Twitterでドラッグストア店員さん達の叫びを見て思ったこと

先日、ちょうどトイレットペーパーが品薄になるというデマが回り始めて2日目の日の夜、買い物をしにドラッグストアに寄った。
ちらと見たトイレットペーパー売り場はほぼ全滅。残り数個の在庫も、来る人来る人皆手に取っていっていて、消えるのは想像に難くなかった。
マスクや消毒液はないのに、『これ』はあるんだよなぁ……と思いながら、ハンドソープの詰め替えをカゴに。生理用品も少なくなっていたからどうするか悩んだものの、情弱扱いされるのが癪だったのと、本当に必要な人から買うべきと思って買わなかった。
無論、すれ違う人の中には生理用品をいくつも持っていた人もいた。何ヶ月分だ、そのナプキン。

陳列棚は、いつもより乱雑だった。
無理もないだろうなということは容易に察せた。
夜の9時頃ということもあってか、店員さんは確認できただけで三人。そのうち二人がレジに縛り付けられていた。
客もそう多くないのに、二人レジに縛り付けられていた理由、そんなものは単純明快。会計はついでとばかりにネチネチネチネチと問い詰めているヤツ(客とは書きたくないのでこう書く)がいたからだ。
やれマスクや消毒液は何時に入るのか、電話した教えてくれるのか、取り置きくらいして欲しい、生理用品も少ないけど大丈夫なのか……そんなようなことをベラベラベラベラと、会計や袋詰めが終わって、レジ待ちの客が並んでいても問うている。店員さんは、Twitterで出回っている声のように、ひたすら謝り、入荷はその日にならないと分からないということをおっしゃっていた。
結局、別のレジでの、普通の会計のお客さんが二人終わってもなお、そいつは対応してくれている店員さんに張り付いていた。

そんな話を、実家の母にした。
私の母は、看護師だ。この道だけで40年弱。一度事情で───単純に言うと、私と妹を産み、育てるために、育休を取らずに一旦退職した───職を離れたが、復職したベテランもベテラン。
ドラッグストアで見た光景を話すと、手洗いうがいをしろ、外に出たら顔や髪を触るな、と一蹴。
その後ぽつりと、「お母さんたちはバイキン扱いだよ」と言った。それを聞いて、私はカッと頭に血が上った。
母の勤める病院は、コロナ患者の受け入れをするとしている。そうでなくても、風邪、インフルエンザなど、日々沢山のウイルスがどこに潜んでいるか分からない場所だ。
しかし、そこは、一般市民が体調不良を起こした時の最後の砦だ。そこにお世話にならなければ、ただただ苦しみ、下手をすると死ぬ。病院だって、施設があるだけでは何の意味もない。お医者さん、看護師さん、薬剤師さん、その他職員さんがいなければ、一般人には使えない器具が沢山揃ったコンクリートの箱だ。
そんな、そんな最後の砦で働く人達が、バイキン扱い。
ふざけるなと思った。
感染が怖いのはわかる。けれど、もしかしたら自分がお世話になるかも知れない人達をバイキン呼ばわりとは何事だと。そんなに感染が怖いのなら、極論をいえば、一族郎党まとめて家から一歩も出ず、誰も招かず、収束するまで引きこもっているのが筋だ。
いつ感染するか分からないコロナへの恐怖はわかる。けれど、その最前線で戦う人達をバイキン扱いすることに、私は今も憤りが隠せない。

私の家族の職業は、相性が悪い組み合わせが揃っている。
前述の通り、母は看護師。外来勤務だ。
父は観光地に勤めている。国内外から多くの観光客が来る場所だ。
そして妹は、障害者福祉施設勤務。入所している人もいれば、デイサービスの人もいる。
いつ、誰からもらってくるかというリスクと常に隣合わせの父母と、万が一自分がキャリアになったらまずいけれど、誰が持ってくるか分からない場所にいる妹と。
そんな家族構成だ。
当たり前のことだが、世の中は理不尽だ。水際にいる人にこそ、風当たりが強い。
そしてそんな人たちを、サンドバッグにする人もいる。

話は少し脱線する。
私は今、実家から離れた場所で、貯金を切り崩しながら一人暮らしている。
ほぼ毎日家に引きこもり、たまに出かける、そんな状態だ。
これでも一年と数ヶ月前までは、ショッピングモールの中の店舗で、週5日、1日8時間以上接客業に勤しんでいた。
だが今は、そんな仕事にはもう就けない。それどころか、少し前までは、同業種の店舗に入ることすら出来なかった。
単純に、怖いからだ。
自分の思い通りにならないと無茶を言いキレ散らかし、1時間以上の長い電話をかけ、店舗に来たら来たで客用喫煙所で延々と謝罪を求めてくる元チンピラ(これは旧知の人が本当に言っており、アウトローなこともしていたらしいので、開き直って私もそう書く)。
人気商品の個数制限でゴネてゴネてゴネまくり、悪態をついていくヤツ。
店の閉店時間はおろか、ショッピングモールの閉館時間までクレームを垂れ流して警備員さんに誘導されながらお帰りになるヤツ。
抽選販売に文句をつけて、希望者全員分用意しろとSNSで大騒ぎするヤツ。
人格否定も何度もされた。
これが約半年の間に起こった。
元々ストレス耐性は高くなかった上に、早番遅番入り乱れのシフトだった私の精神はあっさり崩壊して、ある日、涙が止まらなくなった。
その少し前から不眠で通院していた病院で、あっさりと、うつ状態との診断が下った。
日がな一日ベッドの上で泣き続け、幻聴と悪夢に魘され、自殺を試み失敗し、一時期は食事も風呂も疎かで酷い有様だった。
一度は復職したものの、結局また休職し、休職期間が過ぎたので仕事を辞めた。少し前、失業保険の手続きのことを聞いたら、職安の職員さんから、自己都合退職ではなく就職困難者扱いになると言われた(流石にそこまでいくと思っていなくて少し笑ったし、手続きもしないで帰った)。
何故こんな不幸自慢にもなりかねないことを書いたかと言うと、今、ドラッグストアや各種量販店、医療機関で戦っている方たちも、同じような状況になりかねないだろうことが容易に想像出来るからだ。
自分は悪くないのに謝るというのは本当に辛い。
理不尽なクレームの対処は精神にくる。
客と従業員という立場だからこそ、言い返せない。
その時間帯の責任者なら尚更、部下を守るために矢面に立たなければならない(たまにそれから逃げて部下に押し付けているとんでもない輩もいる。私もぶち当たったことがある。あれは上司に向いていないと本気で思った)。
そんな辛い思いをする人が増えて欲しくないと、本当に思っている。
人間を口撃して壊すことは、思っている以上に驚くほど簡単だ。ストレスの捌け口にされれば、心の柔らかい部分からどんどん傷ついていく。ストレスに毎日晒されていれば、修復スピードなんて全く追いつかないのだ。
クレーマー達は、自分たちの、口から出るだけの言葉で一体どれだけの悪影響を引き起こすのか、そろそろその頭で考えるべきだと思う。
自分のことだけでなく、他者のことも慮れ、と本気で思ってしまう。

自分の首を絞めたくないのならば、安全にいたいのならば。
家から出ずに全て自分でまかなうか。
自分だけが特別優遇されて当然という思考を捨てて、皆が皆同じように品薄で困っているということを、空っぽの脳で理解するか。
どちらか選べ。
そう思ってしまう今日この頃。

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