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法学部と万年筆

 法学部の試験はしばしば鉛筆不可と指定されていることがある。理由は各人の答案用紙がこすれ合って文字が読めなくなる事態を防ぐためだという。そのため、試験では消えることのない、ボールペンや万年筆を用意しておくことが必要なのだ。

 私はなぜボールペンではなく万年筆を選んだのか。答えは教授にすすめられたから。ただそれだけだ。すすめられたというより必要だと言われた気がしたからだと表現する方が適切かもしれない。「1年生の諸君、法学部生たるもの片手に六法、もう片手に万年筆を持っていること。もちろん試験でも必要だからね。」と。(教授としては必要だといったつもりはないかもしれないが、私は心配性なので念のために取り揃えておかなければ気が済まない性分なのだ。)

 だが、私は万年筆を買ったことを後悔していない。万年筆というもの、使い始めは書きにくい。しかしながら、使っていくうちにペン先が自分の癖を学んでいき、徐々にすらすら~、と書けるようになるのだ。シャープペンシルと同じだと表現すればよいだろうか。シャープペンシルも使っていくうちに芯が心地よい感じに削れていくだろう。しかし、シャープペンシルの芯は永遠には続かない。

 他にも万年筆ならではの特長がある。法学部の試験はおよそ60分間の間に答案に解答を書きあげるというものだ。そして、その時間内に数百はもちろんのこと、千を超える文字を記すこととなる。ここで、ボールペンを使うといくら新品を用意していても、どこかでインクがかすれ気味になる。それも、たいてい乗りに乗っているときにそうなる。そうすると、書きたいのに書けないというジレンマが生じ、ちょっとイラっとする。もちろん、多くの学生は予備のボールペンを持ち込んで他のボールペンに素早く切り替えるのだが、めんどくさがり屋のわたくしはそれがなんとも、うっとうしい。

 その点、万年筆は少なくとも試験前にインクを補充しておけば試験中にインクが切れるということはまずない。そして、私のことをよく理解しているペン先が答案用紙を先に先にと進めてくれるのだ。

 だが、万年筆は無条件に私を受け入れてはくれない。たまに使ってあげないとすねてしまうのだ。インクを入れた状態で万年筆をしばらく使っていないとインクが固まってしまうのだろうか、うまく書けなくなる。君、最近遊んでいたんだよねと言わんばかりに。

 つまり、一度万年筆を購入した以上、法律学を勉強し続けなければいけなくなる。数か月前、私はそれに気づかされた。そのとき、ふと例の教授の話の続きを思い出した。

 「万年筆って本当に万年使えるから。だまされたと思って買ってみ。私が今使っているのなんてね、私が君たちのように法学部生になったときに父親に買ってもらったやつだから。もう私68よ、今年。」

 うん、今理解した。


冒頭写真:筆者撮影。筆者の万年筆

ー筆者の万年筆についてー
OHTO セルサス 税込み2200円(ブラック)
大学生にも手に取りやすい価格だと思います。
(アフィリエイトではございません)

 万年筆は他の文房具以上に自身に合うかどうかに個人差があります。また、万年筆は一度購入すると、以降長期間にわたり使い続けることになります。
 最高のパートナーを手に入れるために、いかなる万年筆を選ばれるにしろ、書き心地をはじめ、重さ、太さ、グリップの有無、字の太さ/細さ等の観点から実際にご自身で実物を確認されることをおすすめします。



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