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「彼女はひとり闇の中」

「彼女はひとり闇の中」天祢涼

十月の日曜の朝、横浜・日吉に住む千弦は昨夜近くの小道で女性が刺殺されたことを知る。しかもそれは昨夜「相談したいことがある」とのみLINEを送ってきた幼なじみの玲奈だった。相談は事件に関わるものだったのか――悩んだ千弦は真相をさぐろうと決意する。未来と仲間の見えない時代に凄絶な孤独が引き起こした悲劇の結末とは――。

叙述トリックに見事に騙された。結末には本当に驚いた。
ミステリとしてとても面白かったのだけれど、事件の背景に描かれた現代社会の問題について考えさせられた。


そもそもわたしはこれまでの人生で、心の底から辛かったり、こわかったり、絶望的な思いをしたりしたことがあっただろうか?まったくなかったとは言わないけれど、どんな困難も、そういう感情に押しつぶされる前に乗り越えてきた気がする。(略)強いこと自体は誇っていい。でも自覚がなかったから、弱さを知らないことと表裏一体だった。

p118

この部分がまるで自分に言われているようで衝撃的だった。

私は人に相談するよりも自分で物事を解決したいタイプだ。今まで自分の性格とか人生について悩むことはあっても、考えて、いいと思う方向に進んできた。嫌なことも改善したいことも、自分で変えられる部分は変えようと努力してきた。
だから時々、他の人に対して「もっと考えたらいいのに」と思ってしまうことがある。
でも私がそう思えるのは、能力の問題ではなくて周りの環境のおかげなのではないか。頑張ることができる状況にいるだけなのではないか。

この本の登場人物たちのように、親が離婚していたら、自分で学費を稼ぐしかないのにブラックバイトにばかり当たってしまったら、容姿のせいでいじめられたら、暴力を振るわれたら___

私は、家族全員が健康で過ごせている、学費の心配などせずに大学に通えている、生活するためではなく自分の楽しみのためにバイトをしている、尊敬できる先生や友人がいる。

自分は他の人と比べると要領が良くて、やりたいことも見つけられて、自分の力で頑張ることができる人間なのだと思っていた。でも違う。

私は恵まれていただけなんだ。
環境や状況が違えば、こんなふうには生きてこられなかったかもしれない。

もちろん私だって悩むし、落ち込むし、もう頑張れないって思うこともある。けれどそれは自分の性格のこととか自分の周りの狭いコミュニティでの人付き合いのことで、それが社会的な問題に発展することはなかった。お金や制度のことで悩んだことなど一度もない。

私は、弱さを全然知らないのだと思い知らされた。

他人のネガティブな発言や行動を目にしたとき、「どうしてこの人はこうなんだろう」と思うのではなく、その人の状況やそうなるまでに至った背景にも目を向けられるようになりたいと思った。

まだまだ、私には知らないことばかりだ。



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