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【法学部の講義】なぜ易々と連帯保証人になってはいけないのか。

 「なぁ、頼むよ。お前には絶対に迷惑かけないから名前だけ貸してくれないか。それだけでいいからさ。」

 こんな軽い言葉に騙され、つい連帯保証書にサインしてしまい、その後、当の借主は夜逃げ。そして、自分は思いもしない大金を借金として抱え込むことになってしまった。これは金融漫画でよくよく見かける展開です。

 そして、法学部の先生曰く、日本人の多くは書類に目を通さず、すぐにサインしてしまう傾向にあるそうで、現実世界でもこのような問題は起こってます。
 どうしたらこのような事態に直面することを防げるでしょうか。それにはまず「連帯保証」がどういったものかを知ることが重要だと思います。

 まず、連帯保証について考える前段階として「保証」という概念について説明します。
 保証とは「主たる債務者がその債務を履行しないときに、その債務を履行する責任を負うこと」(446条1項)です。端的に言うと、誰かが借りたお金を返せなくなった場合、自分が代わりに返済すると約束することを指します。そして、実際にお金を借りた人を「主たる債務者」、代わりに返済し得る人を「保証人」と言います。

〈整理〉
保証:万が一の場合、誰かの借金を肩代わりすること
主たる債務者:実際にお金を借りた人
保証人:万が一の場合に、借金を肩代わりする人

 ここで、勘の良い方はお気づきでしょうが、保証において、直接的には保証人側に特段メリットは何もありません。なぜなら、保証人は自分自身は1円もお金を借りていないのにも関わらず、万が一、主たる債務者が借金を返済しなかった場合その肩代わりをしなければならないからです。
 もちろん、保証人が主たる債務者の代わりに支払いをした場合、その後、保証人は主たる債務者に対して「求償権」を取得し、代わりに支払った分を返すよう請求することはできます。しかし、自分ではとても支払うことができなかったような人から返済してもらえるとはとても想定できないため、かかる求償権という権利も実際上そう役に立つことはありません。

 ただし、保証の場合、かかる3つの特徴を有している点において、まだマシな方だと言えます。

 まず、「催告の抗弁権」です。これは債権者(借金取り)が保証人に支払いを請求してきた場合に、保証人ではなく、まず主たる債務者に支払いを催告するよう求めることができる権利です(452条)。
 次に、「検索の抗弁権」です。これは債権者が主たる債務者に支払いを催告した後でも、保証人が、主たる債務者に弁済資力があり、執行も容易であることを証明した場合、主たる債務者に対する執行がされるまで支払いを拒否できる権利です(453条)。

 保証人が負っているのは、主たる債務者が支払えない場合にのみ支払うという「二次的」な責任です。ゆえに、「先に主たる債務者に支払いの催告しろよ」と言える催告の抗弁権や「主たる債務者が十分金を持っているから主たる債務者のとこに行けよ」と言える検索の抗弁権が認められるわけです。

 最後に、「分別の利益」です。これは、保証人が複数人いる場合、保証人間で債務を頭割りした分のみ負担すればよいとするものです(456条・427条)。
 具体例として、タロウ君(主たる債務者)が300万円借金し、それを兄弟の一郎君・次郎君・三郎君3人で保証したとします。この場合、例えタロウ君が兄弟を見捨てて夜逃げし、一郎君ら保証人は借金取りから支払いを請求されたとしても、各々100万円(300万÷3)までしか支払わなくてよいという仕組みです。
 ただし、分別の利益は保証人が多ければ多いほど保証人一人当たりの負担額は少なくて済む一方で、保証人が1人だけの場合には使えないこと(額面通りの負担のまま)には注意が必要です。

〈整理〉
保証の特徴
催告の抗弁権:先に主たる債務者に支払いを催告するよう求めることがで 
 きること
検索の抗弁権:主たる債務者がお金を十分持っている場合、主たる債務者
 から集金するよう求めることができること
分別の利益:複数の保証人間で負担額を等分

 このように、保証の段階でも十分恐ろしいことが分かります。そして、連帯保証も基本的な仕組みは保証と同様です。しかしながら、連帯保証は保証以上の負担を連帯保証人(保証人の連帯保証版の呼称)に要求してくるという相違点があります。

 ここまでの流れからお察しの方もいらっしゃるかと思いますが、連帯保証では連帯保証人に催告の抗弁権・検索の抗弁権(454条)及び分別の利益が認められていません。
 ゆえに、債権者は主たる債務者のところへ行かずいきなり連帯保証人に支払いを請求することができます。また、連帯保証人が何人いようと皆が主たる債務者の借りた金額分だけ責任を負わなければなりません。
(先ほどの事例だと一郎君・次郎君・三郎君は皆300万円の責任を負う。なお連帯保証人3人+主たる債務者で合計して300万円支払えばよく、一郎君・次郎君・三郎君がそれぞれ300万円、計900万円支払わなければならない訳ではない)

〈整理〉
保証と連帯保証の相違点
・連帯保証には、催告の抗弁権・検索の抗弁権・分別の利益という
 保証人側有利のシステムが「全て適用されない

 このように、連帯保証人は自分が借りた訳でもないお金にも関わらず、文字通り、主たる債務者と「連帯」責任でもって返済しなければならなくなってしまうのです。かかる点から、連帯保証に際して非常に慎重になるべきだと言えます。

 このように保証や連帯保証のリスクについて説明すると、そもそも保証や連帯保証といった悪魔の契約が法律上認められていることがおかしく、すぐさま違法・廃止とすべきだ、という意見が上がるかもしれません。
 しかしながら、これらの「人的担保」(保証・連帯保証のこと)があることによってお金を借りることができるのも事実です。実際、家を購入する場合や商売を始める場合、多額の資金を必要としますが、お金の貸し手側(債権者側)としても持ち逃げされては困りますので、確実に貸金が回収できる見込みがある場合しか融資したくなく、借り手自身だけではその見込みが十分でない場合、かかる人的担保制度がなければ融資してくれないでしょう。

 ゆえに、かかる人的担保制度があってこそお金が借りられ、そして家を購入をしたり商売を始めたりすることができる場合もあるゆえ、この点、社会的有用性が認められるわけです。

 こうしてみると、一方の立場から見ると手厳しく感じますが、他方、もう一方から見ると不安な気持ちであるわけです。このようにして、双方向の立場から考えてみるというのも法律を学ぶ上で重要なことだと言えます。

 ただし、話を戻しまして、私たちは日常生活上、手厳しく感じる保証人側の話が回ってくる可能性の方が高いでしょう。それゆえ、(連帯)保証書へのサインを求められた際は、保証・連帯保証の有する重大なリスクを今一度熟考することが冒頭の事例を回避することにつながると思います。


*これは学部生が執筆した記事です。
専門的な助言を与えるものではありません。
間違え等ご指摘いただけるとありがたいです。


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