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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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記事一覧

真夜中万華鏡 毎週ショートショートnote

「星空に勝る万華鏡なんて無いさ」 お兄ちゃんに万華鏡を作って欲しいとせがんだけれど、お兄ちゃんの返事は素っ気ないものだった。 作るのが面倒だからってこんな言い方しなくたって。 「いいよ、自分で作るから」 月が怪しく光る夜 おまえの心に届くだろうか 月の光が見せる夢 おまえの作った万華鏡 月の光が差し込むその時に 万華鏡が万華鏡では無くなる不思議 さあ見るがよい その万華鏡が見せるもの 「もう、お兄ちゃん、変な声で変なこと言わないでよ」 「僕は何も言ってないよ」 私は

魔人のランプ 毎週ショートショートnote

「皆さんご存じの『アラジンと魔法のランプ』 魔法のランプは行方不明。そのランプが我が校のどこかに。そんな噂があります」 魔法学校に入学した日、担任からこんな話を聞いた。 何をいまさらだが。 魔人もランプも行方知れずだとか。 今でも時々放課後、ランプの捜索はされているようだ。放課後ランプの名のもとに。なぜ学校はこんなにもあのランプに固執するのだろう。 あのランプは、魔人が使ってこその魔法のランプだ。学校が見つけたところで何の意味も無いはず。 あのランプは確かにここにある。

雪解けアルペジオ 毎週ショートショートnote

本格的な春がここにもやって来た。 そして春は今年も彼女を伴って現れたのだ。 彼女はギター弾き。酒場でカラオケ代わりに伴奏をしてくれる。 彼女自身は流しの歌うたいではない、あくまでもお客の歌の伴奏をするだけ。カラオケに飽きたお客たちには頗る評判が良い。 彼女のギターのテクニックはそれほどのものではないと思われたが、泣くように響くアルペジオのテクニックに驚かされる。テクニックと言うより心そのものが響いてくるようだ。 私には喧嘩別れをした恋人がいた。 偶然この夜、この酒場で再

春ギター 毎週ショートショートnote

それは落ちていた。樫の大木の根元に。 森の仲間たちは、珍しい物見たさに集まってきた。 初めて見る形を不安げに見守っている。 好奇心の強いサルが触ってみた。そのはずみに立て掛けてあったそれは倒れた。動物たちは少し後退りを始めたが何も起こらない。 動物たちはホッとして顔を見合わせる。 サルはさらにそれに触る。音が出た。聞いたことのない音。細い線が細かく震えていた。サルは触れば音が出るものだと認識したようだ。 大胆にそれの側に行き、6本の線を一本ずつ触ってみた。線の音は全部違って

付喪神(つくもがみ) 毎週ショートショートnote

僕の住んでいる家は昔『お化け屋敷』と言われていたそうだ。 僕のご先祖が物を大切にしなくて付喪神がたくさん住んでいたって。だけど、だんだん皆成仏していったんだよ。当時一番新しいレインコートが神様と言うか妖怪と言うか、まだいるんだ。 でも彼は友好的で僕とは仲良くやっている。仲間がいなくなって寂しいのだと思う。僕は彼を『レン』と、彼は僕を『タカ』と呼び合っているんだ。 レンはお化けなので、昼間は姿を見せない。夜だと僕のレインコートとして助けてくれることもあった。 学校の話をすると

命乞いする蜘蛛 毎週ショートショートnote

夢を見た。大きな蜘蛛になった夢。 私はいそいそと網にかかった獲物を頂こうと近づいた。 なんと獲物は人間の姿の私だ。 蜘蛛の私は思いがけないほどの大きな獲物に喜ぶべきか、共食いならぬ自分食いを恐れるべきか迷っていた。という夢。食べては無いけれど後味の悪い夢だった。 ふと、天井を見ると蜘蛛の巣がある。何年ぶりだろうか。天井の隅に蜘蛛の巣を見るなんて。変な夢を見たのは、あの天井の蜘蛛のせいに違いない。 とにかく、蜘蛛には外に出て行って欲しい。足の多いヤツ、足がないヤツと友達には

桜回線 毎週ショートショートnote

「桜回線異常なし」 光る風の中で全ての桜回線は繋がった。 この報告が私の最後の業務。 私は50年間勤めた。社長の次に高齢だが肩書きには縁がなかった。ただただ仕事を黙々とこなしてきた。私はそれだけで満足だ。 最後の昼休み。会社の敷地にある桜並木。今日で桜たちともお別れ。桜一本一本に声をかけながら歩いた。私なりの感謝の気持ちを伝えながら。 今年も桜の季節。そろそろ開花宣言がこの辺りにも届くだろう。 その前に日本中に桜回線が繋がって本当に良かったと思う。 今までは開花宣言は

