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「植物少女」

「植物少女」朝比奈秋

美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係性も変化していき──現役医師でもある著者が唯一無二の母と娘のあり方を描く。

とても静かな物語なのにどこか重く、生々しい。不思議な感触だった。
植物状態の母とその娘の関係性もとても興味深い。
植物状態って言葉は知ってるけど具体的にどんなふうなのかは知らなかった。それをリアルに描写している。人間の生の尊さを感じられる小説だった。


何も考えられない、何も思うことができない母は、もしかしたら、こんな生の連続に生きているのではないか。息だけをして生きる、この確かな実感の連続に居続けているなら。

p107

生きるってなんだろう、とよく考える。
今までいろんな本を読んで考えてきたけれど、究極に言うと”呼吸する”ことが生きることに直結するのではないか。
生きる意味だとか、誰かのために生きるだとか、そういうこと以前に私たちは生物で、呼吸をして生きている。

ただそれだけでいいんじゃないか。


ただ存在するということがいかに大変か、それに耐えられないから、みんな勉強したり働いたりするのかもしれなかった。

p116

この一文が衝撃だった。
もしそうなのだとしたら、呼吸する以外のことをしている私たちは何なのだろうと不思議に思った。
人間は多様で複雑な生き物だなぁ。

今まで「私しかできないことをしたい」とか「私らしさが欲しい」と思っていた。そのために努力だってしたしたくさん悩んだ。でも、本当はただ存在しているだけで十分なのかもしれない。
この場所で、生きている。
なんだかそう思うと心が凪いでいく感じがした。

生を実感するって、こういうことなのかもしれないな。


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