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2023/5/31  『 ベルル 』

ベルルはそれだけで満点である
几帳面なノートの1ページ
ノルウェーの港の寒い朝に
北海へと向かっている数学のノート
ベルルはそれだけで満足である
アザラシ漁の1回だけの猟銃の発射音だけで
村の最後のお店になってしまった母さんの
ビスケットの箱を抱えて帰る
ゲームの世界でアザラシは
海深く潜って行くのである
そして消えてしまった
アザラシの眼や鼻や口は、そしてその顔は
つくられたわたしたちの世界を越えて
最終の世界へと消えてしまった
ボーリングされる海底の油の層が見つかれば
ここには巨大なコンビナートが建設される
ベルルはそんなのは好きではない
静かな海の1日の
どれほどの時間、鳥たちがさわぐだろう
僕にとってはそれは遠い流氷の世界だ
猟銃を磨いてそれはこれからの冬の世界だ
ベルルはコーヒーにビスケットをひたして
アザラシの皮を見つめる
村の人たちはこれからの冬の1日を
暖炉に投げ込む薪とともに
低く吹きすさぶ風とともに
過ごすのである。