一番身近な、家族という呪者

※この駄文には、講談社ラノベ文庫から発売された『異世界誕生2006』(著:伊藤ヒロ先生)のネタバレが大なり小なり含まれます。


私には、好きな作家さんが何人かいる。その中でも私の人生を変えたお一人、ラノベ作家の伊藤ヒロ先生の新作が先日、講談社ラノベ文庫から発売された。詳細は下記ツイートに譲ろう。

伊藤ヒロ氏の代表作といえば『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』『魔法少女禁止法』そして───今もなおカルト的な人気を博す18禁エロゲー『夢幻廻廊』シリーズ。

私は『夢幻廻廊』で伊藤ヒロ氏を知ったクチだ。毒々しくえげつなく、なのに幸せな世界に惚れ込み、何度プレイをしたか分からない。その後は氏の作品からは遠ざかっていたのだが、今年の春、ある作品で奇しくもまた数年ぶりの再会を果たした。そして買っていなかった幾つかの本を買い漁り、何度も何度も読み、本によっては何度となく読み返し、終いにはファンレターまで出し…という完全な信者化の一途を辿っている。


さて。

八月末あるいは今月頭に発売された『異世界誕生2006』。これも大変に素晴らしかった。なろう版も事前に読んではいたものの、予想と期待を大きく超える作品で、ボロボロと泣きながら読んだ。人に頼んで、メロンブックスでの特典SS付きも購入してきてもらった程である。

それほどまでに感動した『異世界誕生2006』であるが、実は一度しか読めていない。忙しいから、という理由ではない。単純に『苦しくて』読めないのだ。

私は『異世界誕生2006』に命を救われている。長くなるので詳細は省くが、その存在を知った日、私は本当に死にたくて死にたくてたまらなかったのだ。丁度車にも乗っていた。高速道路で壁に突っ込めば、軽自動車なぞぺしゃんこに潰れて死ねるだろう、なんて考えていたのだ。結局は、なろう版を読んで、主人公の母親(というより、彼女が真の主人公ではあるのだが)があまりにも実母と重なって、あえなく死に損なった。

そんなこんなで手にした講談社ラノベ文庫版『異世界誕生2006』。

本当に素晴らしかった。最後は皆救われて、本当に良かった。大円団とはこういうものを言うのだろうと思う。

自分の大切なものを守りたいという気持ち。親が子を愛する気持ち。言い出せなかったことを言う葛藤。悪いと思ったことを素直に謝るということ。

そういった、ごくごく当たり前のことが詰まりに詰まっている。

だからこそ、苦しくて二週目に行かれないのだ。


先日(と言っても割と前なのだが)母親に久々に泣きながらLINEをした。

その切っ掛けは、母親からの心配のLINEだった。体調は問題ないか、薬の副作用(私は今、ある病で闘病中である。一度薬が合わず、死にかけたことがある)で苦しんではいないか、食事は摂れているか、お金は大丈夫か。

そんな、母親が子供を心配する内容のLINEに、泣きながら返事をしたのだ。何度も文章を書いては消してを繰り返して。

大丈夫、いつも返信が遅くて申し訳ない、心配ばかりかける娘でごめんなさい。掻い摘むとそんな内容だ。

それを今思い出して、ふと、こう考えてしまった。

親と子供という関係を持つ者同士は、一番身近な互いを呪い合う存在なのではないか、と。

『異世界誕生2006』の主人公、フミエは息子の死を機に異世界に行ってしまった。これは息子のタカシが母にかけた呪いである。また、過去が暴かれていくシーンでは、フミエがタカシに沢山の、期待という名の呪いをかけている。フミエが作中で書いている作品も、タカシの遺した設定を引き継いだということではあれども『彼女の理想の息子像』という、彼が存命していればそれこそ一生物の重い枷、そして呪いとなったであろうことは想像に難くない。

程度に差はあれど、現実世界の親子同士という関係も似たようなものだ。

親は産まれてきた我が子に沢山の願いを込める。それが子供にとって呪いになることは少なからずある。というより、私がその一人だ。

私は、自分の本名が大嫌いだ。とあるとてもいい意味を持つ漢字が入っているのだが、私はそんなに立派な人間ではないと思い、なぜこんな不釣り合いな名前を付けたのかと親を恨んだ(余談だが、私の従兄弟の名にも同じ漢字が使われている。彼は私同様所謂陰キャであり自分の名前が嫌いらしく、漢字だけ変えるという改名手続きを行った)

そんな私がもし自死を選べば、どうなるか。

答えは簡単。親は死ぬまで、娘を死なせてしまったという、自分たちは一切悪くないが背負うことになる罪悪感と悲しみで苦しむ。子供に呪われるのだ。それこそ『異世界誕生2006』のフミエのようになってもおかしくない。

そう考えると恐ろしい。

親と子は、血の繋がりがあり身近な存在であるが故に、意図してか否かはともかくとして互いに呪いをかけ合う存在になりかねない。

そんな発想に至ってしまった結果、私は『異世界誕生2006』を読めなくなった。いずれまた読む日は来るだろうが、少なくとも今は読めない。次は何を気付かされるのか、そう思うと手が止まるのだ。


『異世界誕生2006』は続編の刊行が決まっている。発売が楽しみであり、恐ろしくもあり。

次は一体何を気付かされてしまうのか。

私の平々凡々な脳では想像がつかない。

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