三日月ファストパス 毎週ショートショートnote

三日月行きの最終バスを見送る。 時々バスセンターに出かけていくのは働く意欲を失くさないため。三日月行きのチケットはお安くは無い。 三日月にはどうしても会いたい人がいる。 月は昔は球体だった。しかし人間の愚かさにより、月の大部分が消滅し、文字通りの三日月になった。 そんな三日月に住んでいるのは我妻、だった人。 狭い三日月の大部分がテーマパークになっており、彼女はそこの責任者。彼女と別れてそろそろ10年にもなろうか。できればもう一度と思うが。 そんなある日、彼女から、バス

お返し断捨離 毎週ショートショートnote

ホワイトデーが近い、お返しって面倒だ。義理チョコってわかっているのに。でも何か渡さないと何を言われるかわからないしな。めんどくせー。 「はい、いつものギリ」と言って渡してくれた幼馴染のリリコのチョコレート。 まだ冷蔵庫に入れたままなのを思い出した。 一応食べておこうと思い包みを開けた。 大きなハートのチョコレートが真っ二つに割れていた。 最初からだったのか、何かの拍子なのか。なんだか気持ちが変に落ち着かなくなる。リリコは知っていたのか? モヤモヤした気持ちのままチョコレ

レトルト三角関係 毎週ショートショートnote

バレンタインも終わった。今年も隆君に手作りのチョコレートを渡せなかった。大好きな隆君に来年こそは。 私はチョコレートを作るの苦手だけれど、クッキーは得意なの。気分転換にクッキーを焼くことにした。 円、三角、四角、ハート、鳩。型抜きを使えば簡単だ。オーブンから良い匂い。匂いで出来不出来がわかる。上出来だ。 今日はアイシングクッキーにする。色付けも楽しい。 三角形は赤い屋根に、四角形にはドアと窓を描く。鳩には目と羽を付け足す。円には女の子や猫の顔を、ハートはWハートに。 あ

洞窟の奥はお子様ランチ 毎週ショートショートnote

おじいとおばあは姥捨山に捨てられ、山の中を彷徨った。 繰り返されてきた事。仕方ない。 目の前の切り立った岩場に不気味な穴が。 その洞窟から旨そうな匂いが漂ってきた。 二人は腹ペコ。恐怖の中、果敢に洞窟の中へ。 暫く行くと広く明るい場所に辿り着く。 そこには人間の着物を着た狐と狸が。二匹は笑顔で二人を迎えた。 「いらっしゃいませ。こちらはお子様ランチの店です」 「お子様ランチ?なんだ?ワシら一文無しだ」 「ここは姥捨て山に捨てられた方に、最後の食事を召し上がって頂く店

デジタルバレンタイン 毎週ショートショートnote

デジタルタイムマシンが実用化された。私も乗ってみたい。タイムマシンは一人用で自分で操縦するしかない。つまり昔の自動車免許のように免許証を取得しなければならないのだ。 タイムマシン操縦学校に通う。 だが悲しいかな、歳をとっているので一向に頭に入らない。 操縦実習はペーパーテストに合格してからだ。 本物の計器をみんなで見に行く。 そこでトラブルがあり、私はタイムマシンに閉じ込められた。あっという間に、ある場所に運ばれた。 そこは、私が小学生の頃住んでいた懐かしい家。 小さな私

行列のできるリモコン 毎週ショートショートnote

「最近のリモコンは付加価値がたくさん付いたなぁ。 昔のリモコンは……、おっと、また昔話ばかりのじじいだと叱られるよな。 しかしな、あの単純なリモコンが、こんなにも進化するなんてなぁ、ばあさん」 「あたしゃ、最近のリモコン使いこなせる人が信じられないわ。昔はオンとオフくらいしか無かったのにねぇ、おじいさん」 「だがなぁ、ばあさん。今のリモコン使いこなせないと、今よりもっと生き辛くなるでな」 「そうだねぇ、『年寄りのためのリモコンの使い方教室』に一緒に通ってみるかい?」 「あ

ツノがある東館 毎週ショートショートnote

「鬼だが悪いか!」 節分を前に人間に捕まるなんて、なんてこった。 あの時、風が吹いて帽子が飛んだから、側にいた人に通報された。 警察官が飛んできた。警察署で事情聴取をされた。 「鬼がいるだけで人々は不安になる。確かに鬼についての法律は無い。だが、このまま放免してもいいのかどうなのか……」 警察署では鬼の扱いに困っていた。 「僕は何も悪いことをしていないし、これからだってしません」 署員達は何やらコソコソ話し合っていたが、結論は無罪放免となった。 鬼を見なかったことにするよ