叔母の猫

こたつで寝ていると、棒のようなもので、急につつかれて起こされた。

デッキブラシの端だった。

——なにすんだ、てめえ。

起き上がると、わたしは伯母に食ってかかった。
伯母はおどろいて、何かもごもごと言い訳を口にしたようだが、不明瞭で言葉が聴き取れないし、わたしにも聴き取る気はない。

——くそばばあ。きちんとあやまりやがれ。

伯母はわたしを怖がりつつも色をなして抗議した。そんなことをされるの

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マッチ売りのこじき

坊や「マッチ、マッチはいりませんか?」

坊やのそばを素通りしていく人たち。

坊や「どうしてうれないの……」

今にも泣きそうになる坊や。

中年男性「坊や。どうしたの?」

声をかける中年男性。

坊や「マッチがぜんぜんうれないの」

中年男性「そうか……よし。私が全部買おう。いくらだい?」

坊や「え! ほんとに! やった!」

中年男性「坊や。嬉しいのはわかるから、いくらか教えてくれないか

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1

ボストンバッグに寂しさを。【ショートストーリー】

「ナイアガラの滝は、ひとりで見るものじゃない。寂しいじゃないか」

一人旅のわたしに、ツアーバスの運転手はそう言った。
その言葉になんて答えればいいのかわからないまま曖昧な笑顔をかえして、わたしは目的地への道を急いだ。

分厚い水の壁が、地響きのような音を立てて壊れ続ける。
ナイアガラの滝は美しく、恐ろしい場所だった。

足元に広がる地球の裂け目に、自分もすい込まれそうになる。
周囲の笑い声が遠の

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猫の名前は『つばめ』です!(燕尾服のような模様から)
11

行き着く先が見えなくて。

私たちはどこに向かっているのだろう。
どこに辿り着くのだろう。

私の未来に、彼はいるのだろうか。

彼と出会ったのは、大学2年の時だった。みんなで遊ぶ時もなんとなくよく一緒にいて、これといった大きなきっかけもなくいつの間にやら彼氏と彼女になって、あっという間に4年が過ぎた。
笑うポイントも怒るポイントもだいたい一緒で、映画の好みも食の好みもだいたい一緒。常にふたりでいるよりも、お互いの時間を尊重

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『リリカ』7.19

ぼくにむずかしいのはわからないんだ。だからもう、こたえをおしえてほしいんだ。どうして朝の日課をやらなくなったの。
 いつもとおなじように、まぶたをあけたそのときに走りだし、まだねむっているきみの部屋へ、観葉植物の森をぬける、ねむっている金魚の水そうにあいさつして。
 うすいキャミソールから足までをねじり、寝がえりを待つ。まぶたのひふが、うすいから、さわったらいけないのかな。
 きみが、まぶたをこす

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よんでくださってありがとうございます。すごくうれしいです。
3

大童

また、湧き上がる時期になっている。
 様々な祭りに突き動かされる大童たちは、存分に暴れている。

 全力で投げる祭り。
 兵器となる甘い美味ものが飛び交うというのはオレンジ合戦。
 雨のようなジュースに濡らされた大童たちは、ゲラゲラと笑った。

 必死で走る祭り。
 人と狂って駆けている牛たちが速さを争うエンシエロ。
 鋭い角から逃げた大童たちは、いつも自分の速さを他人に誇る。

 猛烈で突き合わ

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この世界の中で、君は、どんなライフスタイルに憧れる?
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『教室』(超短編小説)

我慢は限界を迎えようとしていた。この授業が終わるまであと30分近くもあるのに。

   昨晩、高級さつまいもの鳴門金時を食べ過ぎたことが原因なのはわかっていた。お腹の中でどんどん新しいガスが製造されているのは明白だった。

   もし今、少しでもガスが漏れれば、たちまち教室全体に充満し、やがて犯人探しが始まるだろう。赤面した犯人の表情は一生みんなの記憶に刻まれるだろう。広志は想像しただけで恐ろしか

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【短編】好きだった人が結婚しました #5

好きだった人が結婚した。彼女は生まれた時から一緒だったろうと思う程にずっと隣にいる幼馴染だった。小さい頃は一緒に遊んだし、一緒に寝たりもした。ふたりでこっそり悪戯したことがバレて先生に怒られたこともあった。僕が進学しようとした高校に一緒に行くと言い出して勉強を教えたりもした。大学の卒業式も隣に居た。

お互い別々の会社に就職したものの、週に何度かは一緒にご飯を食べていた。会社の愚痴を言い合ったり、

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自分を甘やかしても、大人になる。

ケーキって、こんなにも甘いものだっただろうか。

いつからか、自分を甘やかす!と心に決めたときは

ケーキを食べよう、という気持ちになるようになっていた。

ケーキではなくても、とりあえず身体にカロリーを与えようと思って

ジャンクフードとか お菓子とか
そういうものを、何も考えずに食べたい、と思う。

なぜか自分の中には

たくさんのカロリーを身体に与える = 自分を甘やかす

という方程式があ

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H.S.S vol.47 「あついお茶でもいれようか」

200ml。
ぼくは知っている。あの現場の後片付けを、この大雨の中ひとりでやったんだ。200ml、それが今日、ぼくが流した汗だ。きっともっと流してるけど、雨と泥とでよくわからない。風はいつもぼくの前から吹いていた。重い材木を運ぶぼくを倒そうとするみたいに。途中で足を滑らせて転んだ。ひどくはないけど、軽い捻挫をしたみたいだ。足場を解体するとき、ボルトがなめていて、外すのがとても難儀だった。終わりの頃

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