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廃屋の門 青ブラ文学部 (762文字)  

小高い丘に立派な門構えの屋敷があるが、そこはすでに廃屋と化していた。
時折、夜に明かりが漏れることがあると言う者もあるが定かではない。昼間であっても夜であってもその家に出入りする人を誰も目撃した者はいないはずなのだから。

昔からこの地に住んでいる年配者も、この屋敷は昔から廃屋だったと言うばかり。役所に聞いても要領を得ない。

子供たちはお化け屋敷だと怖がっているが、門の中の庭は手入れが行き届いているようにも見える。庭師が見かねて手入れしているのだろうか。
それにしてもなぜこの廃屋の門は閉ざされたままなのか。たいていは不埒な者たちに無理やりこじ開けられ、中を荒らされる事が多いが。

ある日、一人の女が高級車から降り立った。
彼女は車を待たせたまま門に対した。彼女が何をしたのか不明であるが、門は彼女のために開かずの門を自ら開いたのだ。

彼女は背筋を伸ばし隙のない足取りで門の中に消えた。門は当然のように大きな音を立てて門を閉じた。その時何かが一陣の風のように吹き抜けたが、その姿を知る者は無い。

その夜、2階の大広間らしい中央の部屋の窓から大勢の者達が軽やかに踊っているような影が見え隠れした。楽団でもいるような華やかな音色も聞こえた気もしたが。
誰かが投石したようだが、屋敷には届かなかった。

年嵩の子ども達は、恐れながらも「お化けのパーティーだ」と触れ回ったが、肝試しのような、おかしな高揚感に浮かされているようだった。

次の朝、開かずの門が開いていた。ずっと前からそうであったかのように。
子ども達は、われ先にと屋敷の中を探検した。最初に2階の大広間をめざしたが、昨夜の賑わいのカケラも無く、長い間に積ったホコリだけが舞っていた。

それからしばらくして、門諸共に屋敷は倒壊したと聞く。
この事を覚えているのは、今ではこの小さな町の数人だろうか。


  

山根あきらさんの企画お題 「一陣の風のように」を使って書いてみました。今回もよろしくお願いいたします。


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