒的な躍動感は「舌の上で波立っている?」と錯覚するほど。

やわらかなのに、甘みはしっかり、ジューシーさはあるけど、重くない。やわらかいけれどしっかり暴れる。
相反するはずの「だけど」の要素がいくつも繋がり、飲み始めから終わりまで、笑ってしまうほど鮮やかに表情を変えていきます
ラストの余韻は少しすっぱく、きゅっとしめる。このストーリー、完璧です。飲み終わるそばからおかわりが欲しくなってしまいます。

本当にお米の違いだけでこんなにも変わるものかと不思議になり、失礼を承知で平和酒造さんに電話してみました。ご対応いただいた方、ご丁寧にお答えいただき本当にありがとうございます。

「普段の紀土は五百万石を中心に一般米などを使用しています。そのためややすっきりした味わいです。今回は雄町を使うことで、旨みの膨らみがより出すことができました。もちろん、お米の浸漬(お米に水を含ませる作業)時間や麹つくりは、雄町に合わせて調節している部分はあります。しかしお米以外の原料は変えていません」

とのこと。雄町、すごい!!
紀土=すっきりのイメージだったので、もともとの酒質と雄町による味の膨らみを両立したバランス感覚に、よけい感動したのかもしれません。

本当に、これはうまい。あっというまに飲みきってしまいます。

きれいなお酒は早飲みのイメージがありますが、
こちらも2〜3日後にもう一度飲むと後味の酸が増しているようでした。
そこでラストはぬる燗にしてみると、甘みのボリュームが一気に開花。もうこれデザートです。

紀土なんて知ってるよ、という人こそ飲んでください。平和酒造さんのすごさがビシビシと伝わってきます。

ごちそうさまでした。

もちろん、お酒を飲みます。