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蛍光灯(ショートストーリー)

1Kのひどく古いマンションの一室。
ここでの生活も長くなったが、ずっとここで暮らしたいと思っている。

やはりだ。丸型の蛍光灯が暗くなり、点滅をし始めた。
寿命が近いのは覚悟をしていたが、困った。店はもう開いていない。懐も寂しい。

そうこうしていたら……、消えた。チカッとも光らない。何度もスイッチをカチャカチャしてみたが無理なものは無理。
明日までは豆電球とキッチンの照明だけが頼り。


翌朝、ゴミ置き場に蛍光灯を二本捨てた。
その時、同じような蛍光灯が二本、ゴミ置き場の奥に捨ててあるのが見えた。手に取るとまだ新しい。もしやと思い持ち帰る。

早速、ゴミ置き場にあった蛍光灯を取り付けてみた。点灯。
思ったとおりだ。とても明るい。気持ちも晴れやかになる。
捨ててくれた人、ありがとう。

やれやれ、安心して仕事に出かけた。

夕方、帰宅して、蛍光灯のスイッチオン。
蛍光灯は点灯した。が……。
蛍光灯の明かりは暗い。朝はあれほど明るかったのに。

その時、チャイムが鳴った。
出てみると、何だか変に違和感のある気の弱そうな男が立っている。
「あのぉ、蛍光灯をお返しください」
「ゴミだろ?」
「いえ、それが……、間違えて……。」
言いにくそうにしている。

怪しいと思ったが盗られる物もないし部屋に入ってもらう。

部屋に入るなり、彼は感嘆の声をあげた。

「これです、これです。どうぞお返しください」
詳しく話を聞いてみる事にした。どうせ暇だし。

彼の話によれば、彼は宇宙のナントカという星から来たそうで、地球の調査に訪れていると話した。彼らの星には、地球でいうところの太陽が無い。だから地球のように朝昼晩という概念は無く、季節と言う言葉も無い。地球を訪れて、大きな驚きと感動を覚えたそうだ。

彼の地球についての報告は大きなセンセーショナルを引き起こした。それが彼の星の人々にとって、どんなに憧れの的となったか、彼は目を輝かせてとうとうと話した。

彼の星では、住居の外も内もずっと同じ明るさなのだとか。気温の変化もあり得ない。それが当たり前であった。しかし地球と言う星の現状を知ると、不便とも思える珍しさに憧れを感じたらしい。

それで、彼らは朝と夜の雰囲気を自然に作り出す蛍光灯を作った。時間制御する機能が付いているそうだ。これを各住居で使えば、地球と同じ朝、昼、夜を体感できるのだ。今は家の中だけの楽しみだが。
また、日本の時間帯の明暗を手本にしているとの事。それは日本が『日出る国』だからだそうだが、ちょっと分からない気も。なんだかズレている気もするが、嬉しくもある。彼らの感性はよくわからない。


それだけではない。
これを足がかりに自分達の太陽を作りたいと、彼は夢見るように語った。そうすれば本格的な一日の間の明るさの変化、ひいては誰もが季節というものも体感できるようになるかもしれない。素晴らしい夢を教えてくれた地球に感謝している。

そんな風に彼は話を締めくくった。
彼の話はとても感慨深い。彼らの太陽の完成を応援したいものだ。

私は彼に申し出た。
「その太陽が完成したら、是非とも作り方を教えて欲しい」

「地球人には不要だと思いますが」
「私は地球人だが、地底人なんだよ」

蛍光灯は、益々暗くなっていった。



🐈‍⬛朝昼晩があることも、四季があることも、偶然なのか必然なのか。不思議といえば不思議ですね。 気づいてないけど、地底人は……。



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#地球の公転と自転
#蛍光灯