風とマンゴー

風の強い日だった。ゴウゴウと音を立てて電線が、窓が、ハンガーが揺れていた。揺れないベッドに縛り付けられて、風の音を聞いていた。切れ間ない轟音が僕を眠りに誘い、唐突な轟音が僕を眠りから引き戻した。断続的な眠りから叩き起こされる度にベランダに置いたままのマンゴーの鉢が思い出された。彼は今、脅威に晒されているのだ。先日初めてベランダに出したアボカドは夜通しの暴風で若葉を緩やかなカーブを描くように曲げてられてしまった。アボカドよりもずっと幼いマンゴーの新芽が今もその脅威に晒されているというのに!僕の肢体は寸分たりとも微動だにしない。これは愛の裏切りだ。風の吹かれるがまま、物事が流転するままにまかせて彼を見捨てるのだ。その意味を理解しながらも、僕はただ天井を仰ぎ風の音に誘われるようにして眠りの底に落ちていった。そして、目が覚めて自身の冷酷な裏切りを嘆いてみたかと思うとまた眠りの世界に帰っていくのである。瞼を閉じて、開けて、と自動人形のように繰り返した。

しかしながら、いつしかその際限なく思われた繰り返しも終わりを告げる。風はハンガーからも、窓からも、電線から立ち去った。僕はムクっと起き上がり、扉のある方へ悠然と歩いて向かう。一抹の焦りも見せずベランダを覗き込む。膝を曲げてかがみ込み、マンゴーの最も若い葉に目線を合わせる。

マンゴーは柔軟に新芽をしならせ風を受け流し、その若き茎は僕の持ちうる何よりも固く超然として屹立していた。一陣の風がベランダを吹き抜ける。僕は少しよろめく。

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